酔いどれシューベルト 公演情報 劇団東京イボンヌ「酔いどれシューベルト」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    偉大なる音楽家、シューベルトの苦悩と栄光に隠された秘密を、彼の夭逝と作曲数の多さに着目した東京イボンヌの代表作。この演目は何度か再演しているが、本公演は完全リニューアル版という。彼の音楽に捧げている人生を苦悩と焦燥に駆られた姿を通してリアルな芸術家像として描いているが、その苦悩の過程を身近に観ている恋人からすれば、音楽など諦めて地道な仕事をしてほしいと願って...。そこに音楽に魅せられた栄光と悲哀を観ることが出来る。
    (上演時間1時間30分)

    ネタバレBOX

    上手側はバーのテーブルと樽椅子、下手側にカウンターを作り物語の展開を促す場所としての役割を担う。舞台全体は焦げた平板を組み合わせたような壁・床で、その色彩は落ち着いた雰囲気を出している。そして、場面によって印象付を強調するため正面上方から照明を諧調させるなど巧い。

    梗概...シューベルトは恋人との結婚を望んでいるが、なかなか世に認められる曲が作れない。そんな悶々、苛立ちの中にある。一方、恋人は家族(父の医療費、妹達の生活費)のために心ならずも金持ちバロンへ嫁ぐことを決心する。シューベルトの落胆と恨み、そんな時、酒場に悪魔が現れ、美しい曲をプレゼントする代わりにシューベルトの寿命(1カ月)を縮めるという。悪魔の誘いに乗り、多くの名曲を残したが...。寿命があと1カ月になった時、恋人の真心を知り、また自分自身による作曲でないことへの絶望が切ない。
    バロンの呟きは「金持ちになる秘訣は、悪魔に魂を売ることだ」というもの。世に認められる曲のために、1曲につき寿命1カ月を悪魔にさし出す、という契約が成り立つ経緯である。

    さて、もともと悪魔などは存在せず、自分の心に巣くうもの。恋人はシューベルトのため神に祈っていたが、その行為こそ神との対話であるという。神も悪魔も自分の心の中。今まで作曲したものは全て自分の力であり、まさに命を削った結晶である。荒み焦り余裕のない心の隙に入り込んだ己自身の弱き邪悪な心との葛藤という姿が浮き彫りになる。
    今までに観た「酔いどれシューベルト」は規模こそ違うが楽団を従え、生演奏を聴かせて”音楽という世界観”を舞台全体で感じることができた。この公演ではストレートプレイにリニューアルしたことで、よりシューベルトの人間性と時代背景に焦点を絞っているが、彼の音楽家としての観る・聴かせるという両方の魅力は伝えきれない。

    この劇場規模では難しいが、やはり”音楽の世界観”が存分に味わえる演劇技術、特に音響には”聴かせる”という魅力が演出できればと思っている。ラストに流れる「アヴェマリア」は物語の底流にある人間讃歌、その心象付けといった効果をもたらしており、このようなシューベルトの歌曲も劇中歌に挿入するような工夫がほしいところ。
    次回公演を楽しみにしております。

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    2019/11/27 23:30

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