青春の会 父と暮せば 【東京公演】 公演情報 ゴツプロ!「青春の会 父と暮せば 【東京公演】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    「助けて!」と泣き叫ぶ姉を残して逃げたことを苦にして、50年間誰にも被爆体験を語らなかった故・高倉光男さん。「原爆だけがいけないんじゃないと思います。原爆がいかんで大砲がいいなんてそんなアホなことありますかいな。戦争はいかん。」
    現実にこういう思いを抱えた人達がうんといたのだろう。

    当日パンフには美津江役・中薗菜々子さんの中学校の卒業文集『わたしの平和宣言』が載っている。彼女は広島出身。今作にとって重要な方言も本物。
    竹造役・佐藤正和氏は今作の発起人でもある。二人芝居を自ら主演で背負うこと、思うだにゾッとする。
    けれどこの二人の役者は実に魅力的だった。他の役も観たくなる。
    館内は啜り泣きと漏れる嗚咽、井上ひさしの最高傑作、是非体感して欲しい。何度観ても新しい発見がある。

    ネタバレBOX

    「わしの分まで生きてちょんだいよォー」
    「おとったんありがとありました。」

    竹造は能天気で無神経、但し原爆の話になると人が変わったように憎悪に殺気立つ。
    美津江は素直で嘘をつけないお人好し。観客もすぐそれに気付いて好感を持っていく。木下のことが好きで好きで堪らない、でもそんなハッピーな自分自身を許せない。あの地獄を一人だけ生き延びた卑怯な自分が、その上幸せになることは不公平だと思う。

    普通に考えれば幽霊の竹造は存在していない。美津江の心の擬人化。どんどん恋が成就していく自身の無意識と理性の葛藤。

    演出に多少違和感。リズムが違うのか、ハッピーな展開とそれを阻むトラウマの葛藤が上手く転がっていっていないような。木下正の存在が目に見えて来ない。
    美津江は焼け焦げた地蔵の顔を見て、あの日の竹造を思い出す。そして一番の自分の心の重しは、誰よりも竹造の死であることを到頭語り出す。ここの部分が父娘の絶対的な絆を示し、どうしても口に出せなかったトラウマの吐露に繋がる。そこに至るまでの美津江の隠し続けた思いがこの作品の核、そこの部分が足りないような。

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    2022/09/02 06:16

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