キネマの神様 公演情報 秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場「キネマの神様」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

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    青年劇場らしい笑いあり涙ありの、少々「出来すぎ」な人情喜劇、それが休憩込み3時間という長丁場。にもかかわらず最後までだれる事なく興味深く観た。
    ドラマの太い柱は映画愛。それも都内の名画座(モデルは飯田橋ギンレイホールとか)が舞台となっている。映画「ニューシネマパラダイス」の各テーマ曲がオープニングから随所に流れるが、曲負けしない内容である。古き良きキネマの全盛期から変貌を遂げた映画産業の現状にフォーカスした点も、ある年齢を超えた層にはウケが良いだろう。もっとも映画は演劇ほど周縁化されてはいないと思うが。。

    映画関係に勤め、実績も積みながら今岐路に立っているらしい主人公のエッセイがBGM付で読まれる。彼女は、父が映画評(感想)を書き付けた何十冊もの大学ノートを発見する。ギャンブルで平然と借金を作る奔放な父(原作者原田マハの実の父がモデルだという)の唯一の健全な?娯楽が映画。その父が頻繁に出入りする近所の名画座が、エッセイの題材。ドラマの初動は、家族のお荷物であった父が映画雑誌の出版社からの申し出を受け(これには娘も噛んでいる)、映画愛全開で映画評を書き始める、というもの。だが家族がホッとしたのもつかの間、父は自宅に寄りつかなくなる。実はネットカフェに通いづめ、そこを仕事場に四苦八苦キーボードを打っていた。出版社へはメールで原稿を送る。だがキーボードを打つ手は亀並みに遅くたどたどしい。見かねたネカフェの若い従業員が援助を申し出たり、世代のギャップを物とせず突き進む疾走感が良い。疾走の先には、、ネットに上がった映画評にやがて厳しい反論にして優れた評論(英語で書かれたものを翻訳して掲載)が寄せられるようになる。それに「父」も反論し、そのやり取りが一部で評判を醸す。最初の勝負は「父」の降参に終わる。父は何せ素人だが鷹揚な性格でもあるらしく、やり取りを楽しむ風もあってちょっとした人気を博するにまでなる。出版社の狙いは当ったという訳だ。最後には降参の旗を上げる父だが、「次はこれだ」と弾を打つ。・・そんな折り、娘の旧友が渡米する事となり、翻訳を依頼していた彼女がコメントの主をやがて突き止める事になる。今は引退した名だたる映画評論家の名が浮上し、そしてそれが事実であったという所で、出来すぎ感も極まるが、これが不思議と「あり得る」と思わせるのは、部分的にだが書かれた文章、著名な映画の評論文が(父・反論者ともに)紹介され、それがある説得力を持つ故だ。おざなり感を回避している。そうして物語の「疾走」は行き着く所まで到達したかに見え、そしてはたと現実に突き当たる。父、そして好敵手たる評論家が迎えている「老い」であり、そのその先の死である。
    ・・私が見事と感じたのは以下。「父」が書く称賛の評論に対し相手はそれを厳しく指弾するという構図が、やがて孤独な評論家が父の前に心を開いたかに見える。その事じたいは、相変わらず「出来すぎ」なのではあるが、これはこの芝居の基調に流れる「ニューシネマパラダイス」のドラマ性と位相を為している事。その事によってこのドラマは中々深みのある完結を迎えた。映画を観た人なら、「あの感じ」は判ってくれそうに思う。

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    2018/10/28 09:47

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