『熱狂』『あの記憶の記録』ご来場ありがとうございました!次回は9月! 公演情報 劇団チョコレートケーキ「『熱狂』『あの記憶の記録』ご来場ありがとうございました!次回は9月!」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    【熱狂】男子の好きな制服の果て
    初演を見逃していたのでぜひ観たかった。
    現代日本とどこか通じる第一次大戦後のドイツ経済の疲弊。
    不満と期待の化学反応による爆発的な大衆のエネルギーを味方につけて
    ヒトラーは独裁への階段を駆け上った。
    あの「熱狂」がなぜどうやって生まれたのかを
    単なる時代のせいではなく“人間の仕業”として描き出している。

    ネタバレBOX

    長方形の劇場の三辺が客席になっている。
    残った長辺の壁を背にして少し高いところに
    フューラー(党指導者)の座が設けられている。

    冒頭ひとりの男が登場して、これからヒトラーの裁判が始まることを告げる。
    そして客席の間の通路に被告人席が照らし出され、ヒトラーが浮び上る。
    「私が有罪だというならそれは受け容れる。
    だが、私を支持すると言った政府が罰せられないのはなぜか。
    私が有罪なら、彼らも又有罪のはずである」

    1924年、ミュンヘンでナチスが武装蜂起したミュンヘン一揆の裁判である。
    被告人が滔々と演説して傍聴席も裁判官も聴き入ってしまうという
    ヒトラーの悪魔的なまでに巧みな、人心掌握の手段がここで披露される。
    ヒトラーは禁固刑を受けるが10カ月ほどで釈放、すぐにナチスを再結成して
    ナチスはここから誰も止められないほどに拡大して行く…。

    冒頭登場した男はビルクナーといって、ヒトラーの身の回りの雑用係である。
    純朴・正直を買われて採用された、いわば独裁者の近くに置いても安全な男だ。
    舞台は、単純にヒトラーを信奉する雑用係としてのビルクナーが
    もうひとつの役割である“狂言回し”として、
    時代や側近たちの裏を解説しながらすすんでいく。
    このビルクナーの解説のおかげで、舞台はとても解りやすくなった。
    演じる浅井伸治さんが“鈍と鋭”を鮮やかに切り替えてメリハリがあり
    3か所の出ハケでスピーディーに展開する舞台について行くのを助けてくれる。

    側近たちのキャラクターが人間味あふれていることも魅力的だ。
    総勢9人の男たちのうち、2人か3人が部屋に残ると
    たちまち密談が交わされるような危うい結束の一面も描かれる。

    シュトラッサーを演じた佐瀬弘幸さん、自分は裏切り者ではないと訴える場面、
    聞き入れられなかった口惜しさが全身からほとばしるようで素晴らしかった。

    9人の中でヒトラー(西尾友樹)は、あまりひとりにならない。
    アフタートークで語られたように、ヒトラーのビデオを観まくって
    身ぶり手ぶりを研究したという演説の場面などは素晴らしく迫力がある。
    いわば“男子の好きな政治という名の部活”に夢中になる男たちの
    集団の勢いやテンションはよく表現されているが
    その一方にはヒトラー個人の迷いや弱さがあったはずで
    もっとその対比があったら、あのテンションの高さがさらに活かされたように思う。
    6~7割を占める、互いに顔を近づけて怒鳴り合う場面と、説得力ある演説のほかに
    独裁者にならなければ存在理由を見いだせなくなって行く男の孤独を
    覗き見ることができたら、と思う。
    せっかくビルクナーという雑用係がいるのだから
    ”家政婦は見た”的に無防備なヒトラーを見たかったかな。

    ひとつ、ソファの位置はあそこがベストだろうか?
    もう少し客席と距離を取ることは難しいのかな、と思った。

    アフタートークには、脚本の古川氏と演出の日澤氏、
    それにやはりヒトラーを扱った作品「わが友ヒットラー」を来週上演する
    Ort.ddの演出家倉迫氏が登場したが
    “閉塞感から極端な思想に走りたくなる”状況が
    今の日本と似ていて怖いという話に思わずうなずくものがあった。
    倉迫氏の言う、究極の“ごっこ遊び”の果てに、
    歴史は永遠の代償を払うことになった。
    今日の幼い日本の民主主義と外交を思うと
    今、この世紀の悪人を様々な方向から描くことの意義を改めて痛感する。

    0

    2013/03/25 02:03

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大