ツギハギガール 公演情報 バカバッドギター「ツギハギガール」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    純愛と
     人呼んでフランケン博士の住みついた洋館は、そのオゾマシイ噂の為か、人は殆ど寄りつかない館だった。

    ネタバレBOX

     そのオゾマシイ噂とは、博士は櫛けずらず、髭も剃らず、風呂にも入らない為、異様に臭い等々。どちらかというと恐怖よりコミカルな要素が強いのだが。このフランケン博士、独学で解剖学を学び、生業は、ペットの死を受け入れられない飼い主の依頼を受けた業者が回してくる犬の遺体を生前そっくりの剥製に作りかえることで立てていた。然し、ある嵐の夜持ち込まれたのは、若い女の、死後時間の経っていない遺体だった。博士は遺体の蘇生を試み成功した。だが、“夜”と名付けられ蘇生した死体は彼の期待に反して、博士の言葉をオオムのように繰り返すだけだと彼は認識、絶望した。然し、事実は異なった。殆どをミメーシスに頼ったのは事実であるが、彼女の反復にはオリジナリティーが含まれていたし、そもそも、体は大人の女性でも、蘇生したばかりの身体は新生児に近い。新生児はミメーシスを基本とするのは常識というか、生きて行く為に本能が要求する必然である。従って夜に間違いは無い。
     一方、マス塵に属するハズの三流ゴシップ誌、「電気グラフ」には、博士から取材依頼が届いていた。如何に世間に疎いとはいえ、博士も知能は高い。実験に掛かる費用や電気代を払わなければ肝心の実験が出来なくなること位分かる。(安倍晋三などより遥かに賢い訳だ)で、取材依頼することで何がしかの対価を得られると踏んだ訳である。出掛けて来た編集者は、駆け出し。仕事となれば一所懸命にこなすし、まあ、掲載できるレベルの仕事はできるのだが、この件では、経験の浅いこともあって難がある。だが、編集者兼表現者として最も大切な人間としての価値観はしっかりしているし、究極の、選択を迫られた場合にも、自分の頭で考え、結論を出すことができるだけの人間である。だが、時代の阿保な流れにコミットしていない訳でもないので、表面上は、恋愛問題で激しい浮き沈みを経験するタイプということになっている。が、実際には、そんな泥沼に嵌っている訳ではなく、心理的なゲームの領域に留まっている。要は感受性の鋭い未通女である。
     博士の所に出入りするのは、犬の死体を持ち込む死体屋。サラリーマン的なので、本質に余り関係無い。ストーリーを現代的に構築する為とそれらしさを付加する為の役回りであるが、役者はいい役者を使っていて、必要以上にでしゃばっていない。因みに狂言回しなら他にも居る。
     おどろおどろしい設えなのだが、純愛ものである。恥ずかしくなるほど、純で無垢。夜が実は脳が劣化して死に至る難病患者だったこと、祖母の面倒を良く見、遺体の使える部分は、必要な人に移植するよう生前言い残していたこと、彼女の独自の記憶の中に祖母に食べさせる為の料理のレシピが残っており、そのことによって、博士と担当編集者の間に生まれ掛かっていた恋に、二人の子供への明るい未来が示唆されていること、自己犠牲の尊さを表す為に、オスカー・ワイルドの「幸福の王子」の逸話の幾つかが巧みに援用されていることなどで、頗る自然に、嫌みのない大団円で観客を道徳の高みへ連れていった。観劇後爽やかに感じたのはそのせいだろう。

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    2015/05/27 02:44

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