テンペスト 公演情報 劇団山の手事情社「テンペスト」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    『テンペスト』への新たな扉がコメディで開いた?
    こんなに闇黒で、湿った『テンペスト』は初めて。
    しかも、「コメディ」な側面から観てしまった。
    そういう見方は、劇団側にすれば不本意だろうが。

    ネタバレBOX

    プロスペローの娘・ミランダが、メガネのおばさん(失礼)だとわかったとき「これはコメディではないか」と思った。
    純情なイメージのミランダが、濃厚なのである。
    肉を感じさせる動きが、『テンペスト』に新たな物語が始まるところを見せているようだ。

    彼女の、いわば、純真、純情から来る情熱(愛情)が、別のもの(肉欲的なもの)に置き換えられたときに見えてくるのは、父・プロスペローとの関係だ。ついつい勘ぐってしまう。
    こんな解釈の『テンペスト』は初めて観た。

    暴力的、それは愛情表情までが暴力的である。それで押して来る。
    ミランダが王子に対する行為もそうである。

    ミランダを中心に、欲望が剥き出しになっているように見える。
    逆境にあっても、おのれの欲望を剥き出しにする。
    王子までも、ふと、「王に」などと言い出してしまう。
    もともとあった欲望が、より黒く、露わになってくる感じなのだ。
    女王とかプロスペローの弟だけにあったように見えていた黒い欲望が、登場人物全員がまとっている感じだ。

    舞台への集中が少し途切れ、作品の中で見ていたはずの視線を、「コメディ」という、少し引いた位置で見ることになると、面白み、おかしみが見えてきた。
    おおげさすぎる台詞回しと表情、なぜかそれらはすべて中腰で発せられたりする。

    コメディ的な方向性から観ることは劇団側では決して望んでいないだろう。
    ここにあるコメディ的な笑いとは、明るく乾いたものではなく、淫靡で湿った黒い笑いなのだ。
    衣装と舞台装置がすべて黒いというわけではないが、全体を覆うのは、ダークだ。
    黒子ではなく、奇妙な動物のような、気配もある。

    ダークの中にあって、さらにダークな存在は、舞台の上手に縛り付けられて、奇声を発する半裸の男だ。
    彼は、あまりにもアングラ、アングラしすぎていて、私の中では、コメディの領域に完全に入ってしまった。ついニタニタしてしまう。
    しかし、それが意味するところは結構深い。
    「縛り付けられていた」男は、実は自分の意思でそうしていることがわかる。
    あっさり、縛(いまし)めを解き、自ら立ってしまうのだ。
    「縛っているのは自分」ということなのだ。

    復讐に燃えるプロスペローにしても、実のところ「縛っているのは自分」であるということが、示されているのではないか。
    もちろん、プロスペローに縛られているはずのキャリバンもそうだ。

    コメディと書いたが、舞台への求心力はすさまじく、観客の目と心をとらえて離さない。

    ミランダ役の倉品淳子さんの黒いねっとりした濃厚さは凄い。
    キャリバン役の岩淵吉能さんの、醜悪で卑屈な様も見事。

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    2015/07/03 05:05

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