ダズリング=デビュタント 公演情報 あやめ十八番「ダズリング=デビュタント」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2017/04/22 (土) 14:00

    座席1階B列5番

     座・高円寺1の扉を開けて、席に着く。

     目の前には、中世ヨーロッパの何処かの館の中、顔のない貴婦人の肖像画が天井から下がり、きらびやかなソファ、部屋の隅に置かれた左手奥にはグランドピアノ。

     左右の床の一角に四角く切り取られたような絨毯がしかれ、右手には中世風のベッドが置かれている。此処は、何処かのサロンだろうか。

     そう思う間もなく、私は、いつの間にか、『ダズリング=デビュタント』の世界へと迷い込んでいた。

     【あらすじ】

     舞台は死神たちのサロン。疫病の遊戯場。
    老若男女貴賎を問わず、皆平等に死を恐れ、震えて眠る田舎町。

     娼婦・エミーユはダズリング侯爵夫人殺害事件の重要参考人として憲兵から尋問を受けている。彼女は町の男たちから“教会”と呼ばれていた。エミーユは罪と性欲の捌け口として愛され、その腹に何千という男たちの秘密を孕んでいた。

     彼女の口から語られるのは、生々しい貴族たちの社交界。
    その言葉の端々には、町を救う起死回生の一手が潜んでいる。
    しかし、愚かな憲兵は、女を殺してみたくて堪らない。

     紫の毒、黒い毒、黒みを帯びた紅い毒、白百合のような白い毒。人の心の中に咲く、色とりどりの毒の花。その毒を女を通して描いたような舞台だと感じた。

     堀越涼さんのルイーズは、一見、その穏やかな顔の下に、ちらちらと覗く残酷な一面がゾクリとする程女の怖さを感じさせ、黒みを帯びた紅い炎の色をした毒を体内にびっしりと、奔放に傲慢に咲かせ、やがて自らも柘榴痘に罹り、美しさを誇ったその半顔と軆が醜く紅い発疹に覆われた時、初めて、今まで自分が蔑み、見下して来た弱い者たちの苦しみの万分の一位は、気づいたのではないだろうか?

     そう感じたのは、夫ギュスタブ(秋葉陽司さん)に、自分を「殺して欲しい」と頼み、ギュスタブが最後の頼みのとして、ルイーズに「抱きしめて欲しい」と頼み、ギュスタブをを抱きしめた時のルイーズの表情が慈愛に満ちたものを感じ、とても美しく感じたからだ。

     あの場面の堀越さんの手や指先の動き、表情がとても綺麗で、その時のルイーズは、自分の中の毒が洗い流された、菩薩のような表情で美しかった。
     
     ルイーズを取り巻く女達も、エミーユ(石田廸子さん)を取り調べ、幼少時自堕落でネグレクトな母に育てられ、母を女を憎み、女を殺してみたくて堪らない憲兵マオ(蓮見のり子さん)も、籠のような檻に閉じ込められ、一夜の座興の見世物のようにされている柘榴痘に罹ったアンリ(山下雷舞さん)・イザベル(島田大翼さん)夫婦も、人としての尊厳も自尊心も踏みにじられる扱いを受け続け、紫の毒、黒い毒を体内に宿し咲かせ、アンリ夫婦の娘ポーリーヌ(太田ナツキさん)もまた、両親を檻から解き放つ鍵を手に入れる為、そこに付け込む葬儀屋兼孤児院の院長ギヨーム(山本周平さん)に純粋さを汚されて白い毒を宿す。

     柘榴痘治療の為に招かれ、柘榴痘の治療法発見に心血を注ぐ医師ジャンピエール(金子侑加さん)と、母ルイーズや、夫のテオフィル(田口真太朗さん)の放蕩さや周りの大人たちの驕慢さを見て、自らはその波に飲まれなかった娘カトリーヌ(小野寺ひずるさん)だけが、毒の花を持たぬ者。

     柘榴痘とは、人の心と軆に芽生え、培養され、留まる事を知らず繁殖する悪若しくは悪心が育んでしまった毒だったのではないだろうか。

     観ながら、いろんな感情、様々な思い、軆ごとひっくり返される様な感覚が皮膚に、細胞のひとつひとつに物凄い勢いで、全身に駆け巡って、まだ、整理がつき切っていないというのが本当のところ。

     それほどに凄かった。2時間25分とは思えない、濃厚で濃密な舞台。気づけば息を詰め、息を殺して観ていて、ぎゅっと濃縮された時間の中に居てあっという間のような、3時間以上観ていたような、なのにこんな短い時間しか経っていなかったんだという不思議な感覚。

     『霓裳羽衣』とは、また違う衝撃に、高円寺の駅まで歩いてたどり着いた感覚すらおぼろで、軆の底から揺り動かされ、覆らされるような感覚に陥った。またひとつ、凄い舞台を観てしまったと思った『ダズリング=デビュタント』だった。

                      文:麻美 雪

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    2017/04/25 22:07

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