ジプシー 〜千の輪の切り株の上の物語〜 公演情報 ことのはbox「ジプシー 〜千の輪の切り株の上の物語〜」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    人の生き方を力強く、そしてハートフルに描いたちょっと不思議な物語。

    (上演時間1時間40分) 【Team葉】

    ネタバレBOX

    芝居は映画と違い、その時、その場だけの新鮮さが最大の魅力であろう。脚本の魅力は、そのテーマというか主張の鋭さ面白さとすれば、演出はそれに息吹を入れることだろうか。

    「ジプシー・千の輪の切り株の上の物語」…時代はバブル最盛期、その当時を象徴する土地神話、それを当時の典型的な若夫婦に語らせる。
    念願のマイホーム、その建設中のマンションに「流浪の民」であるジプシー一家がやってくる。彼らは梅雨の時期だけ住まわせてほしいと強引に住みついてしまうが──何とか彼らを追い出そうとする夫婦だが、次第に奥さんが彼らの生き方に共感を覚え始め──という物語である。何となく奇天烈のような物語だが、その描くところは鋭く、単に時代(背景)に対する風刺だけではなく、人の生き方を問うている。

    バブル当時の物欲への批判的なシーンが印象的であり、今となっては、バブル崩壊後の失われた経済活況を振り返れば含蓄ある台詞の数々。…過ぎたことを悔やめば、無くした物が惜しくなる。先のことを思い煩えば、無い物が欲しくなる。どちらも、ただ物が増えるだけのことだ。物が増えれば、もう旅には出られなくなる……物に縛られて動けなくなるか、何も持たずに自由でいるか、私たちは迷わず自由の方を選ぶ。
    とは言え、世代的には夫婦(夫)の感情に近く、自他所有(コンビニ商品含め)関係なく我が物にするところに異論が…。

    一見、楽観的な夢物語の戯言に聞こえるが、目先だけではなく、もうほんの少し先を見据えさせることで、観客の思いに訴える。時代背景の現実性とジプシーという夢物語をうまく調和させた脚本。その脚本の面白さを十分引き出す演出が巧みだ。例えば鳥の浮遊感をイメージした衣装、小躍りしたようなパフォーマンスは地に足を着けない、物にこだわらない自由さを表現しているようだ。建築現場のコンクリート=人工、森林=自然というイメージ対比を舞台セットと音響(羽ばたきと風)・照明(夜中=薄暗さが神秘的な自然空間)でうまく表現している。

    さて記録(記憶ではない!)という点では、戯曲は映画に劣るかもしれない。また小説のように想像性をかきたてない(直視しているから)。しかし役者の身体を以て、瞬間瞬間で物語を紡ぎ実体化する、そこに芝居の醍醐味を感じる。まさに本公演のようにー。
    次回公演を楽しみにしております。

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    2020/04/05 23:11

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