ローゼ・ベルント 公演情報 燐光群「ローゼ・ベルント」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    目を、見開かせる。
    一年を象徴する漢字として、「偽」が選ばれたのは去年の暮れ。相変わらず、世界は「偽」に満ちている。

    とはいえ、僕らはすぐに、慣れて、そして、忘れる。「偽」も、忘れる。でも、この演劇は、そうさせてくれない。無理矢理、僕らの目をこじ開ける。

    世界を、見せる。僕らの目を、見開かせる。涙を流すひまもない緊張感で迫る。そんな舞台だった。

    ネタバレBOX

    ハウプトマンという人(ノーベル賞文学者)の、100年以上も前の作品を、坂手洋二さんは現代とつなげてしまった。舞台は精肉工場。日常的に偽装が行われていて、それが当たり前になっている世界。

    工場で働く美しい娘ローゼは、工場を経営する社長と不倫している。彼女は聖職者との結婚が決まっているが、不倫関係を知った工場の技師にゆすられ、身体を要求される。嘘を嘘で塗り固める暮らしの果てに追いつめられたローゼの取った行動が、裁判沙汰に発展し、偽装に満ちた、食肉工場という世界そのものの破滅につながってしまう。

    社長、その妻、技師、ローゼの父親。大人達の世界は、「偽」に覆われている。そして、それが当たり前すぎて、そのことに気づくことさえできない。

    終わりの見えない泥沼の裁判の中、狂ったようになってしまったローゼをみながら、社長はいう。「ローゼは、私たちをみて、私たち(のような、嘘にまみれた大人たち)が当たり前の人間だと思い込んでしまったんだ。これは私たちの責任だ」と。これは、響いた。「偽」の世界を当たり前だと思って育つ子ども達の国は、どこへ向かうのか。

    もとは、地主と小作人たちの物語だったという。設定を理解していない最初のうちは、いつの物語なのかわからなくてとまどってしまったけれど、いつの間にかどうしようもなく現代的な、そしてとても普遍的な物語が見えてくる。

    簡素で抽象的な舞台装置が、僕ら観客に、比喩を読み解くことを暴力的に要求してくる。なにもない舞台を工場として見ようと、僕らの無意識がアナロジーを読み取ろうとがんばるうちに、それぞれの人物が、何を見ようとして、なにを見まいとしていたかが、見えてきてしまう。世界の裏の、見たくないものに、気づかされてしまう。それは、汚い世界を見まいとして、目を閉じようとするうちに、どんどん嘘に追いつめられていく、そんなローゼの苦しみと重なっていく。

    ローゼ役の占部房子さんの、ラストの狂気は、共感すら受け付けないほど。美しくて、恐ろしくて、文字通り圧倒的。僕は、涙を流すことも許されない。演劇の持っている、暴力的な力に、ただ圧倒された2時間。

    新設のせんがわ劇場は、狭い。椅子が、小さくて、固い。お尻が、痛い。長くて、休まるゆとりのない劇なので、ちょっとつらかった。

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    2008/07/04 19:38

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