ブロウクン・コンソート 公演情報 パラドックス定数「ブロウクン・コンソート」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    予想外に落涙。


    「悪」を「悪」と認識しない様々な形を目の当たりした凡人の私はどうしたらよいのだろうか。目の前で大騒ぎしている人相の悪い男たちが悪いヤツだけど、かといって嫌いか?と問われると即答できない。


    今作、拳銃の密造をしている町工場の兄・宗谷佳朗(小野ゆたかさん)と弟・宗谷陽彰(井内勇希さん)の物語がものすごく濃密で、心震えた。


    そして、自分としては念願だった渡辺芳博さん出演。もう、思い残すことは無い。


    テイストは異なるが、ふと、パラドックス定数で落涙した感覚と昔、タイタニックを見て、船上の楽団の方々の最後の場面を見てその生きざまに涙したのを思いだした。
    例えばただ「かっこいい」というのではなくそこに含んだ狂気の視線や、諦めの背中だったり、見えない慈しみの気持ちだったり。

    ネタバレBOX

    登場人物は
    一般的概念で言うと
    「正義」=「警察」


    「悪」=「やくざ」
    という大きなフィールドに分かれている。
    そこに、やくざから拳銃の密造を依頼され、知的障害の兄と一緒に工場を営む弟。
    そこに、「殺し屋」という「本業」を持つ副業で大学の講師をしている男・永山由之(生津徹さん)が絡んでくる。


    警察は筬島隆雄(森田ガンツさん)、初野柊弥(加藤敦さん)。
    やくざは智北賢三(渡辺芳博さん)、抜海一巳(今里真さん)。


    各出演者の技量があるのは当然なのだが、今作、
    本当にメカラウロコではないが、何か「ぽろっ」と私の中の
    パラドックス定数への思い込みをいい意味ではがしてくれたような気がした。






    永山由之(生津徹さん)の「殺し屋」でありながら、副業で大学の講師も務める男。
    生い立ちに闇を抱えていて実母を殺し、そして、殺し屋をしている。
    「殺す」ことには罪悪感を感じない。
    「殺す」ことは「特別」なことで無いのが、この男の心理なのだろうか?


    筬島隆雄(森田ガンツさん)は以前、七里ガ浜オールスターズの公演「オーラスラインや、パラドックス定数では「深海 大戦争(2016)」で拝見した事があった。
    ズルい嫌なじじいの匂いがぷんぷんして、凄く良かった。
    初野柊弥(加藤敦さん)某テーブルジョークでの姿からは想像できない硬派な(最初は)人間だった。
    でも、このヒトも心の中では上に上がりたいという思いを持っていた。
    でも、あんな最後だったのが、言い方は悪いがきっと、「運がない」人だっただろう。


    「向上心」とか「出世欲」とか、「誰かより俺が上だ」って思うことが
    根底にどろどろあって、それが、10%出してるのか、16000%出してるのか、
    そこの違いはあるが、基本、みんなおんなじ。
    そう、思ってる。
    でも、そこで成り上がろうとする人間と
    「俺は力がない」ってあきらめる人間と、平均値で何事無く、暮らせればいいんじゃないかと思う人間とか、色々いる。


    抜海一巳(今里真さん)は、やくざに向いていたのかな?
    結果、やくざになり切れなかった人だったのかな・・。
    でも、やはり、「目的」のために行動出来てしまったから、悪党であることには
    変わりないかとおもう。
    例えば
    自分を慕う宗谷佳朗(小野ゆたかさん)を自分の目的のために薬漬けにするとか
    薬物中毒の怖さは本当に人間を簡単に壊すので、その方法を用いたことなどがそう思わせた。
    薬は心身とも、そして、人間の尊厳も奪うもの。



    物語の中盤くらいに、やくざである智北賢三(渡辺芳博さん)と、宗谷佳朗(小野ゆたかさん)と宗谷陽彰(井内勇希さん)が追いかけっこして、ちょっと、ふざけっこしてはしゃぐ場面があって、そこが後の結末につながると思うと
    観終わって、何とも言えない悲しい場面に思えて仕方がなかった。
    智北賢三(渡辺芳博さん)が13年前自分の舎弟に売られて刑務所に入っていて、出所後
    きっと、あの瞬間がもしかしたら、あの人が少し安らいだ時間を過ごしたんじゃないのかなと思った。
    劇中のバックボーンがきちんと把握できてないのだが
    智北賢三(渡辺芳博さん)と宗谷陽彰(井内勇希さん)は友達?幼なじみ?年齢設定がわからないので憶測なのだが、二人の間には温かい空気があった。


    ただ、智北賢三(渡辺芳博さん)の眼は狂ってる眼だった。
    獲物がいたら、確実に仕留める。
    笑ってる笑顔も、笑顔で無い。眼がヒトを見ていないから。
    ヒトを信用しようとしない眼だから。




    宗谷佳朗(小野ゆたかさん)と宗谷陽彰(井内勇希さん)の最後の方の場面も
    行き場のない憤りを感じて、苦しく、悲しい。
    なにか、そこまでに至る二人の人生が見えたような気がした。
    宗谷佳朗(小野ゆたかさん)での演技が、素敵だった。
    彼は、他者からみられることを想像以上に敏感に感じ取っているんだと思った。
    弟の宗谷陽彰(井内勇希さん)は事あるごとに、「(兄は)そういったことはわからない(概念がもともとない)」というが、果たしてそうだったのだろうか。
    障碍者である彼はそのフィルターがあるにしても、ほかの人と大差なく
    「自分の意志」をきちんともっていたのではないかとおもった。
    弟の宗谷陽彰(井内勇希さん)のやり場の無い、障碍者を身内に持つ者の不平・不満・不安など現実としての「負」の思いが漂う。
    国や周りは助けてくれない、そのことで手いっぱいで自分の存在価値が揺らぐ
    「自分の存在価値を認めてくれる」ことに飢える。
    毎日、毎日、限られたコミニケーションの中、どこが終わりなのかわからない。


    ただ、自分の価値が具現化する「精密機械」としての「拳銃」を作ることに
    喜びを見出すしかなかった。
    どうしたらいいんだよと吐出する毎に、後戻りは出来なくなっていた。


    皆が「悪」なのだが、生きるためにその道を進むしかなかった。
    間違った道だとしても。
    破滅への道だとしても。


    「生きてて、悪いか。」



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    2018/07/01 09:32

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