て 公演情報 ハイバイ「」の観きた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    孫の手ではなく、祖母の手だった
    再演を初見。これは面白かった。祖母の死を軸にして、集まった家族の肖像が描かれる。作者の岩井秀人があちこちで語っているところから判断して、内容は彼の家族のことを描いた実話がベースの作品だろう。少なくとも、こちらはそういうつもりで見た。

    ネタバレBOX

    父親の暴君ぶりが家族全体に暗い影を落としている。ドメスティック・ヴァイオレンスの一例といっていいのではないだろうか。妻と4人の子供。子供は男女二人ずつ。作者に相当する人物は次男だろう。90歳を過ぎてだいぶボケの症状が出てきた祖母。彼女の見舞いを兼ねて久しぶりに家族全員で集まろうといいだしたのは長女らしい。両親の家と祖母の住む家が分かれていて、家族は祖母の家に集合。カラオケ大会になる。子供のころにずいぶん父親から暴力を振るわれた子供たちも今は成人している。同等に父親の暴力をこうむったようでも、その程度や受け止め方には個人差がある。わきあいあいと宴が進むはずもなく、軋轢が生じるたびに、家族の関係が観客の前に提示されていく。その夜、祖母が息を引き取る。そしてキリスト教の神父だか牧師による葬儀が行われる。

    葬儀を軸にした家庭劇というのはそれほど珍しいものではないが、描き方の点で面白いのは、まず作者である次男の視点で一連の出来事を描いたあと、たぶんだいぶ経ってから作者が家族にあれこれと取材したのだと思う、当時の家族の行動を追加して、葬儀前後の出来事を再構築していることだ。したがって同じ場面が別の角度から再び描かれたりする。映画で今思いつくのは、ガイ・リチー監督の「ロック・ストック&ツゥー・スモーキング・バレルズ」あたり。実話だという強みに加えて、この独特の構成が作品を非常に面白くしている。ただ、やはりいちばん興味を引き付けるのは家族そのもののユニークさ。

    家族に与えた影響の深刻さがまるで理解できていないように思える父親の頑迷なまでの厚顔さ。祖母と過ごす時間の長かった長男が長女との口論の中でにじませる祖母への思い。母親が娘に語る忍従の理由と、夫へ離婚を切り出すときの呪詛にも似た決別の言葉。どれも印象深い。

    脚本というよりも演出面だと思うが、母親役を男優が演じたり、90過ぎの祖母を若い女優が演じたりしている。笑いを取ろうとか、深刻さを和らげようとか、そういう意図でやっているのかもしれないが、個人的にはまったく不必要だと感じた。いったんこの家族の深刻な関係に興味を覚えてしまうと、笑いなどは全然必要なくて、とにかくこの家庭劇の顛末が知りたくてしかたがなくなるのだ。母親を演じる男優がときどき男っぽい地を出した演技をしたときに客席から笑い声が起こっていたが、そういうときでも私はまったく笑う気がしなかった。思うに、母親役だけを男優が演じているというのは、何か特別な演劇的効果をねらったとかそういうのではなくて、単に母親への思い入れが強すぎることからくる、作者の一種の照れ隠しではないかと思う。もしこの作品が映画化されるとしたら、おそらく普通に歳相応の配役がなされるだろう。そう考えると、これはあくまでも舞台劇ならではの演出ということになる。

    役者はおおむね好演だったが、特に父親の猪俣俊明、長男の吉田亮、長女の青山麻紀子がよかった。

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    2009/10/03 23:52

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