消滅寸前(あるいは逃げ出すネズミ) 公演情報 ワンツーワークス「消滅寸前(あるいは逃げ出すネズミ)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

     限界集落への道をひた走りに走り続ける、ある地域の実験的プロジェクト(内容は、地域住民による行政代行)の12年間を辿ることによって、都市一極化、少子化問題を扱った衝撃作。(追記2017.10.27)花5つ☆

    ネタバレBOX


     羅針盤も進路を記すべき海図もなく、何年も漂流し続ける船に乗り組んでいることも知らず、否、知らぬふりをし続けてきた人々の眼にも、今や、その危機は明らかである。だが、此処は海の上という比ゆ的状況に託して紡がれる今作。逃げ出すも地獄、さりとて海図も六分義も、羅針盤もないまま航行するのは、死出の旅路に就くに等しい。究極の二者択一が迫られているのだ。その時、人々は民主的に而も各々納得づくの決断によって未来を選び取ることができるか? 今作が問うのは、この点であろう。何もかも他人任せにすることで、隷従の味を覚えた現代日本人に対する極めて切実な問い掛けである。
     内容については、ご覧いただくとして、古城氏が何故、今作を書くに至ったかを、「スパイス」に載った文章を参考にしながらみてみたい。因みにOneTwo-WORKSの作品に社会性の強いものが多いのは、古城氏が新聞記者出身だということとも無縁ではあるまい。今回も無論、きっかけになった情報を参考に、独自取材をして創られた作品である。先にも書いた通り今作の提起している問題は、都市殊に大都市一極集中(殊に首都圏)と少子化である。この問題の深刻さに作家が改めて気付かされたのは2014年に”日本創生会議”が発表した「消滅可能性都市」のリストだったという。このリストには全国1800の市区町村の49.8%に当たる896自治体は何れ消滅してしまいかねないとされていた。更にその後、NHKスペシャルで「縮小日本の衝撃」という番組が放映された。このドキュメンタリーは、現在日本各地で実際に起こっている事態をレポートしたものだったが、この2つの情報が齎した事態の深刻さに、作家は衝撃を受け自ら取材をし作品化しようとの決意が生まれたのだ。而も「消滅可能性都市」の中には、23区内の1部迄含まれていたのである。
     だが、ここに一つの問題がある。日本人の持つ傾向として、どんなに大変なことが起きていても自分の身に火の粉が掛かるとか、足元にヒタヒタと水が押し寄せてこない限り、恰も他人事として認識する傾向である。この認知力の乏しさ、イマジネーションの残酷なまでの欠如を、少しでも解消する為に、実際既にいくつかの自治体で取り組まれている、或いは取り組まれてきた事例をベースにした“協同の街づくり”計画(少子化を前提として生まれた地域再生プログラムで市民が主体的に街づくりを担うが、行政はその資金援助をするなどで協同して活性化を図るプロジェクト)を描いているわけだ。
     無論、今まで手つかずの領域である。参考にすべき事例はそれほど多くない中で、手探りの船出である。それが象徴的に表されているのが、実際、自治体の中で起きている会議シーンと海難事故に遭い、羅針盤や六分儀、海図も無い航海の模様を交互に描く今作の大きな構図なのである。この相互嵌入が実に上手い。おまけに、この限界集落化が日本全土を席巻するまでに時間は大して残されていない。2030年には、首都圏を含めてさえ、高齢化率は日本全体の31.6%に及ぶと予測されている。高齢化と少子化のWパンチを喰らい、移民を含めて解決策を探ろうにも、移民が定住して税金を納めてくれるまでには、日本語教育を含む学校教育、職業訓練や就業支援、衣食住に纏わるセーフティーネット、異文化の中で暮らすことになる彼らへの差別・被差別対策・精神的ケア等々、今から準備し投資しなければならないことが山ほどある。日本の国家公務員の中でもキャリア組に任せてはいけない。何故なら彼らは、自らの利害しか考えない者が圧倒的に多く、常に自分にとっておいしい事例に積極体である為、何かせねばならぬことが在る時、整備しなければならないインフラのうち、一番大切なソフトには殆ど目を向けず、大して役に立たないどころか後々維持費が嵩んでその結果自治体が破産するような箱物ばかり作りたがるからである。故郷創生でばらまかれた金が結局各自治体に何を齎したかを検証すれば、一目瞭然であろう。以上のようなことを含めて、今本気になって市民各々が考えておかねばならぬ、目に見えにくいが根本的な問題を提起しているのが今作なのである。

     

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    2017/10/24 15:55

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