虚人の世界 公演情報 公益社団法人日本劇団協議会「虚人の世界」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    文学的、、、
    何重の意味でも、評価が難しい。

    安部公房に似た感触。作家の理性によって統御された、寓意に満ちた、狂気の世界。

    言語で構築されている舞台を2時間近く観るのはキツかった。
    それでも、役者さん達は実力派、演技が素晴らしかった。

    ネタバレBOX

    言語・理性で構築された狂気の世界。
    おそらく読み物として読めば、より面白いのだろうが、舞台で言葉ありきのものを2時間近く観るのは正直辛い。

    非現実的な物語は、寓意に満ちていて、その寓意も単純なものではなく、ある意味が途中で反転したりもする。
    そのため多様な解釈を生む部分もあるが、暗に意味しているものは概ね規定されている。

    主人公は、事故をきっかけに、「虚人」が見えるようになってしまう。
    その虚人の正体は最初わからないのだが、物語が進むにつれて、
    陰口や悪口などのような、世の中に存在する悪意のようなものの形象化した姿、またはそれに染まった人のことだとわかる。
    反対に、主人公は、虚人が見えるようになるにつれて、「人」の姿が見えなくなっていく。

    途中、主人公は、罵りの言葉を吐くことで、その虚人を<内破>させる(消す)ことができると気付くが、その虚人を内破させる言葉を、姿の見えなくなった妻に対して無意識に吐いてしまう。
    このシーンにはゾッとした。人間は無意識に、そのような暴力を行使してしまうと思ったからだ。

    虚人を、つまり人間の悪意を、よく見えるようになってしまった主人公は、それを遠ざけ清らかな精神になったかと言えば、そうではなく、むしろ自分こそ、その虚人そのものだと気付いていく。
    他人の悪意に敏感になるということは、自分の中にある悪意にも敏感になるということか。
    人が見えなくなったのは、人を人として見なくなったということか。
    人でなくなったということか。

    更に、ラストシーンでは、
    「今度こそ帰ろう あの悪意に満ちた なつかしい世界へ」と言いながら、ビルの屋上から飛び降りる(ように見える)。
    舞台上では、それまで「虚人の世界」と出ていた文字が、「人の世界」へと変わっている。
    「悪意に満ちたなつかしい世界」こそ、人の世界なのだ。
    だが、そこに帰るとは?
    主人公は死を選んだのではないか。
    死んで、人間の悪意を見なくてもいい安寧を手に入れたいということか。
    ということは、その死は、生命の死ではなく、ある精神の死を意味するということか。
    精神を殺し、何かを見ないようにすることで、人の世を渡っていけるようになる、元の自分に戻るということか、、、

    解釈は多様に存在するのだろう。

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    2013/07/20 23:30

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