満足度★★★★★
誰も観たことのない犬の鳴き声。困窮しつつ借金のない暮らし。要介護度の軽さ。
そういういくつかの違和感と3人の刑事の取り調べの様子が、本当は何があったのか、ということへの興味をそらさず、それが解かれていく時間の生々しい痛みだけでなく、物語としての(こう言ってよければ)面白さ感じさせた。
ナイフで人を殺すより、借金を重ねて踏み倒す方が容易だろう、という意味のことを一人の刑事が言った。
それができなかった母と息子の繊細なやり取りを、3人が交互に語る終盤の場面。痛みと優しさが胸にしみた。
どうしようもない現実。それでも、その淵を渡らずに済むためには……。
答えを出すのではなく、あなたもそして私自身もそれぞれに立ち止まり引き返せますように、という祈りのような何か。
身につまされる、などという安易な共感ではなく、もう少し丁寧に考えてみたい気がする舞台であった。