美しきものの伝説 公演情報 流山児★事務所「美しきものの伝説」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    YouTubeにアップされている『美しきものの伝説・解説動画』が秀逸。クロポトキン(大杉栄)役・田島亮氏が劇団ひとりのたけしモノマネを駆使して作品の魅力を徹底的に解説。観劇予習として完璧な出来映え。今後こういう作品を上演する際の雛形となることだろう。

    クロポトキンはマルクスのパロディTシャツ『I TOLD YOU I WAS RIGHT!(私は正しいと言っただろう! )』姿に金髪でPUNKS風味。そこらの兄ちゃん姉ちゃんが不確定な未来に向かって情熱を燃やす青春群像劇。唐十郎調。

    名うてのプレイボーイ大杉栄(田島亮氏)と恋多き情熱家伊藤野枝(山丸莉奈さん)の怒涛の日々。
    芸術座を旗揚げした島村抱月(里美和彦氏)とスーパースター松井須磨子(竹本優希さん)の今に語り継がれる悲恋。
    この二組が柱。

    田島亮氏は偉く格好良く、大正ベル・エポックの破滅型が映える。
    1981年まで独り生き延びた暖村(荒畑寒村)役・申大樹(しんだいき)氏の荒野を流離うが如く寂しげな眼差しが印象的。
    ルパシカ(小山内薫)役・鈴木幸ニ氏が好き放題。ロシアかぶれの嫌味なインテリをカリカチュアライズ、客席を沸かす。

    若き久保栄(十河尭史〈そごうあきふみ〉氏)と島村抱月の『大衆と芸術』に対する討論が白眉。「結局のところ、芸術とは果たして何なのか?」の答がうっすら見えてくる。

    「日本は敗戦で滅びた」と仮定して観ると、滅びる宿命の国で若者達が放った一瞬の煌めきのよう。灯滅せんとして光を増す。「アカルサハ、ホロビノ姿デアラウカ。人モ家モ、暗イウチハマダ滅亡セヌ」。

    ネタバレBOX

    ①社会主義運動家
    幸徳秋水の仇討ちを胸に秘め、四分六(上田和弘氏)、クロポトキン、暖村は売文社で雌伏の日々。

    ②青鞜社(女性解放運動家)
    モナリザ(春はるかさん)、サロメ(橋口佳奈さん)、伊藤野枝は女流文芸雑誌『青鞜』を発行して、女性の意識改革を啓蒙。

    ③新劇運動家
    世界標準の劇作を目指して、坪内逍遥と島村抱月が文芸協会を設立。不倫スキャンダルで島村抱月と松井須磨子は脱退し芸術座を創立。ルパシカは自由劇場を結成。“芸術性”と“大衆性”の葛藤。ロマン・ロランの『民衆演劇論』が大きな影響を齎す。

    休憩中、女性客が「隣の男性がマスクをちょこちょこずらしている」と騒ぎ立て係員が取りなすスケッチ。げんなりしたムードの空間、スタッフが「本日は初日です!」と観客を盛り上げて力技で第二幕に繋げた。お見事!

    シーンシーンは美しく決まるのだが、何か流れが途切れ途切れ。狂おしく鮮烈な美しき生き様を観客は欲している。下手な説明をぶった斬って絵で叩き付けて欲しい。松井須磨子と伊藤野枝に解説は不要。理解不能のまま、ただ呆然と眺めていたい。松井須磨子の遺書は素晴らしかった。

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    2022/10/06 15:18

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