jokermanが投票した舞台芸術アワード!

2023年度 1-10位と総評
壁背負う人々

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壁背負う人々

くによし組

実演鑑賞

余りの面白さに2度の観劇。スゴイ話をポップに展開する強烈さ。くによし組の短編4本。

 過去の作品で「壁教」が出てきた作品を3本と新作を1本。
 『壁とアルコールとアイドル』は再演だが初見。壁教の(今で言う)宗教2世と友だちになったアルコール依存症とアイドル推し。3人がハマり、知り合い、離れようとすることへの葛藤。深い。
 『ななめ島』は再演で初演も観てる。ななめになってる島、という独特の設定で展開される物語。壁ドンをするために壁を背負った女子が出て来て、壁教が出て来たのは本作が最初ではなかったか。
 『眠る女とその周辺について』も再演で初演も観てる。これは実に深い作品なのだけれど、ポップに展開する語り手タナカエミが強烈なインパクトを持つ。初演でもインパクトを受けたけれど、そのインパクトは変わっていない。
 『壁の人』は、まとめのような新作。壁教の人々が暮らすコミュニティを舞台にして、「壁」になってしまった人と壁教から抜けようとする人を描く。まとめとして、いい感じ。

天使の群像

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天使の群像

鵺的(ぬえてき)

実演鑑賞

期待の劇団・鵺的の大作で確かな見応えがあった。
初日に観て面白かったので楽前に再度観た。やっぱり面白い。

 学校を舞台に「臨時的任用教員」の道原(堤千穂)が出会った生徒と職員が作る風景を興味深く観た。こういう人っているよな、と思わせる典型的な人物がいっぱい登場する中で、登場しない男子生徒を軸に振り回される事件が続く。リアルでもありながら、ギリギリでファンタジーとの境目を綱渡りする脚本も見事だし、それを体現する役者陣も(演出も)見事。加えて舞台美術も凄くて、上手から下手に傾斜する舞台の奥に何面かのカガミを組み合わせ広がりを作るのも巧い。
 開演5分前から客電を点けたままで役者がアクトし、客電が落ちて開演して142分の長さは、ちょっと辛い。
 生徒役の吉水と野花を入れ替えても面白いと思った。久々に観た渡辺詩子が颯爽としているのも嬉しい。

 気になったことや思い出したことを徐々に書いていこうと思う。
・脚本の高木は学校が嫌いだと言うが、学校のことをよく分かっている、というか、学校が社会からどう思われているのかがよく分かっていると思う。
・例えば、男性教師3人がどうしようもないこととか…。ただ、あのような人は今のマトモな学校では教頭(今は「副校長」ということが多い)になれないんじゃないか。
・カントリーマームのくだりは、学校あるある、だと思う。ああいう風に、ゲーム風と言うか、ああいった形にすることは学校ではよくあるように思う。


チョークで描く夢

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チョークで描く夢

TRASHMASTERS

実演鑑賞

実在のチョーク会社を舞台にした作品だが、心が痛くなるシーンもある。最後は人間を信じたくなる。
初日に観て、あまりにも良くて楽日に滑り込んで2度目の観劇。やはり素晴らしい。心が痛くなる部分と安らかになる部分がある。奇麗事を実行する。障がいは個性。話せば分かる。

 現時点で従業員の7割が障がい者という実在の会社を舞台に、最初の障がい者が入社する時代を描く昭和34年が1幕、2幕は令和の今、障がい者を雇用したことで起こる事件を描く。「障がいは個性である」とは良く言われることだが、それを頭で分かっても体現することは難しいと思う。それを如何に乗り越え、また、起こる事件にどう対応するのか、を、丁寧に描く。1幕はやや都合が良過ぎる気もするけど、演劇的に許容されるギリギリのレベルだろうか。2幕の事件は予想外だったが、確かにそういったことは起こりうると思った。1幕で登場した、他の従業員と対立する菅井の存在と受け入れられ方が、実は大きい出来事だと思う。演じた川崎初夏は、2年ぶりの出演となる劇団員だが、静かだが強いキャラクターを見事に演じた。川崎はじめ、手慣れた役者陣と若手の熱演が心地好い。2幕で上司に逆らって主張する社員の今岡を演じた小崎実希子がいい。

