実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2022/08/12 (金) 19:00
夏の日差しが強い中、旅人の男ははっきりとどこといった固有名詞のない駅に降り立ちつ。
閑散としていた駅はやがて人々で賑わい、遊び、歌い、そして踊っているが、それを傍から眺め、時に関わる旅人の男は彼らに、そして今自分がいる空間に何か違和感を感じ、この駅に降り立った本当の理由を懸命に必死になって探し、物語が進むにつれて段々と旅行者の男の本当の名は牧陽介で、今自分がいるのは牧陽介の記憶の中の世界だということ、現実の未来の牧陽介は、心を閉ざし、現実から目を背け、部屋にずっと引きこもっていること。
また、記憶の中の自分は、現在の牧陽介だということ、そして記憶の中で関わった学生は過去の自分だということ、過去の自分がある事をきっかけに責任を感じて、将来的には引きこもってしまったことなど、過去と現在と未来の牧陽介を同時に介在させて、さらに記憶の中にはもう亡くなった若かりし頃のお母さんが出てきたりと、伏線が複雑に絡み合い、色んな要素を同時多発的に盛り込み、進行させ、余計に物語を分かりづらくしている部分もあったが、その複雑化し、終わり方は多少希望が見えるものの、はっきりとした答えを出さず、記憶の中の出来事が、本当に記憶の中だけで繰り広げられていたのかどうかも判然とさせない終わらせ方に共感し、眼にしっかりと焼き付いて離れない、素晴らしい劇だった。
牧陽介とお母さんとの物語や学生時代の事故があった後のやり取り、奥さんとのやり取りの物語が印象的で、グッと来て、感動した。
劇中、シリアスで緊張する場面も多く、また、大人の引きこもりをテーマにしていて、かなり重い内容なはずだが、良い意味でくだらなくも、笑える場面も多く、自然と大笑いできて、気分もスッキリと出来て良かった。
劇が始まる前にあらすじを読んだ感じの印象だと、別役実に大きく影響を受けた作品なのかなと思ったが、確かに劇の途中まではそう思わせるような不条理劇の節があったが、後半になるにつれ、真相が明らかになっていき、良い意味で、予想を裏切られたと感じ、大いに劇を楽しめたと感じた。