鑪―たたら (残席僅か) 公演情報 劇団青年座「鑪―たたら (残席僅か)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    ストレートプレイを堪能
    サスペンデッズ主宰の早船聡さんの戯曲を青年団のベテラン俳優たちが演じる。
    老舗劇団の実力を味わう。

    ネタバレBOX

    昔、キューポラの煙が火事のようにたなびいていた町が、今や、マンションの建ち並ぶところとなった。
    かつて、親友だった鋳物職人は、ひとりは不動産プローカー(今西康平)に、もうひとり(水沼鉄三)はその町を離れ、別のところで息子と鋳物工場を続けていた。
    「キューポラ」という喫茶店で彼らをめぐる物語。

    訓練と経験を積んだ俳優が、時間をかけて準備し、演じるストレートプレイは、絶品である。
    こういう言い方は、なんだけど、多くの若い小劇場系劇団では出せない味がある(どちらがいい、というわけではない)。
    先月見た文学座でもそれを感じた。

    早船作品は何回か観ているが、青年座のこの作品は、どっしりと腰が据わっている。
    もともと戯曲が持っている資質なのだろうが、それが経験と訓練を積んだ俳優たちによって、十二分に活かされている。

    不動産プローカー・今西康平役の山路和弘さんが、フル稼動。
    本当に気持ちがいいほど、最初から最後までの、熱量が変わらない。
    途中の昔のシーンが差し挟まれ、山路和弘さんが素早く切り替わり、おばさん役を演じるところがある。
    おちゃらけているようでも、本編を乱さない強度がある。
    こういう味、強度は若手の俳優ではなかなか出ないだろう。
    単なるおふざけに見えてしまうから。

    そして、山路和弘さんに対する腕のいい鋳物職人・水沼鉄三役の山本龍二さんの佇まいがいい。
    黙って立っているだけで見える、対比が見事。

    離婚により家族から離れて1人の男と、息子に期待をかけすぎて、宝であるその息子を失ってしまった男が、表面上ではぶつかっているようで、実は、わかっているということが、後半に見えてくるという戯曲がうまい。しかも、それを広げて見せないところに美学さえあると感じた。
    互いに息子にどう接していいのかわからなかったのだ。

    その息子役の2役には驚いた。
    石母田史朗さんが、まったく違う2人の息子をくっきりと演じ分けていた。

    同じ俳優が演じることで、一見違う息子と父親の関係が、根っこは同じではないのか、とも感じさせてくれるのだ。

    彼ら2人や、彼らを取り巻く人々の仕事への誇りも感じさせる。
    さらに、今日的な、ヘイトスピーチ、失業者、ニート、在日、ネット、そんな背景が裏に見え隠れするところもうまい。

    やたらカッコ良すぎるシーンもあるが、状況説明の小芝居が面白すぎる。
    面白すぎるのだけど、くだらないとか、ベタとか感じないのは、基本の確かさがあるからだろう。

    工場と喫茶店を兼ねたようなセットもいい。
    キューポラから流れでるように見える湯(溶けた鉄)の感じとか。

    この作品を、7人の俳優で演じ切ったのは驚きだ。

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    2015/07/05 04:08

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