飛ぶ太陽 公演情報 劇団桟敷童子「飛ぶ太陽」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    この作品を観れたことに素直に感謝。ここまで真剣に物作りをしている人達と相対すると、こっちも真剣に向き合わざるを得ない。鈴木めぐみさんにやられ、とことん泣かされた。取材を重ねた上での脚本の苦悩が如実に感じ取れる。書いては消し、書いては消しを繰り返したボロボロの原稿用紙。もうこれ以上、何も消せないし記せない。そこで生まれたであろう台詞、「生きることは戦いである。決して勝つことのない戦い。負けて負けて負けて、昨日も生きた、今日も生きた、明日も生きるだろう。」
    地獄巡りの果てに一体何があると言うのか?きっと何もないのだろう。ただ今日一日を生きるのみ。

    昭和20年11月12日午後5時19分、二又トンネル爆発事故発生。(実際は午後5時20分)。山が跡形も無く吹っ飛ぶ大爆発で死者147人、負傷者149人、町は地獄絵図と化した。

    主人公、復員してきたばかりの青年吉田知生(ともき)氏。徴兵された軍隊で徹底的に虐められ、弱い自分に育てた母を憎んでいた。女手一つで育ててきたその母、行商人の鈴木めぐみさん。無学、無教養、常に他人の顔色を伺い媚びへつらう弱者。彼にはそれが許せなかった。同じく行商人の板垣桃子さんは両親を早くに亡くし、妹を自分が育てた。病気がちな妹、小学校の女教師の宮地真緒さん。

    オープニング12分から舞台が爆発する。

    ネタバレBOX

    吉田氏は全身バラバラに吹っ飛び肉体は四散した。息子の身体を掻き集めようと鈴木めぐみさんは手を伸ばすのだが、その両腕はもぎ取られていた。生き延びた鈴木めぐみさんは退院後自殺しようとする。「手がないとうんこしても尻も拭けない。迷惑をかけたくない。人に拭いて貰うのは嫌だ。見られることが恥ずかしい。」行商人仲間の川原洋子さんは叫ぶ。「全然迷惑なんかじゃないよ。私はトワさんのお尻が大好きだよ。」

    吉田氏は死後の世界でも苦しみ抜く。「死んだら安らかに眠れるなんて嘘だ。ずっと悔いて苦しみ続けるだけだ。」母に投げかけた罵声の痛み、本当に自分のことを大事に思ってくれたのは母親だけだったのに。
    病気の自分の為にどんぐりを集めようとしてくれていた小学生29人が爆死。宮地真緒さんは精神を病み、奇行の果てに死んでいく。ほとほとその対応に疲れ果てていた板垣桃子さんは、妹の死にほっとする。

    ラスト、妄想の過去の世界で復員してきた吉田氏が駅のベンチに座っている場面が繰り返される。宮地真緒さんがお握りを勧め板垣桃子さんが彼の素性に思い当たる。彼は笑顔で「そうです。母のもとに帰って来ました!」と挨拶。その場に迎えに来る鈴木めぐみさんの満面の笑顔。

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    2021/12/06 13:09

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