硝子の獣 公演情報 雀組ホエールズ「硝子の獣」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    犯罪、特に少年犯罪に潜む課題等を鋭く鮮やかに浮かび上がらせ、法律・正義や生きていくことの難しさを観客に問いかける力作。少年犯罪を通じて法律の不十分、不完全さ、そして少年たちを更生させることが難しい社会、現実であることを描く。同時に人間の行動の不可解さ、心の闇のようなものが垣間見える。法律で裁ききれない心の闇、そこに巣くう”悪意こそが人間の姿を借りた獣”そのものだという。
    シンプルな舞台セット、心情描写のある照明、抒情豊かな音響効果など、物語の魅力を最大限に引き出す舞台美術・技術も良かった。
    (上演時間1時間55分)

    ネタバレBOX

    舞台セットは、後方は2段差ある舞台、前方は丸テーブル2つとBOX椅子のみ。磨りガラス状の平柱がいくつかあるのみ。全体的に白っぽい配色であるが、それは照明色の効果を最大限引き出すためであろう。また磨りガラス状の柱を通る人影等の陰影も心情形成に役立つようだ。

    梗概…少年犯罪の弁護を行っている弁護士・村井正義(阪本浩之サン)は妻を亡くしたばかりで、高校生の娘・あおい(中村光里サン)と2人暮らし。その娘が刺殺された。その犯人が17歳の少年であったことから、少年犯罪弁護士としての職業”信条”と被害者の父親としての”心情”の葛藤を描く。そして犯人が少年院から5年で出院(所)し、真に更生したか見極めるために加害者少年と会うが…。

    被害者と加害者のそれぞれの家族の苦しみ、その原因を作った本人の状況を描くことで、犯罪という行為の虚しさ怖ろしさがしっかり伝わる。同時に弁護士という職業、それも少年犯罪を専門に扱う弁護士の立場、被害・加害という両面の心情から捉えることで偏ることなく課題・問題提起をしている。被害はむろん娘の死、加害はその家族の慰謝料支払いと社会的制裁の重圧、それが一生付きまとうことになる精神的負担である。これは犯人だけでなく家族全員に及び、個々人の幸せは望めないという。
    現実的な解決は難しいのではないだろうか。その意味で本公演は観客に考えさせるような問いかけ。物語には結末があるが、このラストシーンは少しの救いと余韻が心地良い。

    照明は綺麗な色彩を放つが、流線形の照射が不穏・不吉を思わせるドロッとした渦巻く感情のように思える。また音響は寂寥を思わせるような雨の音、不吉を思わせるガラスが割れるような音。どちらも可視化できない人間の心を心象として表現しているようで巧い。また夜空に輝く星々という余韻付け。
    物語はシンプルなセットの中で、状況・情況説明は役者の体現によって見事に表現されていた。約2時間、舞台に集中できたのは脚本・演出・舞台技術はもちろん、演技力に引き込まれたことだと思う。

    次回公演を楽しみにしております。

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    2018/07/01 15:23

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