ひめごと 公演情報 劇団大樹「ひめごと」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い、お薦め。
    劇場に入ると、そこには作り込んだ舞台美術…当日パンフによれば「能舞台」がモチーフになっているらしい。また上演前には韓国民謡の一つ「アリラン」が流れている。その舞台は韓国の一般的な家庭で見かける床暖房「オンドル」をも連想する。下手には大きな柿の木(草月流華道)、そしてカヤグムが置かれチマチョゴリを着た奏者による生演奏、その雰囲気作りは素晴らしい。

    タイトル「ひめごと」…母の そして一人の女性として歩んだ人生、その中で封印した出来事(思い出)を掘り起こすような。人の人生を詮索する事は出来ない、しかし自分に関係しているとなれば話は別である。ミステリアスな展開に興味が惹かれるが、この家に出入りしている母の教え子の存在が日常生活という今を繋ぎ止めている。そして後々 彼女の行為がテーマらしき「存在=生きている」に結びつくような上手さ。それは単に生きているだけではなく、その代々を遡るかのような家族愛を描く。
    (上演時間1時間50分 途中休憩なし)

    ネタバレBOX

    舞台美術は、能舞台がモチーフであるから、上手に本舞台、隙間ある羽目板の奥に鏡板を思わせ実際に松の枝が室内に伸びている。中央に橋掛かりがある。下手は先に記した柿の木とカヤグム、中庭には落ち葉が…風情ある家屋である。登場人物は5人、ある人物が訪れるまでは平穏な暮らしだったが、淡々とした暮らしの中に “ひめられた”事実。毎日 手紙を書き続ける母(元小学校教師)、現代ではインターネットという手軽に出来る通信手段があるが、それでも手紙は過去と今を結びつけるような。

    秋の夕暮れ、真木森生(川野誠一サン)と名乗るルポライターがやって来る。そして40年前に失踪した写真家を探しているという。彼が手にする一枚の写真は…。この家は母・大沢未散(平田京子サン)と娘・翠(白須慶子サン)、そして2階の賃借人・峠(俵一サン)を含め3人。そして未散の教え子・久美(工藤世名サン)が家事手伝いのように出入りしている。序盤は日常のありふれた光景を仄々と描き、何不自由のない平凡な家族を印象付ける。ただ父親がいないだけ。今まで母から父の話を聞き出そうとしなかったが、この写真家の存在が気になりだして…。

    能舞台に関連付ければ、登場人物の役割はシテ、ワキ、ツレ、アイ等になるのであろう。勿論 シテは母、ワキは娘、ツレは峠、そしてアイは久美といったところであろうか。演劇として観れば、平穏な家族(池)の中に 真木という存在の小石を投げ入れ波紋を広げる。40歳まで母娘2人で生きてきたが、翠の心には父とは違う意味で真木への思慕が生まれる。その出生への疑念と葛藤に揺れる女心が垣間見えてくる。それは40年前の母の気持にも通じるのかも、そんな妄想が膨らむ。役者陣の演技は確かでバランスも良い。それゆえ 淡々とした情景の中に味わい深い物語を紡いでいた。

    天真爛漫のように振る舞う久美、その内心に抱えた不安・自信の無さが、命を宿したことによって「生きる」を強く感じさせる。その「生」という存在こそが何物にも代えがたい大切なものと気づかせる。そして峠の存在と独白が重しとなって、より「生」を感じさせるが、さらに「育てる」「見守る」といった その後を強く意識させる(但し唐突感は否めない)。
    舞台美術、未散や翠の衣装が秋らしい装い、そして舞台技術ー暖色照明の諧調によって時の流れ、音楽は勿論カヤグムの金オルさんの生演奏で抒情的な雰囲気を醸し出す。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2022/12/18 15:13

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