 実在するチョーク会社を舞台にした作品だが、綿密な取材を経て書かれたのがよく分かる。1幕は障害者を雇用するまで、と、雇用し始めた頃をちょっとだけ描く。昭和30年代で戦争の爪痕も残り、差別的な発言も今より多かった時代で、心が痛くなるセリフもいっぱいある。国鉄、というセリフにはチョットばかりドキッとしたが、穏やかに落ち着く展開でホッとする。これだけならば、よくある話とも言えるが、問題は2幕。現在の同社で障がい者が7割いるという現状で起こり得る健常者と障がい者のぶつかり合いを描き、ハラハラするけれども穏やかに終わる。本作がいいのは、「障がい者」と呼ばれていない人も同じ悩みを持つことを大事に扱っていることで、1幕の菅井と2幕の今岡の存在が大きい。 初日に観て、若干ぎごちないと思ってた部分がなくなり、スムーズに展開されていた。2度観て良かった。
 アフタートークで同社の社長が「奇麗事だと言うかもしれないけど、それをやるんです」と言ったとか…。なかなか言えないことだと思う。

 同劇団を初めて観たのが2003年8月の『トラッシュマストラント2003』だからもう観て20年になる。吉田羊という女優を知ったのも同劇団。最初は独特のコメディをやっていたのが、いつの頃からか社会派と呼ばれるようになった。いつもだと2つ(以上)の対立する意見を双方が述べて、白黒付けるわけでもなく終わる、という心が痛くなる舞台をすることが多い。前作『入管収容所』はその最たるモノだったが、本作では当パンで中津留も言っているが、心がホッとするような物語になっているのが何よりも良い。

フローズン・ビーチ

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フローズン・ビーチ

あるいはエナメルの目をもつ乙女

実演鑑賞

【BLUE】を観劇。ケラの代表作を丁寧かつ大胆に演じて面白い。
続いて【WHITE】も観劇。
 石澤希代子が立ち上げたユニットの旗揚げは、ケラの代表作。いろいろな団体でしばしば上演され、私もナイロンの再演から観てて、何回か観てもいるが、出色の出来だった。毒のある物語と、ちょっと壊れた人物達が登場するのだが、その毒と壊れ加減が半端なく描かれて、面白いと思いつつゾクゾクしながら観てた。4人の女優陣の熱演が光る。初日ということもあって、レコードに針が乗ってないのに音が出るとか、死体がある部屋でカーテンが動くとか、若干の不手際はあるものの、とにかく圧倒された。
 役者が変われば芝居の印象も変わるのは、ある意味で当然だが、本作では特に市子の演じ方がちょっと違う印象がある。【BLUE】の小林桃香が静的な壊れ方で、【WHITE】の村上弦はアクティブな壊れ方、とでも言おうか。最も壊れた役の印象が違うので、他の役にも影響が出て、市子を演じた【BLUE】の石澤希代子と【WHITE】の林揚羽の違いも際立った。全体に、王道の【BLUE】、変化球の【WHITE】かと思う。

マイン

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マイン

チタキヨ

実演鑑賞

女性4人のユニットがホッとする作品を上演。なんだかとてもカワイかった。
3人が愛おしくてたまらないので、2度目の観劇。すごくいい芝居です。

 イラストレーターの永子(田中千佳子)はママ友のいずみ(中村貴子)に仕事を手伝ってもらいながらも、ちょっとしたヒット作を出し収入が急増したために、しばらく連絡を取っていなかった、やはりママ友で税理士の麗(高橋恭子)に連絡を取るが…、の物語。3人の関係や、それぞれの境遇で、マウントを取り合ったり慰め合ったり、など、あるある、な物語が展開されるのだが、出演した女優3人がとにかくカワイく見えた。最後はホッとする終わり方も同ユニットらしいエンディングで、作・演出の米内山陽子の作り方も安心できる。よく考えると、それぞれの夫がダメダメな感じがあるけど、それでも強く生きて行けそう、っていうのがいい。エンディングもよく考えてみるとハッピーエンドになるかどうか分からないけど、きっと頑張って行くんだろうな、と思わせる。

 同学年女性4人のユニットだが、最も古くから知ってる高橋恭子を初めて観たのは2003年なので、もう20年観てることになるんだなぁ…(遠い目)。

オスカーの教室

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オスカーの教室

電動夏子安置システム

実演鑑賞

ベテラン劇団の怒涛のコメディ。笑った、笑った。
初日に観て、あまりに面白いので2度目の観劇。細かい部分もよくできていることが分かる。

 商工会議所っぽい組織が市に政策提言をするのに、演劇でプレゼンしようということになり、元高校の演劇部顧問だった女性に依頼するが…、ということで起こるドタバタ。皆ちょっとずつ変なところがあって、勘違いや行き違いでドタバタが起こる、というのは3作目となった教室シリーズに共通するパターンで、大笑いも起こるが苦笑も少なくない。それぞれが考える「芝居」のズレを扱う場面もあり、演劇そのものへの勘違いも扱っているように思う。電夏初だと思う澄華あまね、岡崎桃子が頑張っているが、演劇部顧問を演じた下平の振り切りぶりもなかなかのものだ。
 思い込みの激しい人物たちが、いろいろと行き違いや思い違いでドタバタするという展開。前回はやや後ろの席だったのが3列目になったので、個別の表情がよく見え、細かい部分でいろいろ演技しているのが分かる。冒頭の「幸福な王子」のシーンが好きなんだけど、澄華あまねの動きが美しいことが改めて分かった。澄華は道井とのやり取りのシーンでもとても細かく演技しているし、ちょっとイッちゃってる場面とそうでない場面の表情もしっかりと使い分けていたり、本当に巧い人だと思った。

