ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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CARNAGE

CARNAGE

summer house

アトリエ第Q藝術(東京都)

2025/03/26 (水) ~ 2025/03/30 (日)上演中

実演鑑賞

満足度★★★★

水野小論さんは観る作品、観る作品、ずば抜けたセンスのキャラ造形で感服した。この圧倒的才能の女優が主催する初プロデュース公演、一体どんなものになるのか?

今作の真矢ミキさん主演版を2019年東京グローブ座、『正しいオトナたち』のタイトルで観ていた。(出演・真矢ミキさん、岡本健一氏、中嶋朋子さん、近藤芳正氏)。

四人芝居なのだが高度な言論プロレス。攻守目まぐるしく入れ替わりタッグパートナーだった筈が裏切り裏切られ一体自分は今誰と戦っているのか訳が分からなくなる。このスラップスティックの疾走感が客席をどっと沸かせる。名勝負だったと思う。キャスティングの時点で勝負あり。笑いのセンスの高さ。脚本を読んでここの何が笑えるのか肌ですぐに解るのだろう。これは天性のもので努力で身に付く訳じゃない。スピード感、タイミング、リフレイン、この小屋がジャスト・サイズ。

舞台はフランス、ヴェロニク(水野小論さん)とミシェル(小林タカ鹿氏)夫妻の家。11歳の息子、ブリュノが公園で前歯を折られて帰って来る。やったのは同級生のフェルディナン。彼の両親であるアネット(伊東沙保さん)とアラン(小野健太郎氏)を招いて話し合いを持つことに。アランは急ぎの仕事を抱えていて常に携帯が手放せない。

凄く面白いので是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

開演前SEにアフリカ民族音楽。

原題は『虐殺の神』。世界情勢に思いを寄せ、社会運動に関わる文化的知識人も一皮剝けば内実はそう大して変わらないというブラック・ユーモア。

ヴェロニク 出版社でパートで働く。ダルフールについての書物を執筆中の作家でもある。(スーダン西部のダルフール地方では今尚虐殺が続いている。非アラブ系住民45万人が虐殺されたという)。
ミシェル 金物などの卸売業者。
※ブリュノ 公園でフェルディナンに前歯を2本折られた11歳の息子。

アネット 資産管理コンサルタント、夫の資産を運用している。
アラン 弁護士。顧客に大手製薬会社。
※フェルディナン 公園でブリュノを竹の棒でぶっ叩いた。

MVPは伊東沙保さんかな、と思いつつ皆図抜けていた。小野健太郎氏もたまらない。ドロー裁定か。

前観たヴァージョンは嘔吐ネタの後、酔っ払って荒れるネタばかりで後半がイマイチ盛り上がらなかった印象。今回も携帯花瓶水没からなかなか盛り上がらない。それは戯曲の構成のせいなのかも知れない。
痕、婚、

痕、婚、

温泉ドラゴン

ザ・ポケット(東京都)

2025/03/20 (木) ~ 2025/03/30 (日)上演中

実演鑑賞

満足度★★★★★

2回目。
考えさせられた。
誰も幸せになれない世界で生きている。クリアの出来ないゲームを死ぬまでやらされている。だが考えた。

ネタバレBOX

カメラが入っていて収録日だったせいもあるのか、山﨑将平氏のちょろっとしたトチリが多かった。

山﨑薫さんの目的が謎で何故恋人を殺した男と結婚するのか新聞記者にも観客にも判らない。籍を入れてきたお祝いの席にてその真意は明かされる。「皆さんがヨンゼフを殺したということを認めて下さい。」
籍に入って日本人にならないことには法律が自分を守ってくれないことが結婚する理由だった。
「私はずっとここで暮らします。私を見る度にヨンゼフを殺したことを思い出して下さい。」
加害者達に求めているのは贖罪や謝罪ではなく、ずっと続く罪の意識。それに日本人はうんざりする。そんなことが一体何になるのか?もう終わった話じゃないか。いつまでそんな話を持ち出されるんだ?

無惨にリンチされて殺された名もなき朝鮮人。だが彼の存在をなかったことにさせない。決してさせない。それが彼女の復讐だ。

朝鮮人大虐殺、南京大虐殺、従軍慰安婦、全てがなかったことにされていく。何故か?ない方が気分がいいからだ。それだけの理由で歴史から消されていく事実。幾らでも書き換えが効く。気分のいい歴史に。

現実問題、イスラエルやトランプ、プーチンなど見ていると人類は過去の教訓なんか簡単に忘れてしまう生物だとよく判る。また当り前のように同じことが繰り返される。だから忘れないように何度でも過去の愚行の戒めが必要なのだろう。自虐史観とされた戦後教育。それを否定して敗戦前に戻るのではなく、アウフヘーベンした高度な価値観に辿り着かなくてはならない。と思いつつも国の経済状態が悪くなると皆戦争を望むのも真理。そしてこんな世の中にこれを叩き付けなくてはならなかった作家の叫びもまた真実。
ガラスの動物園

