実演鑑賞
満足度★★★★
井上ひさしの戯作者ぶりがよく出ている処女作を、きれいにまとめた。栗山民也としても会心の舞台で、お見事!と言うしかない出来だ。この作者の後半生の作品は次第に「庶民の倫理正義感」が強く前面に出て、それはそれでいいのだが、この処女作が書かれたときのような世間の全てを笑い飛ばす活力はなくなっていた。
作品が時代を経ていく過程では仕方がないともいえるだろうが、このきれいにまとまった舞台からはこの作品が書かれた時代(1969年)の猥雑さは影を潜めている。逆に、この作品が素材にしている差別や性表現や障碍、ジェンダーの話題は現代では「自粛」の対象となるものが多く、それを思うと、何かこの無意味な自粛劇場でこの芝居を観るのも、歴史の皮肉のような思いだった。69年、エコーの芝居が面白いという風の噂で、見てみようと何度も試みたがとうとう見ることはできなかった。その時に「二階の照明席のわきに一人入れるんですが、いつ落ちるかわからないので、お客様を入れるわけにはいかないんです」という劇団の答えはいまも覚えている。その舞台は、素朴、未熟ながら時代に密着していたに違いない。それは芝居というものの宿命のような気がして、粛然とした。