タニンノカオ~人命救助法2012 公演情報 シンクロナイズ・プロデュース「タニンノカオ~人命救助法2012」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    スキャンダル!
    人間の“欲望の行き着く先”を描いた二つの作品は、不条理というより
    スキャンダラスな新聞の三面記事のよう。
    コミカルとシリアス、全くテイストの違う2作品で1時間45分とコンパクトながら
    ストーリーの面白さと演出の違いがとても面白かった。

    ネタバレBOX

    「人命救助法」
    溺れた人を助ければ、表彰され名誉を得てその結果金になる・・・(マジっすか?)
    だから4人で協力して“やらせ”の人命救助をしよう!という話。
    冒頭のコーラスが楽しい。
    ♪わら、わら、わーら♪
    と藁をも掴む輩を揶揄する歌詞で結構上手に歌うもんだからますます可笑しい。
    銀行の融資やら、校長への昇進やら様々な思惑を抱いて腹黒い4人が結託する。
    ところが案の定裏切り者が出て水の中で足の引っ張り合い。
    このスローモーションの格闘がとても面白かった。
    ブラックなそれもあっけないブラックな結末で、
    掴む藁を間違えるとこういうことになるんだと実感。

    薄暗い舞台上で背中を向けて着替える役者を見せながら次の作品に入っていく・・・
    しかもとてもスマートに行われていて感心した。
    2つの作品が関連性を持っていること、
    そして同じ役者がここからスイッチを切り替えていくことが伝わって面白い。

    「タニンノカオ」
    施設の爆発事故で顔を失った男。
    欠損した人体のパーツを本物そっくりに作る医師が彼に新しい仮面を与える。
    見た目と機能を補えば、人工パーツによって元の生活を取り戻すことができるのか、
    それはパーツが「顔」でも同じなのかという
    東大医学部卒の安部公房らしいこだわりが感じられる。
    首から上をすっかり白い包帯で覆うという姿は、
    他のどの部分の怪我よりも非日常的で、もはや普通の人生とは思えない悲劇が漂う。

    周囲や妻と、それまでのような人間関係を築けなくなった男は
    全く新しい「顔」を得ることで自分の存在を取り戻そうとする。
    「他人」になりすました男は、外で出会った妻を誘惑して交際を始める。
    だがあっさり自分の誘いに乗った妻に対する不信感に悩み
    ついに自分が夫であることを告白する。
    だが実は、妻は「他人」が夫であることに気づいていた・・・。

    冒頭、包帯男の声のトーンがちょっと不自然に聞こえたのは
    包帯のせいでくぐもっていたのか、それとも
    1本目と違うキャラであることを強調しているのか理由は定かでない。
    自宅では相変わらず包帯の「夫」、外では新しい仮面で「他人」と
    2人の役者がひとりを演じる、切り替えの演出が面白い。
    自分を取り戻そうとしてやったことなのに、取り戻すどころか
    さらに失うことになった男の混乱と失望が浮き彫りになる。

    「顔」は単なる身体の一部分ではなく、
    取り替えの効かない「自己」そのものなのだと改めて感じる。
    同時に、妻ばかりか大家の知恵遅れの娘にも正体がバレていたという事実に
    「顔」が変わっても「自己」の本質は変わらないのだとも言える。
    彼は一体何のために新しい顔を手に入れようとしたのか?

    個人的には2本目の「タニンノカオ」のストーリーと演出が好み。
    人間の喪失感と変身願望が、今の時代を感じさせてとても面白かった。
    約50年も前の作品のテーマに、改めて普遍性を感じた。

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    2012/08/16 02:51

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