熔けない 公演情報 幻想劇団まほろ「熔けない」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    強いミステリー感と…時間を行き来するかのような仄かなSF風味の展開には興味が尽きなかった。
    終始、何かまだ裏がありそうな空気に集中力を使い続け、心地よい疲労感。

    一見、舞台は何の変哲もない学校の保健室だが、何か違和感を纏っている空間。
    目の前で行われている5年前の出来事を…過去を演じていると…只の回想とみて良いのか…、ここは本当に保健室なのか、今そこで演じている役は本当に見た目通りのその人なのか…。話を展開通りに素直に呑み込んで良いのか戸惑う…面白い観後感だった。

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    ネタバレBOX


    (続き)
    不思議な印象を形作る筆頭は「クラウド」たち…とても好きな演出でした。

    アンサンブルキャストやコロスをイメージする"crowd(群衆)"的な響きと、クラウドコンピューティングを想起させる"cloud"の響きの両方を合わせ持つこのキャストは、見た目の所作の美しさや、主人公の代弁者として表向きはコロス的に機能するが、「記録…」と呟いては、写真やファイル等の情報処理を匂わせて、この空間が「見た目そのままでは無い」ことを主張する。何者かが…「記録」を閲覧・再生している姿を我々は覗いている…とも解釈できそうな気もする。

    そもそも現代深紅(養護教諭となった深紅の台本表記) が遭遇する箕島は、一体どういう存在だったのだろうか。公式のストーリー紹介では、箕島が亡霊の様に現在に現れたという扱いだが、箕島の振る舞いの自然さに、むしろ現代深紅の方が5年前に紛れ込んだ感覚だった。

    そして、並行して進む「現代深紅」と「過去深紅(5年前の深紅の台本表記)」が各々で関わる5年前の事件の中で、
    …現代美紅が箕島にしか会っていないこと、…
    …そして5年前の城野教諭のシーンに箕島が一切出てこないこと…
    …から、現代深紅は同じ養護教諭として城野の経験を追体験(再生)しているのか?という印象も受けた。そもそも現代深紅が防衛本能的に、不都合な記憶を無意識に封印している感じだったので、…クラウドとの接触等のふとした拍子に、閉ざされた過去の記憶が漏れ出した…、あるいは誰かの記録が流れ込んできてしまったかの様なイメージも想像した。(封印されていた記録文書を見てしまったかのよう。)

    ただ、いずれにしても惜しむらくは、…箕島が現代深紅の前に姿を現した…あるいは現代深紅に箕島が見えた「キッカケ」が最後までよく見えなかった。そこが伝わると納まりが良かったかな。

    さて、精神的面のドラマの主軸は「深紅の前向きな姿勢の功罪」と「箕島の精神崩壊の過程」かな。
    …前者における「深紅と永遠田のシンパシー」…共感できる者が出会った高揚感、意志の強い共鳴。
    これ単体でもドラマとして成立しそうな本作指折りの盛り上がり。
    ここで培った「負けない」気持ちを…後者において…良かれと「善意」で振りかざし、翻って「凶器」と化す。
    なんとも鋭いインパクト。

    応援することの反作用。応援する側の身勝手な高揚感。
    綺麗に盛り上がった前者の気持ちを…バン!と叩き落す筋書きは、深紅のみならず、善意に共感した観客の心をえぐってくる…そして、何とも切ない。

    後者における…箕島の「背景」は常に展開の主軸。前者で構築している「前向きな精神活動」を最後に全否定してくる強烈な要素。

    この「背景」が、色んなところでミスリードを誘いながら、順を追って丁寧に明らかにされていく手法は見応えがあった。気にしていた右手首の傷は当初はリスカの方を想像させる仕掛けだし、「家に早く帰ってこない」との親の相談や、「私に似ている人…」とか、ふんだんに伏線が散りばめられていた。

    なにぶんオチが「意識の外にある徹底的なタブー」だったので、…丁寧に形作られた善意を…議論の余地なく全否定しうる強度があった。

    一方で、箕島の「理性」と「無意識下の行動」が混在している様は、人が壊れていく過程の描写として秀逸で、「もっと上手に人を好きになりたい」に至る心情の吐露や、…「油断したら頭で考えられなくなる」等、印象的な台詞が多い。

    ここで小森ひなたさんの演技力も光った。彼女は「無知な六人と六人」の後半でも尋常じゃない精神状態を見事に演じてた。あがく演技に秀でた役者だね。

    さて、過酷な現実をようやく認識し…城野とのひとしきりの相談の後、現代深紅が「全て」を呑み込みエンディングを迎える…と思われた刹那のファイルエラー…ビープ音…アカウント削除…?

    「うわっ、マジか…」と息を呑む。

    本人が壊れたのか、再び記憶が封印されたのか…いずれにせよ、…最後にまた激しく叩き落とされて、…やられた…って気持ちになりました。

    このラストが有るのと無いのとでは、著しく芝居の印象が違う。更に苦しい印象を残して終わらせる…思い切りましたね。

    役者の感想。先に小森さんには触れましたが、…
    …他に印象深かったのは城野養護教諭を演じた森夏音さん。現役高校生にして微塵の違和感もない落ち着いた先生ぶりと包容力…それでいて極めて気さくな理想の先生像。
    これまでコメディの印象が強かったですが、う~ん、この子は何でもできるな。

    あと、箕島父役の鈴音こうしさんの「俺が愛してやるから…」のくだりは、もう怖くて怖くて… あのシーン…どこまで行っちゃうんだろうとドキドキしました。

    これが印象付くと、誰も鈴音さんには逆らえなくなるね…この台詞が飛んで来そうでさ(笑)

    W深紅の二人。人格の連続性が感じられて良かった。
    福田真也さんのスタイリッシュさに白衣が似合った。ラストシーンにはまんまと騙された。
    佐藤美輝さんの真っ直ぐだけど自分本位になりがちな若さの表現も良かった。確か新生のカンニングマスター?

    藤井紫音さんの最初の会話での抑揚の効いた口調も印象的。もっと聞きたかった。

    藤岡侑真さんの気怠そうな佇まいとか、高見大輔さんの徹底した嫌われ役ぶりなんかも目をひく。

    最後に…
    「熔けない」というタイトルの意図が未だに掴み切れないのです。
    …敢えて「金属の溶融」の熔けるで、何に準えているのか。「負けない」と同意では違和感ある。人が学校・社会に適合することを金属の成型に準えて、熔けない=型にハマらない… う〜ん、これもしっくりこない。
    これはどっかで語られてないのかな…

    追記

    オカルト的可能性を排除すれば、現代深紅が養護教諭の立場としてアクセスできた生徒情報アーカイブの記録(城野の記録含む)をキッカケに、封印した記憶が脳内で有機的に反応して、夢?の中で城野の経験も含めて…一連の過去を追体験・再構成した?

    そして、自己防衛的な脳内合理化を経ても、受け止めきれずに… とも整理できるか。

    ただし、果たして全てが脳内の産物か?…実は…という第三者の関与の可能性に、更なるドラマの推測が湧き立つ…勿論、一つの可能性でしかない。要所が暗示で提示され、妄想が膨らまされるの楽しい。

    こういう作りは、作演の意図から逸れて「新たな物語の誕生を許容する器の広さ」があって良いね。
    いわゆる二次創作向き。

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    2018/01/06 18:37

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