タージマハルの衛兵 公演情報 東京演劇アンサンブル「タージマハルの衛兵」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    二人芝居はつまらなかった時の気の紛らわし方に難儀するので、出来れば避けたいところ。今作は戯曲が余りに評判が良かった為、足を運んでみた。インド系アメリカ人、ラジヴ・ジョセフの作。舞台には可動式の巨大な仕切り用ガラス板が五つ。

    1648年ムガル帝国(現インド)の首都アグラ、タージマハル完成前夜が舞台。タージマハルは完成までに16年(実際は22年?)掛けた総大理石の霊廟。「建設期間中は誰もタージマハルを見てはならない」と皇帝は命じた。いよいよ明朝お披露目をすることとなる前夜、その門の前に立つ幼馴染の二人の衛兵。フマーユーン役小田勇輔氏の厳つい風貌は「あばれはっちゃく」の父親役で有名な東野英心を思わせる。バーブル役篠原祐哉氏は山本KIDっぽいやんちゃな愛嬌で無邪気に空想を語り続ける。
    世界で最も美への造詣が深い天才建築家、ウスタッド・イサが二万人の職工を指揮して造り上げた究極の建造物。しかしそのイサは皇帝への些細な進言により、その両手を叩き斬られることに。
    皇帝曰く「タージマハルに並ぶ美しい建造物を今後決して生み出してはならない」。

    見てはいけない、とされるタージマハルを我慢が出来ず到頭振り向いて見てしまう二人。そこで舞台は暗転し物語は第二場へ。二匹の鬼が世界を鮮血で塗り潰し邪悪な悪夢へと染め上げる。ペイントを施した雨宮大夢(あめみやひろむ)氏と和田響き氏の狂騒。雨宮氏のノリノリのハイ・テンション振りが心地良い。
    一体、何が起きたというのか?

    ネタバレBOX

    二場はグラインドコアなスプラッター。無数の斬り落とされた血塗れの手が籠に溢れ返り、ラックの中にはその籠が満載に積まれる。一人で四万本の手を刀で斬り落とすなんてのはファンタジーの世界で、どれだけ時間が掛かるか分かりゃしない。過剰な悪夢の表現。
    皇帝の命で建設に関わった全ての職工の両手を斬り落とす二人。バーブルはひたすら両手を斬り落とし、フマーユーンは焼きごてで傷口を焼いて止血する。血糊の洪水、ガラス板に残された無数の血の手形、むせ返る臭いが辺りに立ち籠める。フマーユーンは目が見えなくなり、バーブルは握った刀が手から放れない。バーブルは「俺は世界から”美“を殺してしまった」と嘆く。温かなお湯で彼の全身を拭いてやり、新しいシャツに着替えさせるフマーユーン。第一幕はここで終わり。

    休憩時、6、7人のスタッフ総出で舞台上の血糊をひたすら拭き取る。余りに大変な手作業、毎回これをやるのは思うだにきつい。だが、延々と見せられたその光景は理由もなく美しかった。

    第二幕は三場ある。
    バーブルが皇帝暗殺の計画を口にした為、“兄弟”(バーイー)と呼び合う程の親友を売り、その両手を自ら叩き斬ってしまうフマーユーン。焼きごてでの止血はせず、バーブルはそのまま死んだのだろう。エピローグの第五場では、十年後一人衛兵として門の前に立つフマーユーンの姿で終わる。
    つまらなくはないのだが、第二幕に余り内容がない。
    想像力を刺激する言語センスは素晴らしい。
    湖の水面一杯をピンク紫緑の鳥が埋め尽くしている光景、芳しき匂い香る白檀で作ったツリーハウス、日の出に照らし出されるタージマハルを「まるで月が川に落ちてきたようだ」との譬え。エアロプラット、持ち運び式抜け穴などの空想対決。

    時系列を入れ替えて第一場と第五場を逆にしたい。
    空虚な日常を送る衛兵が何度も過去を追憶し、居る筈の無い友の名を呼ぶ。ここから始まり、何が起きたのかを過去に遡って語る。ラストは無邪気な二人の在りし日の遣り取り(第一場)。ラジヴ・ジョセフには余計なお世話だろうが。

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    2021/09/12 13:25

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