けしてきえないひ 公演情報 F's Company「けしてきえないひ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    鑑賞日2018/01/27 (土)

    人の心情や合理的な発想では…一切太刀打ちが出来ない…歴史と村社会の…人の心の暗部。心地よい長崎弁に彩られながら、徐々に活性化する会話・心の叫びに引き込まれる。終盤、長女が叔父を諭す一言がとても沁みた。最後は結局、海の神の差配なのかも…。

    詳細な感想はネタバレBOXへ。

    ネタバレBOX

    人の心は…集団になると何故ああも歪んでしまうのか… 時の積み重ねの前に…何故ああも柔軟さを失うのか。

    漁業を生業とする島で…800年の歴史を持つ「火照(ほてり)」という職業…いわば「神事の担い手の後継者問題」を核に…変えたいもの、変えられないものを巡って会話が紡がれる。

    殻を破るように徐々に活性化される会話…飛び出る本音たち… 長崎弁による会話劇は私には新鮮であるとともに、なんとなく無条件で「土地に根ざした現実味」を感じさせてくれました。

    思い出話としてしか現れない「父(先代火照)」の存在感は見事でした。
    その人となりは、町と歴史と…責任と自負と…娘たち・隣人たちへの想いとの… 板挟みの苦悩を感じさせつつ… 何となく慈愛に溢れていた。

    特に次女ミサキとの関係性は印象深く、情愛と厳しさと彼なりの現代的な合理性が窺えた。

    今、問題になっていることの全てを「父は一人で背負っていたんだ…」と思うと切ないし、娘たちへの愛がいや増して感じられる。

    一方で、主に現代っ子的な振る舞いだった次女・三女の身体の中に否が応にも幼少から擦り込まれた「伝統」を感じさせるシーンもあったのが印象的。

    そのシーンに至る前まで…正直、神事的にはグダグダ感を醸していたのに…2人が伝承を語り出したところで…突如浮かび上がった「神秘性・伝統感」には息を呑んだ。​色んな物が…絶妙なバランスを成して、本作の空気を作っている。

    そして終盤の核心。

    方向性にズレはあれど、最も継承に前向きだった三女ナミに…伝承に纏わる「理不尽な制約」が降りかかる。…思わす唖然となった…この町の「暗部」の最たるもの。とかくままならない自然との対峙。その現象への合理的な判断の拠り所となる技術が無かった古の時代… 集団の合意形成を…神という曖昧なものに頼るしかなかった時代の悲しい遺物。

    本質を掴めていないから、ただ畏怖するが故に何も変えられない…それどころか…そもそも、変える議論からしてタブーだ。この社会の未成熟性が重く圧し掛かって感じられる空気だった。

    …手に負えない事の原因を…責任を…何でも良いから何かに覆いかぶせて当座を凌ごうとする…いわば「生贄」文化を見た思い。その象徴として描かれた叔父を… 長女が振り絞る様に諭した一言…「少しずつ変えていこう」がとても沁みました。

    最後の結末は…結局、「海の神」の思し召しだったのかも…とも思わせる空気があって、ある意味で皮肉感もありましたね。結局、人だけでは何も変えられなかったのか… それとも三姉妹を後押ししてくれたと思えば良いのか。色んな後味を感じさせる作品でした。

    昨年・今年と拝見できましたが、また来年も三重に来てくれると嬉しいです。

    余談。

    叔父の役者さんのキャラクター性は、小劇場としてはかなり稀有に思えました… 大変得難い。良い芝居が観れました。

    音響が絶妙で、遠くで微かに聞こえる「船の音」が…とても良い空気を作ってました。(…許すまじは選挙カー笑。)

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    2018/08/17 22:03

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