満足度★★★★
内容では東京2012に、俳優では宮城1973に食指。一作のみ観劇可で悩ましかったが無理やり順位をつけ、東京2012を拝見した。新作の方はまた再演のチャンスも...と期待する事にする(その際も是非福寿奈央氏に)。
事件を私は殆ど覚えていない。初演の2012年、被災地宮城だから作者はこの題材を選んだのだろうと想像する。血の繋がらない家族の物語だが、家族内の関係が適役の俳優によって浮かび上がる幸福に浸った。開演まもなく、前列の客が携帯着信バイブ音に「どうしよう」と慌てながら決して切ろうとしないのにイライラむかむか、1分近く舞台上は幾分激しく動くていたが台詞情報が頭に入らず。にも関わらず人物の関係性は損なわれず肌に入って来たのは、役者がその人物として存在していた証だ。言葉の謎掛け・謎解きで注意を引っ張るタイプの芝居でなく素直に人物を描いて行くTOKYOハンバーグの真骨頂に救われ、空白時間とならずに済んだ(その女性には終演後苦言しておいた)。
それぞれがそれぞれらしく生き、悩み、「家族」の紐帯の中から力を得て前へ進んで行く涙ぐましくもいじましいドラマ。言わば「血縁」以上に情に結ばれた、理想的な家族像がそこにある。「人と違う」不遇が育んだ連帯意識なのか、血縁でない以上「関係」を必然化する事が暗黙に目指された結果なのか・・。そうした説明は芝居には一切ないが、台詞の中に様々な思いが沸々と渦巻く様が想像され、存在の輪郭がリアルに迫ってきた。
ただ・・震災直後の日本で、打ちのめされた心を癒す彼らの心遣いを描きたかった書き手の思いを想像しながら、今は、残酷な結末もあり得ると想像する余地を与えない綺麗にまとめたラストには、少し物足りなさも残った。
最後に置かれる結語には、人の善意や優しさが当てにならない事もある「未知数」な未来を警鐘する要素を持ってもいい、そんな気がした。この事件の当事者である医師や、子をもらい受けた夫婦は善意の人であり良いことをした、果たしてそうなのか・・突き放される事で観客は、結論を自らの思考によって選択する、その決断に委ねる余地がほしかった。十中八九、客は善意の選択をしようが、そうする事で己にその選択には責任が伴うことになる。激しい雨の夜、病院の待合室で他人の赤ん坊の誕生を待つ夫婦のシルエットが、冒頭とラストに出てくる。ラストの扱いは多様に有り得て、迷う気がするが、上の感想を反映するとすれば私はシンプルに、二人が命を待ち続ける姿を残して暗転、がいい。安易と言われるかも知れないが。。