カッター 公演情報 シアターノーチラス「カッター」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    狭い事務所(空間)内、そこで巻き起こる不快な会話劇。不穏が積み重なり、緊張感が自分の心を揺さぶるようなサスペンス・ミステリー。近い距離・存在と思っていた人間について、本当はその人物のことは何も知らないという不気味さを感じさせる、実に観応えのある公演。
    (上演時間1時間25分)

    ネタバレBOX

    セットは、デザイン事務所らしく後方の壁全体が白い飾り棚。前には事務机が2つ並ぶ。机上には事務用品等の小物が置かれている。その配置は、映画「家族ゲーム」(森田芳光監督)の食卓に見られたように横並びの事務机に社員が座っている。その観せ方は、観客に物語の進展、登場人物の真情や感情表現が分かり易い構図になっている。レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐 」(仲間内)のような、アットホームのように思っていた小デザイン事務所の人間関係、実はその中には異端(常)のような人物が居た。

    公演には「人」と「間(距離)」を考えるという大きなテーマを据えているようだ。内容は人間描写であり、心の叫びであるが、それを演劇的な音響で補足はしない。日頃思っている本音等は言葉に出さず心の中で呟き叫んでいたが、ある出来事を境に人を疑い、陥れ、蔑み、嘲笑等の負の感情が溢れ出し人間関係が崩壊していく。

    梗概…事務所の社員・榎本亮生が2週間前に屋上から飛び降りた。地下鉄でスカート切りの犯人として疑われたのが理由らしい。しかし今また事務所の女性・守谷貴織(萩原愛子サン)が何者かにスカートを切られた。真犯人は別にいたのか、自殺した男を巡り色々な憶測が飛び交う濃密な会話。いつの間にか事務所内の人間関係を壊すような本音の応酬に変わる。
    貴織の暮らしは同じような日々の繰り返し。家と事務所を満員電車を利用して往復するだけの何の変化もない暮らしが続く。そんな中、淡い愛情を持ったことで平凡な日々が大きく変わっていく不気味さ。好意から愛情へ変わる感情、相手のことをもっと知りたいと男の生活を観察したことから生まれた悲喜劇のようだ。彼女が行った行為が事務所内に波紋を起こし悪口・誹謗・中傷の言い合い、さらに独話が…。どこの会社、組織でもありそうな心底の吐露。登場人物のキャラクターはその典型的な人物像を表現しているようだ。また人の立場・役割の延長上に苛めを受容することで自己防衛する、そんな本能があるという深層心理が興味深い。

    映画「桐島、部活やめるってよ」(吉田大八監督)では、タイトルにある中心人物は登場しないが、本公演でも自殺した榎本は登場しない。しかし話の中心には彼がおり、事務所員の言動によって彼が形成される。その観せ方は観客に人物像をイメージさせ、生きていた頃の事務所の雰囲気の再現を想像させるという巧みさ。人の暮らしを思わせる一方、デザイン事務所というクリエイティブな空間には日常の生活感というニオイを感じさせない。舞台は一方向からの観せ方であるが、物語の広がりは観客にイメージさせるという懐の深いものになっている。

    次回公演も楽しみにしております。

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    2018/05/13 10:50

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