パイドパイパー と、千年のセピラ 公演情報 劇団ショウダウン「パイドパイパー と、千年のセピラ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    更によくなろう
     ハッピー圏外とのコラボ企画であるが何分13世紀ハーメルンで起こった子供失踪事件が史実とあって様々な説が飛び交い、解釈も多様な為、何が真実で一体何が問題であったのか? についても様々な想像が可能である。

    ネタバレBOX

    面白いのは、この事件が起きたのが所謂キリスト教による科学精神の否定された時代であったこと、キリスト教原理主義が未だ隆盛を誇るアメリカで、知能の低いブッシュが大統領職にあって十字軍を持ち出したごとく、十字軍に少年義勇軍迄組織される時代でもあったことである。一方、イスラムはこの時代、世界最高の知を誇った。日本では余り知られていないが、renaissanceでは、イスラムを介してギリシャ・ローマの知がヨーロッパに再起したのである。ヨーロッパでは、中世の暗黒時代を通じて聖書に書かれていないこと、聖書と矛盾するような科学的知見は総て表向き抹殺されていた(この辺りアメリカのキリスト教原理主義との類似にも気を付けたい。因みにアホなマスコミが、イスラム原理主義と盛んに言い立てるのは、もともと、キリスト教原理主義をイスラムに仮託して作られた造語であり、日本以外にこんなバカなプロパガンダを用いるメディアを自分は知らない)から、ギリシャ・ローマの知の伝統は一旦、根絶やしにされていたのである。然しながら、ムハンマドが商人であったように、イスラム教徒の多くは商人として世界を股にかけ、行く先々の知をも吸収していた。無論、ヨーロッパのギリシャ・ローマの知もアラビア語に翻訳され、イスラム世界に根付いていたのである。幸か不幸か十字軍がユダヤ教、キリスト教、回教と同じ神を奉ずる一神教の聖地、エルサレムを目指したため、また、諸侯、王の中には、平和を望む勢力が支配する地域や時代があった為、アラビア語からラテン語に翻訳されたギリシャ・ローマの知が、再びローマンカソリックの中心地、ローマなどのイタリア諸都市から欧州全体に再度広まったのである。
    ところで、ここに登場するパイドパイパーとは、夜の女王から特殊な力を授かり各地域の領主の汚れ仕事を担う役割を負わされた日陰者という位置づけだ。今流に言えば、或いは当時の感覚からすれば一種の魔術師とでも考えたら近いのではないか。(無論、中世ヨーロッパの暗黒時代の発想としてである)
    主役を張る林 遊眠は、固有名詞としてのパイドパイパー役でハーメルンの旧領主であるエーフェルシュタイン家・ルードヴィヒ最後のトリックスターとして、聖骸を身に埋め込まれたとされる娘、ミリアムを守り続ける宿命を負う。ミリアムは神の子とされるが故に、宗教者、各地の領主などからその命や居場所を付け狙われる。彼女は拉致される危険をも常に負っている。何故ならば、彼女を自らの陣営に置けば、生きていても死んでいても自らの宗教的権威を高め、権力を増すこと請け合いだからである。そのため、エーフェルシュタイン家でも彼女は殆ど幽閉同前の生活を余儀なくされていた。無論、彼女は普通の子供のように表に出て遊びまわることを望んでいたのだが、それは許されぬことだった訳だ。然も、新たなハーメルンの領主、ヴェルフェン家のアルブレヒトは、主教と結託、旧領主を殺してしまう。今わの際にハイドパイパーを呼び出したルードヴィヒは、娘を永遠に守ることを命じて息絶える。だが、ミリアムは、新領主らの一党に攫われてしまった。それから20年以上の月日が流れた。パイドパイパーと共にミリアムを守った騎士、ヒースと彼の従者、マルヴォ3人でミリアム奪回のチャンスを伺う。その間にもミリアムはヨーロッパのあちこちを連れまわされた挙句、その身は鎖に繋がれて哀れな状態で幽閉されていた。然しパイドパイパーら3人も彼女の情報を集め、ヨーロッパ中を渡り歩いたが二十数年ぶりにミリアムがハーメルンに戻ることを掴み、イスラムの将を仲間に引き入れて彼女の奪還に成功した。然し、これだけでは、ミリアムもパイドパイパーも救われない。何故なら十字軍を組織するキリスト教会や、利害のある領主らは彼らを探し回り再び捉えようとしていたからである。而も、彼女たちは、不死で不死身であった。ヒースもミリアムの騎士となって以来、年を取らない。
     一方、このように特殊な存在である彼らにとって、何の為に生きているか? なぜミリアムを守って戦い続けるのか? 生きている意味は何か? 神とは何か? 神の子、ミリアムが実際、滅ぶと世界はどうなってしまうのか? 等々の問題は未解決であり、見付けたい答えでもあった。果たしてこの謎は解けるのか? 
     物語は、歴史教師が、教科書には載っていない真実の歴史を案内する謂わば狂言回しとして登場し、生徒やアメリカの諜報部の連中に何が起こったのかを説明するという形で進んでゆく。イスラム教徒と十字軍の戦いが続く中、ミリアムを巡る争奪戦も続いている。テンプル騎士団を中心とした十字軍側は、敗退を続け、終に最後の砦に立て籠もった。決戦の日、多くの血が流され、テンプル騎士団総大将の指揮で一旦は、攻勢に転じた騎士団であったが、傭兵を雇い、ミリアムを崇める信者を味方につけたパイドパイパーらが助っ人に駆けつけ形成は逆転、イスラム側が勝利した。その後、神と対峙し攻撃を仕掛けるパイドパイパーであったが、神は、人間の未来は死すべき人間に選ばせようとする。そして、ヒトは選んだ。神の忠告は無視し、誤っても迷いながら生き抜いてゆく道を。何度となく生まれ変わり、12歳で成長を止めていたミリアムと永遠の生を受けたパイドパイパー、騎士たちは、終に自分達を終わらせることを選択した。普通の子供として生まれ変わったミリアムは、明日、13歳の誕生日を迎える。母は、パイドパイパー、父はヒース。(このほかのエピソードも存在するが、これは他日に譲ろう)
     圧倒的な存在感を見せつけるパイドパイパー役、林 遊眠の表出する永遠の孤独と、その寂寞を鏡に映したかのようなミリアムの二人ボッチが、観客の魂を揺すぶる。実際、ヒトが神を必要とするのは、このような絶対孤独を通してなのであり、それ故にこそ、神を信ずる者を他者は否定できないのだ。

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    2015/09/05 02:19

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