満足度★★★★
ぽこぽこクラブ「ぽこフェス2017〜越えろこの山、チョモランマ〜」シーズン3
『空白の二人2017』
暴力の負の連鎖は断ち切りたいと思っても、切る事が出来ず。受け入れたいと思っても、うまくいかない。「自分」の立ち位置が「空白」である男と、「心」が「空白」の男。
そんな二人の奇妙な関係性。従順な男の姿が、従順であればあるほど、辛く映る。
DVを繰り返す男「ようじ」役(三上陽永さん)記憶を失ったのか、社会的に存在を否定されたのか自分が「誰」であるか不確かな男「クロ」(杉浦一輝さん)。
自分の父親のDVの負の連鎖から自身も恋人に暴力をふるってしまう。
経緯は不明だが「クロ」を「飼っている」ようじ。
「戸籍」のワードから考えると、年齢的に、状況的に「クロ」は「身元不明者」の無戸籍者のようだ。
自分が「誰」なのか分からない中で、「誰」かの為に行動しようとした「クロ」が切なかった。
他者の為に、他者が喜んでくれるだろうと、その感情が人間の印のようにも感じる。
ラストは少し、救われる気がした。
劇中の「痛みが生きてる証拠」。頭では分かるのだが、理づくではクリアにならないのが人の感情なんだなと。
ある種、人間のどろりとした感情が足元に絡みつくホンだったのかと。
「クロ」は杉浦一輝さんの得意な表現が強く出る役柄。
人によってはあざとい感じが出てしまうので。
「マグロ」
シーズン1でも上演したが、演出が変わった箇所があり、少し、間のもたつきを以前感じたところがすっきりした感じを受けた。
風俗の女(森田ひかりさん)と、寿司屋の女大将(都倉有加さん)の心象というか、双方の抱えているバックボーンがより、出てきたように感じた。
一見、たわいのない酒を呑みながらの話が徐々に自身の「自分は正論」という
盾に守られた話がその場の空気を変えていった。
女は自分の男が「人間」としてのプライドを無くし「マグロ」として
存在する事にある種「意味」や「意義」を歪んだ感情で「正論」と思ってる。
「洗脳」なのか、「軟禁」なのか、色々ごちゃまぜて考えると
狂っている。
ただ、本当の「狂気」は表だって見えないモノ。
ただ、特別なモノでは無くて自分の身近にあるモノなのかもしれない。
あの不条理な「マグロ」男のような立場の人が近くにいるのかも。
回遊する「マグロ」の末路はどうなったのか。機会があれば、観てみたい気がする。
このホンはシーズン1よりも3の演出の方が大将(都倉有加さん)も、風俗の女(森田ひかりさん)も好きだった。
大将の後半の目がキテイて、静かに狂っていて良かった。
新作「現世永劫莫殺地獄」
この世も同じようなものだと、ふと、観ながら思う。
この世と、地獄の間には鏡があって、そこに映し出される人間の姿は、滑稽にもみえるし、必死にも見える。
この世ではジャッジ出来ないことを「地獄」でジャッジしてるんだろうな。
地獄での刑をみると、シンプルだ。
「悪い事をしたら罰を受ける」
シンプルな事が、現世はそれが出来ない。
地獄の刑はループする。
莫殺地獄。
「殺さない」地獄。
「莫」の意味が
1 否定を表す語。ない。
2 むなしい。
死んでいるけど、永遠に死なない。ずっと、ずっと、ずっと、続く地獄。
終わりが無い地獄程、辛いモノは無い気がする。
一見、ニギヤカしいホンだったが、かなり、色んな事をなぞってる気がするので、伏線というか、反芻すると、また違った印象にもなる気がした。
今作、様々な閻魔様のジャッジの場面
「死」の捉え方が多方向からみるとしたら気がつかない「罪」をそこで言われて初めて気がつく。
ここでも自分にとっての「真理」や「信念」は一歩ずれたら
「狂気」となる危険性がある事を感じた。
「意味のある死」とは?
世界で起こっているその人にとっての、その団体にとっての「意味のある死」
そこから、気がつかない悲しみの落としどころが見つからない人が沢山、沢山
生まれてしまう悲しさ、怒り。
興味深いホン。
理不尽な死によって鬼になった「書鬼」。
今作の書鬼の杉浦君が良かった。
全シーズンを観劇出来たのも、ある種タイミングが良かったからで、中々全てというのは難しい人も多かった公演だと思う。公演を打つ側も相当量の大変さを踏まえて「やりたい事をやる」を具現化した彼ら、スタッフの方々へ今公演が次なるステップになる事を小さく祈りつつ、善き時間を共有出来た事、感謝します。