キリンの夢3 公演情報 THE REDFACE「キリンの夢3」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    戦後の混乱期、闇金融界の寵児を描いた物語。戦後のマスコミを賑わせた昭和アプレゲール犯罪「光クラブ事件」を題材にしたノンフィクションをフィクション仕立てにした力作。教科書で習う経済用語「信用創造」、その効用を先取りしたような金融活動。しかし、その根底にあるのは「信用」ならぬ「不信」であり、それがゆえに時代の荒波に消えた男の人生譚。
    (上演時間2時間20分 途中休憩10分)

    ネタバレBOX

    舞台セットは、平行の段差、中央に階段があり昇降することで室内・室外を見分けさせる。室内は「光クラブ事務所」であり、主人公・山崎晃嗣(榊原利彦サン)が通った銀座のBarルパンなどである。基本…室内は上手側に豪華な椅子、下手側に机といった簡素な作り。

    物語は、「光クラブ」「秀才東大生グループ」というキーワードで知られているが、自分は「青の時代」(三島由紀夫)、「白昼の死角」(高木彬光)の小説・同映画によって粗筋は知っていた。本公演によって改めて事件の概要や主人公の人柄なりを知ることが出来た。劇では戦後間もない時期という特別な時代背景、東大首席という秀才、そして短期間で盛・衰(自殺)した話題性など、そのエポックを人物に投影して観(魅)せる。そこには、時に笑いを交えつつ魅力的な人物像が立ち上がっていた。

    学生グループが設立した金融会社。当時の物価統制法違反で逮捕されるなど非合法な活動であったようだが、山崎社長はどのような夢を描いて設立したのか。タイトル「キリンの夢」は、誇り高き、遠く(未来)を見渡すことが出来ること。しかし長い足ゆえ、足元が見えないという台詞が意味深でもある。一歩踏み出すとそこは蟻地獄、倒れたら立ち上がれない。そんな負の連鎖がしっかり伝わる。その遠因と思えるような友人の非業の死、自身の戦争体験が心の痛みとなって、その後の人生に大きな影を落とす。その哀切と慟哭が心情豊かに描かれる。

    パンフにも記載があるが、人間の性は、本来傲慢、卑劣、矛盾、邪悪であると…。その暗澹たる気持は、太宰治との会話を通して分かり易くなる。山崎は、人は裏切るが金は裏切らない。太宰は愛こそが大切、心が傷ついた分だけ成長するという。思いの違いはあるが、結局のところ2人とも女性絡みで終わる。人は物欲だけではなく、人との関わりによって成否…その足元という信頼関係が大切ということらしい。公演ではきれいごととして描かず、あくまで山崎の日記(手記)という事実に基づくもの。

    役者の演技は序盤こそ軽妙であるが、徐々に重厚さを増していく。そこに人柄の変貌を見ることが出来る。ドキュメンタリー・フィクションとでも言うのか、その雰囲気は”生”の舞台でこそ味わえる醍醐味、堪能した。

    次回公演を楽しみにしております。

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    2017/07/23 20:07

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