通る夜・2018 公演情報 劇団芝居屋「通る夜・2018」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    普遍的なテーマ「家族愛」、それも父の死によって気づかされる深い愛情を、庶民という観点で観せる好公演。現実にいるであろう等身大の登場人物が心情豊かに描かれる。そして芝居屋らしい丁寧な舞台セットの作り、安定した演技力は観ていて安心する。
    (上演時間1時間50分)

    ネタバレBOX

    舞台は、ヘラ絞り加工を専門とする霧島製作所の事務所内。上手側は出入り口、入ってすぐ応接セット、下手側は自宅への通路、事務机が置かれている。正面にはスケジュール表や掲示板。

    梗概…霧島製作所の社長霧島宗一郎が入院して数日であっけなく他界した。そして自宅で息子の一郎を喪主に宗一郎の通夜が営まれた.。通夜の段取りは初めてのことであり戸惑いと不安な気持ちが上手く表現されている。さて、この家には娘・霧島寿々子(増田恵美サン)がいるが、亡父と確執があり通夜にも来ないようだが…。

    通夜という一夜劇。通夜の手伝いをする従業員や近所の人などが帰った後の事務所内。中小企業、いや零細企業かもしれないが、そこは日本経済を支えている人々の暮らしが垣間見えてくる。まさしく芝居屋の「覗かれる人生芝居」というコンセプトが浮き上がってくる。妻が亡くなり、仕事も忙しく娘と触れ合う時間が持てない情けなさ、不憫さが伝わる。 一方、娘は父から相手をしてもらえず見捨てられたという思いを抱く。幼心が傷つき、早くに家を出て生活を始める。思い出を手繰り寄せ、父の思いを知ることによって…。通夜に現れた娘は喪服ではなく、水商売風の派手な着物姿。父の”真情”を知り「あの人」から「お父さん」という呼び方へ変わる、娘のこみ上げる”心情”が切ない。その体現は、幼稚園時の遊戯会で歌って踊った「アブラハムの7人」を着物姿で跳ねるように踊る。やるせない気持が痛いほど伝わる。

    亡き父は登場しないが、通夜に集まった人々の思い出話を通じて、不器用、頑固一徹といった人物像が立ち上がってくる。それは家族、従業員、取引先、隣人などが遺影に向かって献杯し独白する。そこに父、社長、ご近所といういろいろな顔が見えてくる。
    また通夜という慌しさが踏切音や救急車のサイレン音に共鳴しているかのようだ。いつの間にか終電になり、始発までの静寂な時間帯で交わされる心魂震える会話、そして始発電車が走り出すという時間経過の表現が上手い。
    少し残念なのが、娘が一人遊びする場面を写真に収めていたことが兄嫁を通じて明かされるが、その写真姿が見えないこと。説明台詞だけではインパクトが弱く感情を揺さぶるまでにはならないこと。

    次回公演を楽しみにしております。

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    2018/05/26 15:09

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