獣の柱 まとめ*図書館的人生(下) 公演情報 イキウメ「獣の柱 まとめ*図書館的人生(下)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    現実の世界では「柱」は見えない −− 現代社会の危うさ
    スケール感のあるSFタッチな作品。
    ストーリーが面白い。
    ぐいぐい引き込まれた。


    (また長々と書いてしまった……)

    ネタバレBOX

    SFっぽいのはイキウメらしいが、非常に身近な世界に生きる人々と描いてきたのとは少し異なり、非常にスケールが大きくなっていた。
    もちろん、世界規模の話ではあっても、そこに生きる人々の姿はしっかりとある。

    大きく時空を超え、とにかくその意味でもスケールが大きく。
    シーンの切り替えが鮮やかだ。

    この作品は、3.11がなかった世界の出来事として描かれる。
    2008年から始まり、何十年後か先まで続く。

    「ラッパ吹き」というキーワードが黙示録的で、スケールだけでなく、深みを増していく。
    どこか「宗教」の匂いをさせながらも、この作品は、現代社会の危ういところをえぐっているように感じるのだ。

    世界に突如として空から柱が降ってくるという、予測不能の災害が起こる。
    宇宙から落ちてくるのではなく、高々度の大気圏内に突如として現れた巨大な柱が降ってくるのだ。

    その出来事の本当の恐ろしさは、柱が降ってくることだけではなく、柱を見ると幸福感にとらわれて、何もできなくなることだ。
    つまり、目をそらすことさえできなくなり、食事も睡眠もできなくなり、そして衰弱し死に至る。
    柱は、災害の源なのだが、その我を忘れるほどの幸福感が得られるためか、「御柱様」と呼ばれるようにさえなる。

    「御柱様」は台風や地震などの天災のようではあるが、「柱」という建造物であるので、人為性が感じられる。2013年の、今となっては、原発事故を想起してしまう。
    つまり、原発は電気を通じて社会に幸福をもたらせていたのではないだろうか。原発自体にはいろいろ問題があることは薄々感じていたのにもかかわらず、その「幸福感(利益)」のみに目を奪われ。問題点から目をそらし、先送りしていた。それは劇中で「御柱様」から目をそらすことができなかったのと同じだ。

    「原発」と書いたが、単にそれだけではなく、経済や利益優先で進んできた世界と、言ったほうがいいだろう。

    人口がある一定の量を超えた場所に柱は落ちて来る。
    なので、「人類は増えすぎてしまった」「災害は天の意思である」というとらえ方もあろうが、それよりもニュータイプのような人たちの出現(柱を見ても目をそらすことができる人たち)が、一番のキーだろう。

    先の「原発」を例とすれば、「(福島の事故を)知ってしまった」人たちは、利益のみに目を向けるのではなく、それから離れて、考えることができるようになっていると思う。
    なので、ニュータイプのような人類の出現は、新人類の誕生というよりは、「現実を見つめることができる」人たちの誕生と言っていいのではないだろうか。

    「御柱様」以降の世界では、「御柱様」を崇め、宗教のように共同体の一部に取り込んでいる。
    (……このシークエンスは核戦争後の世界で、ミュータントたちがコバルト爆弾の弾頭を崇めていた『続・猿の惑星』を思い出してしまった……)

    その中にあって、言わば「王様は裸だ」と言い出てしまうニュータイプたちは、異端であり、その地を離れなくてはならない。

    何も知らずに崇めている人たちにとっては、排除すべき人たちだ。
    原発事業から大きな利益を得ている場所で「原発廃止」を言い出す人が、ニュータイプたちな重なる、と言っては深読みしすぎだろうか。

    原発に限らず、経済、利益優先で進んできた、この世界は、いつも何かの歪みも生んできた。
    切り捨てられてしまった人々、世界中に撒き散らされる害毒(物理的なものもあれば情報のようなものもある)、争い。そうしたものに目を向けて考えることが必要になりつつあるのだ、ということが示されているように思う。

    この作品の「御柱様」は見えるけれど、現実の世界の「御柱様」は見えない。
    それを見えるようにすることが大切なのかもしれない。

    劇中ではニュータイプたちは次々と現れていく。
    これは世界の再生の光なのだろうか。
    そうに違いないと、思った。

    役者さんたちは、みんなうまい。市井の人の、哀しみなども少ない台詞で見事に表していた。
    「御柱様の使い(大使?)」として、失踪した望(浜田信也さん)が現れるシーンにはゾクゾクしてしまった。

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    2014/01/08 06:56

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