ほおずきの家 公演情報 HOTSKY「ほおずきの家」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    開演15分前より場内に流れる『新浜(にいはま)ぐんぐんサテライト』、前説のラジオ風録音かと思いつつ、ジェフ・ベックの逝去の話題などいつ録った?と訝しむ。実はガチの生放送だったらしい。(七味まゆ味さんと友部康志氏?)
    そのまんま舞台は開演、北九州の海沿いの架空の町にある居酒屋食堂なぎ。女将(みょんふぁさん)が常連客相手に見事に切り盛り。この居酒屋がかなり魅力的で自分なら何から注文するか、思案する程。最後までずっとこの店で飲みたい気分で一杯だった。ビールが飲みたくなる舞台は良い舞台。
    常連のタクシー運転手役の巨漢・友部康志氏がコメディ・リリーフとして大活躍。お笑い芸人並みに大暴れ。

    テーマは「差別(心の痛み)」、そして「それから顔を背けて生きてきた自分自身」。
    女将の亡き恋人、松本旭平(あきひら)氏が映画青年だった大学生のままの姿で今も脳裏に鮮やかに焼き付いている。ナルシシスティックで向こう見ず、誇大妄想的で夢に酔っ払っていた。まだ現実に打ちのめされて目が醒める前の、かつての自分達自身の残像。
    36年前に亡くなった彼の墓を訪ねて東京からやって来るかつての映画仲間(木下政治氏)。
    女将の一人娘、真波(七味まゆ味さん)は一度も会ったことがない父について思いを馳せる。

    ベトナム人留学生役の佐々木このみさんがガチ過ぎて本物だと思っていた。(足首のタトゥー)。婚約者役の牛木望氏、彼の妹役の菊地歩さんも凄いリアル。(菊地歩さんは女将の学生時代も兼ねた)。
    ただ好きな女の尻を追っ掛け回すだけの役回り、豊田陸人氏は知り合いに似ていて好感。

    鉄鋼業の衰退と共に活気を失っていった町、今では洋上風力発電の巨大な風車が建ち並ぶ。クリーン・エネルギーによるSDGsの時代に合致した新たなヴィジョンを見据え、町に人や活力が戻って来るような追い風を予感させる。

    死者の魂への目印としてお盆に飾られるほおずき。だが海で死んだ者達は海底に沈み、それを見ることが出来ない。海ほおずき(巻貝の卵の袋)を吹いて鳴らす音を道しるべに死者の魂を導く。

    凄く印象的な名シーンがある。常連客で賑わう居酒屋の一席に腰を下ろし喧騒を眺めているような夜。皆が笑顔の裏側に隠し通してきた痛みの数々が垣間見え、はっとする。
    在日三世のみょんふぁさんが最初から最後まで目を惹きつけて離さない。
    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    『昔、日本と朝鮮とは地続きで、その中間に鉄で栄えた街があった。その街は二つの国の争いに巻き込まれ、戦場と化す。日本の王の祈りが神に届き、一夜にして海に沈んで消えたという。街が沈んだとされる海底から今も海ほおずきが沢山取れる。』
    そんな話を夜の海辺で恋人に語るのは映画監督を夢見る青年(松本旭平氏)。
    学生映画で賞を取り話題になった青年は、本名であるキム・シニョンを名乗り在日朝鮮人であることを公表。40年近く前、今より差別が根強い時代と地域、想像を絶する拒絶反応を浴びる。彼の子供を宿した凪(みょんふぁさん)は堕胎を迫られ、独り私生児として育てることを決意。

    木下政治氏はみょんふぁさんに想いを寄せており、大学を中退し、独り娘を産んで育てる彼女を口説いた過去が。36年振りに再会した彼に呼び出されるみょんふぁさん。白いワンピースに口紅、若々しくオシャレをする様が女の色香を漂わす。

    一番好きなシーンは伴美奈子さんが不意に在日であることをカミングアウト。
    外国人への排他的な発言を無意識に口にしていた倉品淳子さんは慌て出す。「私にはそんな差別意識はないのよ」と。
    みょんふぁさんは「そんなこと分かっているわよ。子供を抱えた私が貴女にどれだけ助けて貰ったことか。」
    “差別”とは言葉や字面のことではなく、日々の日常の生活から滲み出るもの。その当たり前のことが見事に伝わった。

    「彼の死を受け止めないことは彼の存在をなかったことにしてしまうことだった。」とキム・シニョンの初盆を迎えるラスト。自分の心の痛みと正直に向き合うことにした木下政治氏はもう一度映画を撮ることを心に決める。

    みょんふぁさんが大学の映画研究会に入った理由、映画愛をもっと語って欲しかった。キム・シニョンの映画『海鬼灯』の内容をだぶらせて語っても良かった。

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    2023/01/13 15:28

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