追憶のアリラン【ご来場ありがとうございました!】 公演情報 劇団チョコレートケーキ「追憶のアリラン【ご来場ありがとうございました!】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    優しく厳しい問いかけ
    現在の社会状況に対して、素晴らしい問いを発している。

    ネタバレBOX

    今の政権は過去の日本の植民地支配を正当化しようとしている。
    また、世相レベルでも、一時の韓流ブームが嘘のように、韓国への好感度が下がってきている。北朝鮮へのバッシングは以前から常態化している。
    そのような社会状況の中で、この作品の問いかける意義は大きい。

    なによりも、歴史に無関心な人、またはなんとなく偏見を持っているような人に届くように慎重に作られている。
    その姿勢が本当に素晴らしい。

    このようなテーマで作品を作ると、どうしても右か左のイデオロギーに偏ってしまいがちだ。それでは問いかけているようでいて、その実、観客を選び排除しているに過ぎない。そのメッセージに共感できる者は喝采し、共感できないものは軽蔑する。観る前と観た後で何も変わらない。何も届かず、何も問うことはできない。だが、この作品は違う。左・右・無関心などの立場に関係なく届く作品になっている。

    ただし、個人的には少し配慮しすぎなように思えた。歴史をよく知らない、または無関心である層への配慮に加え、韓国人や北朝鮮人、在日コリアンへの配慮が加わり、とても丸くなってしまっているように思えた。間違わない、誤解を与えないとの配慮。それも言葉ひとつひとつに至る配慮。そのために、差別の根本にある醜悪なものの濃度は減り、予想を裏切るようなもの、はみ出すようなものも見受けられなかった。つまり突き刺さるようなものがなかったのだ。個人的には観終わって「よかった」と思うよりも、「胸糞悪いけど、概念を揺り動かされた」と思うような作品が見たいと思っているタイプのため、尚更そう思うのかもしれない。

    とは言っても、構造の内部で身動きがとれなくなる人間の描写は素晴らしかった。戦争という極限的状況ではなくとも、私たちの日常的な生活の中でも同様の力学は常に働いている。様々な環境や条件の中でキレイゴトや信念を通すことができないということは、どんな人間でも多かれ少なかれ日々経験していることだ。そのように自分の実人生と重ねて作品を観ることができたことで、当時の人々の苦悩に少しは近づけた気がした。そう思えたということは、この作品が戦争という表面テーマを超えた普遍性を有したものだという証拠だろう。

    いずれにしても、このような作品をこの社会状況に問うていることが本当に素晴らしいと思う。

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    2015/04/09 23:33

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