歌劇『天守物語』 公演情報 呼華歌劇団KOHANA「歌劇『天守物語』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    初見の劇団、未見の演目、そして原作の泉鏡花「天守物語」も未読という初々ものの公演。この劇団は女性だけで構成されており、歌劇としてエンターテインメント色が濃く、魅(観)せるといった印象が強い。何となく宝塚歌劇団(大階段はないが、舞台美術が華やかで、雰囲気が似ている)ような。
    物語は泉鏡花の執筆中…自分が描きたい恋愛観をどう表現するか、その脳内思考を華麗に彩りながら展開していく。妖(あやかし)と人の恋愛…立ちはだかる悲しい定めを乗り越えて、恋が実るのか悲恋に終わるのか、それは作者(泉鏡花)の思い次第である。
    (上演時間2時間20分 途中休憩なし)【Aチーム】 

    ネタバレBOX

    舞台美術は、中央が白鷺城天守閣という設定で、階段状になっている。天井(上)部に龍(又は獅子)頭のようなオブジェが吊るされ、異界であることを表す。階段上の左右に朱色欄干と大藤棚があり概ね対称をなす。上手に花道があり陣幕のようなもので仕切られている。紗幕で舞台の前後を仕切り、場景に変化を見せる巧さ。衣装も着物姿、武士紋付き袴姿、変わり衣装として不老不死の御婆(不老なのに婆?)、風神・雷神姿、擬人化した鷹姿などの凝らし工夫が、情景に上手く溶け込んでいた。

    泉鏡花が執筆中という劇中劇仕立て。自分はどういう恋愛ものを描きたいのか分からず苦悩している。何度も推敲をくり返し、取り合えず書き進めるが…。
    妖の視点で観ると、生(命)と人間との恋愛の両立は出来ないという不条理が存在する。人間の命を喰らい妖力を維持しており、結果として天守閣の結界を維持している。この天守閣の主は世にも美しく残忍な富姫(鳳あづまサン)、その妹分で猪苗代城に居る亀姫(ゲスト出演:花柳亜寿菜サン)を中心に御伽や妖たちが妖艶に登場する。

    物語は、白鷺城天守閣には豊臣秀吉が遺した財宝があり、領主はそれを望んでいる。しかし 天守閣に誰も近寄ることが出来ない。ただ何故か鷹匠の図書之助(剣 颯天サン)だけが天守に近づき 富姫に出会ってしまう。そしてお決まりの禁断の恋に落ちてしまう。
    他方、結界を結ぶ(守る)ために必要な妖が、人間界へ降りた時に見初めた若武者と恋に落ちてしまう。この二つの出会い、悲しい定めの恋物語によって妖と人間(武士)の戦いが始まる。このシーンを支えるのが、舞台技術である。効果的な伝承わらべ歌「通りゃんせ」が物悲しく聞こえる。照明は色彩鮮やかな、上・下や目つぶし効果など多彩な照射が臨場感を生む。

    公演の魅力は、異界と人間界という住処が違う恋愛話をベースに、欲と権力に驕れる人間を描くことによって、人の世の醜さが浮き彫りになる。同時に妖という人間にとって得体のしれない魔物に純な思いを見出すことが出来る。視点の置き方で見方が変わるという典型的な物語である。

    何より妖(童女も含む)たちが皆美しく、立ち居振る舞いも流麗だ。そして武士との戦いでは殺陣も見事に演じる。見た目だけでも楽しめるが、描(書)く恋愛話、それが本当に自分が書きたい内容なのか自問自答する作者の思いが随所に挿まれ「力」ある物語になっている。勿論、鳳さん、花柳さんの歌は上手で公演の”華”であろう。中盤の撮影タイム、ラストの舞踊・群舞などのレヴューというかショーを観せるというサービス精神も嬉しい。
    次回公演も楽しみにしております。

    0

    2022/05/20 17:01

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大