満足度★★★★★
鑑賞日2021/03/11 (木) 12:00
座席1階
劇作家・井上ひさしの実質的デビュー作という。初演は1969年にテアトル・エコーが行った。こまつ座としては震災のあった2011年以来10年ぶり。演出の栗山民也は1985年の公演がこまつ座での初めての演出だったそうで、今回が4回目。いろいろ歴史のある井上喜劇だ。
見終わって、いや見ながら思ったのは、役者たちの大変さというか、これは死ぬ気で向き合わないと演じられないな、と。実際に、栗山は出演者たちに「これまでの自分を壊すような気持ちで」という趣旨の指示をしたというが、実力派俳優たちも自分がこれまでやってきた実績とか経験とかをすべて忘れて飛び込んでいかないと、それこそ舞台から弾き飛ばされるような勢いなのだ。
あのバイデン大統領もそうだったという吃音症を、さまざまな役を演じることによって治す試みだということを、学者役の山西惇が冒頭、説明する。「患者たち」が舞台を歩き回りながら唱える「あいうえ王」は、井上ひさしの言葉遊び。繰り広げられる劇中劇が、本作の舞台である。
劇中劇の一つが、昭和の香りが色濃く残る浅草のストリップ劇場だ。朝海ひかるや小池栄子らスタイル抜群の女優たちが長い手足をピンと上げての演技は圧巻である。SKDも顔負けの、脚が描く真っすぐな直線、ぴたりと合ったすばやい動きは拍手喝采ものだ。すばやいと言えば、各劇中劇で早変わりが連発するところはものすごい。一人何役も与えられているのだから、観ている方が目が回りそうである。「日本のボス」の劇中劇は、料亭政治を皮肉っているようなところがあって風刺も効いている。
「ハチャメチャ」と言ってしまえばそうなんだけど、劇中劇の一つ一つが非常におもしろくて、それが連続して繰り出され、客席もついていくのに必死という感じなのだ。
ラストのどんでん返しもいい。
出演した俳優たちを一回りも二回りも大きく鍛え上げるような、まるで道場だ。これをこなした出演者たちは、相当な自信を得たのではないか。