ハイツブリが飛ぶのを 公演情報 iaku「ハイツブリが飛ぶのを」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    鑑賞日2017/10/20 (金)

    本当は何が起こったのか、謎めいた冒頭のシーンが印象的で、
    ミステリアスな展開に最後まで引っ張られる。
    この緊張感と、とぼけたやり取りのギャップが可笑しい。
    若者の天然傍若無人ぶりに飄々と対する関西弁のお人よしぶり。
    衝撃のラストまで、演じる役者さんの巧さが光る。

    ネタバレBOX

    激しい嵐の夜、稲妻に浮かび上がるのはスコップを片手に仁王立ちの女性…。
    「火サス」の犯罪シーンのような幕開けにちょっと驚く。
    そこへ登場した男に、彼女は「アキラ!」と呼びかける。
    元々この避難所には9人が暮らしていたが、火山の噴火により8人が死んでしまい、
    生き残った彼女は8人を埋葬、一人で外出していて難を逃れた夫の帰りを待っている。
    「アキラ」と呼ばれた男は、実は夫ではなく、ここに住んでいた妹を探しに来たのだった。
    記憶を失くして夫の顔も忘れてしまった女は、彼を「アキラ」だと思い込んでいる。
    似顔絵を描きながら避難所を渡り歩く「夜風っす」と名乗る男、
    出先で噴火に遭い、妻も死んだと思い込んで一か月後に帰宅した、女の夫も加わって
    4人の奇妙な共同生活が始まる…。

    明るく笑いながらためらいなく人の心に踏み込む“夜風っす”(佐藤和駿)が
    結果的に“偽アキラ”や“本物アキラ”の心情を掻き出して語らせる、
    というスタイルが面白く成功している。
    オバサンとしては“夜風っす”のキャラはどうも心情的に疲れるけれど、それは
    演じる佐藤さんが“イマドキの若者が自然にやらかしてる”感じを上手く出しているから。

    夫と思い込まれた男(緒方晋)が、追いつめられて不安定な女を
    突き放すこともできず寄り添うところがとても良かった。
    柔らかな関西弁で、“夜風っす”に反発しながらも、彼の質問には率直に応えていく。
    その素直さが彼の誠実な行動の根幹にある。

    本物のアキラ(平林之英)はイマイチ気が弱くて
    妻の生死を確かめる勇気もなく、1か月も経ってから避難所に戻って来るような男だ。
    かつて同じ避難所にいた別の女性(それが偽アキラの妹)と不倫したという
    負い目もあってますます妻との距離をコントロールできない。
    その気弱さから“偽アキラ”を強く追い出すこともできず、
    そもそも妻に思い出してもらえないという存在感の薄さが露呈する。
    夫の情けなくやるせない思いが台詞の行間に滲んでいた。

    8人を埋葬するという壮絶な体験から記憶の一部が欠落したように見える女
    キナツを演じた阪本麻紀さん、どこか“心ここにあらず”な浮遊感が良い。
    本当に「埋葬した」だけなのか、何かあったんじゃないか、と思わせるものがあって
    謎に奥行きを持たせる。

    不自然なほどの白髪や、噴火前から避難所で暮らしていた、という設定に
    この国の不安な未来が透けて見える。
    それにしてもこの二人、これからどうなるのだろう。



    0

    2017/10/23 01:01

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大