映像鑑賞
満足度★★★★★
チケット代が1万円になりすっかりご無沙汰のこまつ座であるが、評判だという「日本人のへそ」。この舞台写真をみて、俄然、観たくなった。ミュージカル界のプリンスと言われている井上芳雄がチンピラやくざの役を演じるって? 見たいじゃん、やっぱり。
どもりの矯正のための芝居と称して、劇中劇中劇という入り組んだ構造、どんでん返しの連続で舞台は進行する。
井上芳雄が、どもりのサラリーマンから岩手の貧しい出稼ぎ百姓、やくざの若頭?アメリカの大学教授と、ふり幅の大きい何役もをこなすだけでなく、出演者全員がおなじようにふり幅の大きい何役もの役を早変わりで演じて見せてくれるのだ。
芸達者な役者たちで、お得意のお芝居だけでなく歌や踊りも巧みに見せてくれてる。役者の歌はプロの歌手より上手く、踊りはプロのダンサーより上手くないと舞台では通用しないと聞いたことがある。まさにこのエンターテイメントはプロの実力のある役者だからこそと思う。
演じられるのは、社交界の恋物語などというロマンティックな話ではない。農村の貧困・女性差別・ジェンダー・非正規労働の格差・政治の不正などをなんとも楽し気に歌って踊ってみせるのだ。嘘とペテンの浅草を人間世界はもとよりこんなものだというように生き生きと描いている。
圧巻は、職人の親方からやくざ、右翼の親玉、政治家と延々とつながる男のホモセクシャルな関係で世の中が動いている様子をこの和製ミュージカルは実に楽し気に演じ上げていく。
児童合唱団に扮した役者たちが、世の中の不正や残酷さをエロい歌詞ときれいな合唱で歌い上げていくシーンは舞台の毒がたっぷりと味わえた。笑いのめしてしまう痛快さの中にチクリと風刺。
セーラー服からストリップ嬢、政治家の東京夫人へのなりあがっていく役を演じた小池栄子の脱ぎっぷりの良さと着物姿の貫禄に、驚いた。
演劇の舞台で井上芳雄を初めて見たのは、2013/1/29 広島市文化交流会館での「組曲虐殺」の広島公演である。ミュージカル界のスターも芝居は今一つだなと思った印象がある。ところが、いまやもう堂々たる役者っぷりではないか!やっぱり生で観に行きたいよ~と思った私。
全国巡演はまだ公演中です。悩ましい限りだ。