満足度★★★★★
木曜に観た後、残り公演日の中でどこをどうやりくりしたらまた観られるのか、真剣に(!)考えました。
まあそれくらいインパクトが深かった(大きいとは違う感じ)です。
解離性障害の妹を抱える兄(アルコール依存症を隠していた)の視点からの物語ですが、それだけでは納まらない普遍的なテーマを感じました。
妹の昌代(重松さん)が抱える病の深さが切なく伝わってきました。
特に切ないのはミルミルの人格になったときの語り。
幼いころから、ぬいぐるみや動物たちと交流しながら生きる支えにしてきたこと、そのことさえも中学生のころ否定されたこと。
この人格になっている時の無邪気な振る舞いと現実の病との落差がすさまじい。
トカゲのしっぽ切りのように、人格の一部を切り離しても生き残りをはかろうとするミルミルの空想物語は、育ちの中でどれほど深く傷ついたかを逆説的に浮かび上がらせてくれます。
多重人格の役は相当の難役だと思いますが、とにかくやられました。
涙が・・・・とにかく止まらない・・
「あんなところまで抜けていったんだ重松さんは・・・」というのが正直な感想です。
兄と妹の物語がともすれば重くなりがちなところに、トシさんの吉村役が長い入院生活から身についたのか、一服の清涼剤のように立ちふるまうシーンで救われます。
その人でさえも、一皮むけば自分をゴミのように思う闇を抱えていることが伝わるシーンもありましたね。
人は成長するにあたって育ててくれる身近な大人(両親が一般的か)にすがらざるをえません。
目の前にいる親をモデルとして自分を形成していくしかほかに方法がない宿命を負っています。
この共通のテーマが背景にあるので観ている自分の心がうずくのです。
親として子供に対してとった言動のこと、子供として両親から受けた影響のことなどなど・・・・が、複雑な思いが湧いてきました。
両親から、何を吸収して何を取り入れないかを判断できる意識がうまれる前に、無意識に吸収して身につけたことは「三つ子の魂百まで」のことわざ通りです。
あれだけ反発した父と自分がいつの間にか似ていることに気づく兄、そして妹は父と似た男を引きよせては苦しむ。
それと向き合う作業は、結構つらいことですね。
この兄妹は、兄がまず一歩を踏み出しました。
人生を器用に渡り歩くことが苦手な雰囲気と存在感が出てましたね。(兄の役の方)
「お互いが証人となって二人でもういちど生き直そう」という兄のセリフ、「両親からは負の遺産を引き継いだけど、正の遺産もあるんだな。これを治療代にしていこう」とつぶやくシーン。
ラストの独り言、「人生は思うようにはいかないもんだ」「エッ今なんて言った(吉村)」
静かな余韻の残る終わり方。(この二人に差してきたかすかな希望を暗示して)
明かりが落ちた後の「間の時間の長さ」は、観ている側からすれば、大事な部分だと今回思いました。
デペイズモンは意味深です。
最初「なんだこれは?どういう意味なんだよ」と思いました。
「日常の風景のかたわらに、さりげなく精神科入院病棟がある」そんなことを想像しました。
2018/01/21 00:17
「デペイズモン」…あるはすがない場所に置かれたもの…日常の中の違和感…インパクトの深さを感じていただけたとのこと、ありがとうございます。