死が二人を分かつまで、愛し続けると誓います(黄金のコメディフェスティバル最優秀作品賞、受賞) 公演情報 ポップンマッシュルームチキン野郎「死が二人を分かつまで、愛し続けると誓います(黄金のコメディフェスティバル最優秀作品賞、受賞)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    危ない橋を渡りぬき栄冠奪取!
    「黄金のコメディフェスティバル」千秋楽ぶっ通しスペシャルで観た本作、かなり危ない橋を渡ったチャレンジングな一作だったと思う。コメディコンペの出品作としてはいささかホロリ要素が強すぎるようにバルブには感じられたのだ。あとわずかでもホロリ要素が強かったら全6作品を観て投票権を得た観客たちも、そして5人の審査員も本作をコメディとは見なさず、多くの票は集められなかったかもしれない。しかし、ホロリ要素が許容範囲内にギリギリ収まっていると多くの投票者が判断したのか、蓋を開けてみれば最優秀作品賞と観客賞をW受賞! ホロリ要素が強かったとはいえ、千秋楽スペシャルでいちばん笑いを取っていたのは間違いなく本作だったし、バルブもこの作品が最も栄えある2賞を受賞してホッとした次第。バルブにはホロリ要素が濃すぎると思えたものの、作・演出家がおそらくは多少の不安を感じながらも“えいっ! これで良し!!”とした笑いとホロリの配合バランスは結果、間違っていなかったのだ。
     この好バランスが作・演出を手がけた吹原幸太氏の類稀なる脚本力の賜物であることは言うまでもない。

    ネタバレBOX

     点滴が手離せない瀕死の高齢者、黒人、山の神。三姉妹が意表を衝く彼氏をいちどきに紹介してお父さんを驚かせる爆笑モノのシーンから始まり、涙腺を緩ませずにおかない感動的なシーンで終わる本作。
     落差のありすぎるオープニングとエンディングをみごと一本の線でつないでみせた吹原氏のストーリーテリングの巧みさにまずは喝采を送りたい。
     しかも、話をきちんと前進させつつ随所に無理なく織り込んである無数の小ネタはどれもハイレベルで、その中には他団体がほとんどやらなかった時事ネタも。「お前、罰として×××で働かせるぞ!」という、今話題のブラック企業を皮肉るそれこそブラックなネタもあったりして、これにバルブをはじめとする観客が爆笑したのは言わずもがな。
     バルブが演劇、中でも笑劇を好んで観る理由の一つとして“今を感じたいから”というのがあるのだが、時事的なギャグを入れられるのは生モノである演劇固有の強みで、映画やドラマではここまで即時性の強い時事ネタは不可能なのに、この強みを他の参加団体がほとんど生かさなかったことには大いに疑問。あるいは“古典的名作”を志向していて、後代まで残すには時事ネタは邪魔と判断したのかもしれないが、それは後代の演出家が時事ネタ部分を折々の世相を反映した別の時事ネタに差し替えれば済む話ではないか! 好みもあろうが、笑劇団が時事ネタをやらないのはバルブとしてはただの怠慢だと思う。
     ただ、時事ネタをやらない代わりに他団体も8割世界を除き下ネタには積極的で、本作の数多い小ネタの中にも下ネタは少なからずあるのだが、下ネタの見せ方はPMC野郎が群を抜いて上手かった。
     トンネル突入前の新幹線と突入後の新幹線の写真を交互に見せてSEXを表現したり、「大きくなった」というセリフを「下ネタ!?」と誤解した黒人に対し別の誰かが口の前で人差し指を振ってみせてそれが誤認であることを教え諭すという“メタ下ネタ”とも言うべきギャグがあったり、どの下ネタにも“ひと捻り”があるのだ。
     ひと捻りがあるといえば、エンディングもそう。
     冒頭で意表を衝く彼氏を娘たちに紹介される“お父さん”は霊視能力を持つ画家の叔母を尊敬していて、本作は幽霊が見えるその叔母と先に逝った夫の悲恋譚。
     夏には必ず連れ立って避暑地のホテルに出かけ、そこに住まう奇妙なお化けたちと騒動を繰り広げながらも仲良く過ごす親密な2人だったが、妻が他の男と会っているのを偶然見た夫は死者である自分に妻が不満を感じているのだと早合点して妻のもとを去る。
     それから40年―。すでに80歳を超えて余命わずかなはずの妻をひと目見たくなった夫がかつての愛の巣を訪ねると、「引っ越したら見つけ出せなくなるから…」と妻は相変らずそこにおり、涙ながらに言う。「遅すぎたわよ。私、独りでずっとここで待ってたのよ…」
     ひと捻りはここにある。
     ここで終わればサッドエンディングとなるわけだが、涙する妻の背後からはかつて夏をともに過ごしたお化けたちが満面の笑顔でゾロゾロと出てくるのだ。
     涙する妻の背後からお化けたちが現われるくだりは本編のラストシーンとも取れるし、カーテンコールの導入部とも取れる。つまり、吹原幸太氏はラストをお涙エンディングと受け取るかおバカエンディングと受け取るかを観客の判断に委ねたわけだ。
     事実、エンディングの受け止め方は分かれたようで、審査員の1人であるカンフェティ取締役の方はこれをお涙エンディングと、ラッパ屋の鈴木聡氏はこれをおバカエンディングと捉えたことが審査コメントから窺えた。
     ちなみにバルブは後者だったが、もしも本作がサッドエンディングとしか受け取れない終わり方をしていたらグランプリが取れたかどうか…。その終わり方だと多くの投票者が本作をコメディとは捉えず、結果、得票が減って栄冠は別の作品に渡っていたかもしれない。
     そう考えると、あらためてこう思わざるをえない。
     PMC野郎は、本当に危ない橋を渡ったんだなぁ……。

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    2013/08/29 17:17

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