満足度★★★★
人生は装飾、人もみな装飾
「もしも生まれ変わっても また私に生まれたい」とはポケットビスケッツのミリオンヒット『YELLOW YELLOW HAPPY』のサビであるが、本作では生まれ変わった「私」を見せてくれるらしい。劇場に入ると、まず黒字に白で描かれた、緻密で美しい壁画が目に飛び込んできた。壁もブラック、小道具もブラック、果たしてハッピーは訪れるのか。前回公演『甘神』でムシラセを知った私のとりとめのない感想は以下、ネタバレBOXにて
ネタバレBOX
話がリンクしているので1本の長編ともいえるが、「夢」を望む普通のサラリーマン、「特別」を望む売れない女優、「普通」を望む特別な女子高生、の3本立て。テンポ良く見れる。
「夢」「特別」「普通」――望んだ来世になった。しかし変わることのない自分のイヤな部分が見えてしまう。生まれ変わってもまた私になる。生きても死んでも自己嫌悪を続ける主人公。話が進んでいくにつれ輪廻転生という名の閉塞感が舞台に重くのしかかる。
壁画や『甘神』のようにスタイリッシュに話をキメるのであれば、この空気を保って全員無念の死を遂げるべきだろう。そうすれば、最初に登場したムシ(國武綾)の行動にも整合する。ラストの女子高生(國武綾)はそのまま死ぬと思っていた。しかしその予想は裏切られることとなる。元女優のムシ(塚田まい子)が運命の輪を断ち切ったのだ。
元女優のムシが自身のか弱さがうつる女子高生を救うため、まるで抑圧されたゴム毬がハネ上がるように小さな身体を弾ませて走る。自身を覆う、理想という名の装飾が重圧に変わり、身動きが取れなくなっていた生前の姿からは想像がつかない。その疾走に閉塞感を突き破る爽快さを感じた。塚田まい子の抑圧され続ける演技が、この変化が情緒深いものにした。特に元サラリーマンのムシ(遠藤弘章)の「妊娠してるよ」という嘘を真に受けてしまったシーンは秀逸。ムシに嬲られるが言い返せない。家庭に入ることを考え、どこかホッとしてしまった「特別ではない」自分を自覚する。夢から逃げ出そうとした弱さ、情けなさを感じて声を震わせる姿はあまりに不憫で、目を覆いたくなった。
運命の輪を飛び出し、女子高生は歩き出す。モノトーンで統一された小道具、開演からの青く薄暗い照明が作り出した無機質な雰囲気とはうって変わり、黄金色の光が女子高生を照らす。心温まる、まさかのハッピーエンド。
さて元女優のムシは走り、来世を変えた。しかしまぁ冷静に考えると、死んでから動いてもしょうがない。「バカは死ななきゃ治らない」というブラックな主張と取れた。黄金色の光を当てようが、黒い壁画は黒のまま。変わったのは光という装飾だけだ。本質や魂といったものはそうそう変わるものではないのかもしれない。本作の主人公の本質はほとんど変わらなかった。本質や魂から見れば、自身の理想も、人生でさえも装飾に過ぎないのではと考えさせられる舞台だった。
男女のついた離れたにやや描写不足に感じ、また個々のドラマのありふれた感は拭えないので、星4つで。
満足度★★★
ベタで気楽に。影ではニヤリと
本公演はコント集。ひとつひとつはベタに笑える内容でわかりやすく、気楽に見られる内容。しかし各コントごとに役者を追って見ていくと、より笑える内容になっている。特に面白かったのが、6本目のコントにおける、菊池さんのぬいぐるみの扱い。普通に派手さで笑え。1本目のコントでの両者の関係に気がつけば、ニヤリと笑える。他にもMUAが題材のコントに出演した役者に「あなた、さっきの(コントで演じていた方)がむしろUMAでしたよっ!」とツッコミを入れたくなったりした。私は『レストランじゃないっ!!!』に引き続き2度目の磯川家だが、見た目がまずカブらない個性的な役者陣なので、おそらく初見でもコント中に役者を追いやすいだろう。このあたりの見やすさも磯川家の武器だと感じた。