アリはフリスクを食べない 公演情報 やしゃご「アリはフリスクを食べない」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    やしゃご『アリはフリスクを食べない』@こまばアゴラ劇場

    親が亡くなり知的障害を持つ兄と暮らすことになった弟と、彼らを取り巻く人々の話。

    説明なしにそれぞれの関係と背景を見せていく、脚本の上手さ。

    (実世界では、あたり前のことなのだが)誰もが1つの役割としての性格や設定を持つのではなく、ちょっとしたエピソードや台詞・会話によって、その人物像に深みを持たせている。
    だからリアルであり、人間の(他人の目から見た)可笑しさ、哀しさが感じられる。

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    ネタバレBOX

    登場人物たちの配置も見事だ。例えば加奈子の母がいることで、障害者を家族に持つということを、智幸と歩の兄弟からの視線だけでないものを見せてくれるし、母の「触らないで」の一言も、それだけで物語全体への意味を持ったりもする。

    「正論」として振りかざす手の空虚さを感じつつも、その正論に共感したり、でも「しょうがない」という気持ちにも納得したりする。
    もし自分が同じ立場であったとしても、やっぱり正論を振りかざしてしまいそうだし、苦渋の決断もするであろう。

    つい「誰が悪い」とか「何が悪い」と「悪いもの・こと」を追いがちであるが、この物語を観ることで、そうした考え方が果たして良いのであろうかと疑問を投げかけてくる。
    つまりそれを追うことが、差別につながってしまうということにも気づかされるのだ。

    他人から見る場所からは、正解は見えない。
    それぞれが、それぞれの立場で考えることが正解なのだろう。

    「私たちだったらどうするか?」「私だったら何という言葉を発するのか」という投げかけを受けて、帰り道もずっと考えるというのも良いことだった。

    知的障害を持つ兄役の辻響平さんがとても良かった。
    弟・歩の婚約者を演じた幡美優さんの後半の絞り出すような台詞もいい。
    兄弟の幼なじみ・舘そらみさんの自然体の優しさが良いから、ラストにちょっと哀しくなってしまう。
    工場の社長・工藤さやさんの、工場を急に任され、実は少し無理しているのかも感もいい。
    知的障害があり兄弟と同僚役の井上みなみさんのインノセントさからくる叫びが、ヒリヒリする。
    三上(男のほうの)役の尾崎宇内さんの「何かが起こりそう」さを孕む、ヒヤリとした冷たさがたまらない。

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    2019/09/08 05:58

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