黄昏にロマンス ―ロディオンとリダの場合― 公演情報 (公財)可児市文化芸術振興財団「黄昏にロマンス ―ロディオンとリダの場合―」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    とても素敵な舞台
    いずれ人は1人になっていくにしても、こんな出会いがあれば、明日も明後日も、その後も、きっと楽しくいられる。
    それを感じることは、多くの観客にとって、素晴らしいプレゼントではなかっただろうか。

    ネタバレBOX

    平幹二朗さんと渡辺美佐子さんの2人芝居ということで、気合いを入れてチケットを予約し、公演を楽しみにしていた。

    可児市文化芸術振興財団主催の公演が吉祥寺シアターで行われるときには、観客に可児市のバラがプレゼントされる。
    今回も、きれいにラッピングされた、赤いバラが一輪ずつ座席に置いてあった。

    この舞台にふさわしい、美しいプレゼントだった。

    舞台が開くまでこの戯曲の舞台を見たことはないと思っていた。
    しかし、幕が開き、平さんが登場したとたんに思い出した。

    数年前に加藤健一事務所の公演で見た『八月のラブソング』だ。
    こちらは、加藤健一さんと戸田恵子さんの2人芝居であった。

    設定も内容もまったく同じだ。
    8月のある日、バルト海に面したリガ湾のほとりにあるサナトリウムで、院長と患者という立場で出会う2人の1カ月足らずの物語。

    あとで知ったのだが、杉村春子さん、越路吹雪さん、黒柳徹子さんも、この作品を演じたことがあるという。

    しかも、杉村春子さんの舞台は『ターリン行きの船』、越路吹雪さんは『古風なコメディ』、黒柳徹子さんは『ふたりのカレンダー』と、タイトルがすべて違う。
    こういう作品も珍しいのではないだろうか。

    加藤健一さんと戸田恵子さんの『八月のラブソング』では、加藤健一さんが、とてもクセがあるサナトリウムの院長を演じていて、その頑なさを戸田恵子さんが演じるリダがほぐしていくといった展開だった(加藤健一さんが教授などのインテリを演じると、大体このようなクセのある人になる・笑)。したがって、2人がぶつかり合うという前半であった。つまり、笑いもそれなりになる(コメディとしているので)。

    対して、この公演での平幹二朗さんは、お茶とお菓子で読書をしている、というようなシーンも、品良く、かつスタイリッシュに決まり、年老いたインテリという風情に溢れていた。
    なので、『八月のラブソング』のようなぶつかり合いではなく、サナトリウムの院長が、静かに暮らしていたところに、元気のいいおばちゃん・リダがやって来て、波紋を投げかける、という展開で、その波紋が静かに平幹二朗さん演じる院長の胸に届くという品のようなものを感じた。

    「元気のいいおばちゃん」と書いたが、それは院長との対比であり、渡辺美佐子さん演じるリダも自然体で、町のおばちゃんの上品さはある。
    彼女の、1つひとつの行動や発言が愛らしいのだ。

    だから、院長が心ひかれていく、という展開も無理なく受け入れられる。

    とにかく、この公演でのお二人の様子は、さすが! としかいいようがない。
    軽いコメディ的なところもあるのだが、その間合いが、実に絶妙で、爽やかな笑いが生まれてくるのだ。

    2人には、戦争が、まだ色濃く残っている。
    院長は、この地で戦死した従軍医師であった妻のことを偲び、この地に移り住んで暮らしている。
    リダも終戦間際に一人息子をドイツで亡くしている。
    このエピソードへの導入がうまいのだ。

    大きく笑わせるわけではないのだが、笑顔の先にある悲しみが、じんわりと伝わってくる。

    舞台の設定は、1968年。
    ベトナム戦争の真っ直中であり、ソ連関連では、プラハの春が起こって、ワルシャワ条約機構軍がそれを蹴散らしに介入した。
    そんな戦争や、その影がちらつく中での、先の戦争を取り入れた設定ではなかったのだろうか。

    まあ、舞台の上では、それを匂わせることも、当然なく、歌やダンスも素敵だったし、セットも色合いといい、舞台を回転させて変化を付けるというのも効果的だった。

    ちなみに、『八月のラブソング』では、院長の心象風景なのか、灰色の瓦礫のような背景のセットで、気分は少し暗くなったのだが……。

    年を取って、一人でいることは苦痛でもなんでもない、と思っていた院長が、同じく年を取っているのだが、命をキラキラと輝かせているような女性に出会い、思慮と品のある恋に落ちるというのは、多くの観客にとって、素晴らしいプレゼントではなかっただろうか。

    いずれ人は1人になっていくにしても、こんな出会いがあれば、明日も明後日も、その後も、きっと楽しくいられるのだから。

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    2014/11/10 07:31

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