HOKUSAI and the Dr.Caligari

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HOKUSAI and the Dr.Caligari

PSYCHOSIS

実演鑑賞

スタイリッシュなアングラ、と呼んでいるユニットだが、本作も月蝕歌劇団の作品をカッコよく上演。いや、面白い。
 月蝕では『カリガリ博士』というタイトルで上演された作品らしいのだが、月蝕では観てない。焦点を葛飾北斎と娘を軸とした物語に潤色してはいるが、アングラテイストはいっぱい。北斎の物語とカリガリ博士の物語を交錯させるあたりは高取英の発想が凄い。元は風呂屋だったというスペースを活かして、場内のいろんなところで色々なことが起こっていて全てを観ることができないという面白さ(?)もあったりする。押しの大島朋恵は本作でも大活躍だが、主宰の森永理科がリスの格好をして出てきて、どこかで観たことがある、と思ったら手塚治虫「0マン」だった。
 本ユニットがスッカリ気に入ってしまったが、旗揚げ公演『ドグラマグラ』を観損ねたことだけが悔しい。

静流、白むまで行け

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静流、白むまで行け

かるがも団地

実演鑑賞

お気に入り劇団の新作は葛藤と再生の物語。とても面白い。観るべし!
 仕事で取り返しのつかないミスをした静流(土本燈子)が、ひょんなことで知り合った香椎(後閑貴大)が同じようなことで悩んでいることを知って…、の物語。2人を取り巻く人々との群像劇として描かれているが、取り巻く人々のキャラクターがとても巧く描かれていて、それを役者陣が丁寧に演じている。セリフの選択がとても良く、思わず微笑んでしまう。とても興味深い登場人物ばかりだが、静流の幼馴染みの悠浬(小澤南穂子)の佇まいがとてもよい。本劇団は前説も芝居の一部のようになっていて、本作も同じ。
 会場がやや広く、部屋の中央にある柱を避けるためにL字型の客席になっているが、下手側の方が観やすいだろう。
 本劇団は、初見のときから本公演5作品とも星5を付けてしまったが、これは、私にとっては野田地図以外にない希有な劇団。

すずめのなみだだん!

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すずめのなみだだん!

やみ・あがりシアター

実演鑑賞

劇団初の再演は2017年初演の作品だが、初演は観てない。素晴らしく面白い。
 冒頭、ワケの分からない言葉を話す集団が出て来るのだが、徐々に一種の宗教的団体だと分かる。その団体から出ようとした女性と一緒に付いていった女性が、「外」の世界と触れ合い、互いに同化する過程を面白く描いて見事な作品になっている。定時制高校を一つの舞台にしたことで、さまざまな要素を持つ人々が出てくることの必然性を維持しているのも巧いと思う。
 10周年を記念して、再演希望作をファンから投票してもらっての上演だが、本作の初演の次の作品から観てる私としては、とてもいいものを見せてもらった気がした。
 統一教会の話題が注目されているこの時期に観ると、宗教2世の問題が普遍的に思える。

死んだら流石に愛しく思え

10

死んだら流石に愛しく思え

MCR

実演鑑賞

2015年に初演、2019年に再演された作品の再々演・最終版で、再演を観ている。スゴイ!
 実在のシリアルキラーを題材に、刑事による取調べでの回想という形で、どんなことをしてきたのかを描く。笑えるように作ってはいるが、笑えない話。映画にもなっているらしいが、映画をベースにしたのかどうか、知りたいなと思った。悲惨な話ではあるが、劇団のレパートリーとなりそうな気もする。美しいエンディングさえも悲惨だなぁ。

総評

結果的に長く観ている劇団の作品が中心になりましたが、ここ2・3年に観始めた劇団の作品にもいいものがいろいろありました。「かるがも団地」はその一つですが、ここは初見の作品から5作品続けて星5つを付けた、私にとっては希有な劇団です。そのほかでも、「猿博打」「あんよはじょうず。」「ruote©️」なども、毎回観たくなるような劇団です。ベスト10には入れられませんでしたが、久々に公演を打った「青☆組」など、入れたかった作品は少なくありません。

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