ガラスの動物園

滋企画

すみだパークシアター倉(東京都)

2025/03/26 (水) ~ 2025/03/31 (月)上演中

予約受付中

実演鑑賞

満足度★★★★

『ガラスの動物園』についてはよく考えることがある。テネシー・ウィリアムズは何を描きたかったのか、果たして自分は何を観たかったのか?いろいろ妄想するのだが正解は見えない。それ故にまた観てしまう類。
今作は素晴らしかった。超満員の詰め掛けた観客。知ってる役者が結構観に来てた。何でこんなに人気あるの?と不思議に思う程。
一つは徹底的に戯曲を溶かした。10分の休憩込みで二幕2時間45分。そんなに長い話か?と思ったが徹底的に煮詰めている。もうこれ以上ない程考え尽くしやり尽くしている。ありとあらゆる方法論を探って行き着いたキャラクター。もうこれしか選択肢はない。納得のいく『ガラスの動物園』。しかもまた更に別のアプローチで観てみたいとも思わせる。行間の空白に広がる無限の可能性を垣間見せた。

母アマンダ、西田夏奈子さん。饒舌でヒステリックで強圧的、自己顕示欲の塊で常に自意識過剰の躁状態、病的に過去の栄光に縋り続ける。憎むべき侮蔑するべき母を西田夏奈子さんは愛すべき人物に仕立てた。名女優・望月優子のような人の痛みを知る弱き者に。アマンダの新しい息吹。

姉ローラ、原田つむぎさん。文句なし、これぞローラ。すっぴんの一幕、メイクした二幕。今作を観た若い奴にとって一生胸の奥底に貼り付く心の疵となろう。クライマックスの表情が物凄い。一幅の宗教画のよう。

主人公トム、佐藤滋氏。今回の趣向の一つに主人公が自分の心の中の情景を演劇として観客に見せているという額縁構造がある。その為、語り手として説明しながら照明や曲出しに合図を送る。この舞台が彼の心の中の光景だと伝える。MVPはそれを見事に担当した照明の岩城保氏だろう。クライマックスの照明は語り継がれる程。

主人公の勤める靴倉庫の同僚ジム、大石将弘氏。弁論部出身ということで石丸伸二っぽいアプローチ。成程そうきたか。

ユングの提唱した元型(アーキタイプ)。人類に共通する心の中にある記憶の象徴。各人の経験を越え人類が普遍的に備えているとされる感覚。今作がこれだけ繰り返し上演され繰り返し観劇される理由はそこに触れているからだと思う。誰か徹底的に論じて本にしてくれ。
曲で例えるとPearl Jamの「Off He Goes」みたいな感触。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

巧いのはローラを跛も引かず、一見普通の女性に描く演出。今までの他の作品では脚に器具を装着したり、彼女が普通ではないことを強調していた。今作では全くそんなことはしない。ただ第二幕、ジムが訪れてからは脚を引きずる描写に変わる。家族の中の生活では誰もそんなこと気にしてやいないという演出。他者が訪れると現実が介入し始める。

トムが電気代を払わなかった為、家が停電に。ここからは蝋燭一つで舞台を照らすことに。(シーリングライトとフットライトはうっすら点いている)。計算し尽くした技術に裏打ちされた表現、光と影。これに照らされたローラの表情ときたら。「ガムを一つ頂こうかしら。」

そしてトムが家を出た後、寄り添うアマンダとローラの姿。この描写は大きい。

ほんの少し不満を感じたとすればクライマックス、ジムとローラのシーンがちょっと冗長か。夢みたいに展開してガクンと落ちる、あの感覚が欲しかった。まるで曲の構成のように仕掛けて欲しかった。あとジムがもっと俗物の方がリアルかも知れない。だが今作が一つの達成地点だと思う。
白い輪、あるいは祈り

白い輪、あるいは祈り

東京演劇アンサンブル

俳優座劇場(東京都)

2025/03/19 (水) ~ 2025/03/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

これも傑作。面白かった。
名奉行として名を残す大岡忠相(ただすけ)。作者不明の「大岡政談」として草双紙、講談、落語で大活躍。その中の一つ、大岡裁きとして有名な「子争い」。元ネタとされるものは無数にあり、その中で最も古いのは「旧約聖書」の「列王記上3章」。それを描いた「ソロモンの審判」という絵画も有名。今作は13世紀の元(中国一帯をモンゴル系が支配した時代)の作家、李行甫の書いた戯曲『灰闌記』、それを翻案したベルトルト・ブレヒトの『コーカサスの白墨の輪』が原作。2015年、鄭義信(チョン・ウィシン=てい・よしのぶ)氏が韓国にて歌劇・唱劇(チャングク)としてアレンジ。歌いながら物語を語る伝統芸能パンソリを土台に芝居として構成し直した。

鄭義信氏の良い所が揃っている。笑いの一つ一つに拘り、本当に観客を笑わせようと練っているのが伝わる。下ネタもガッチリ。音楽の久米大作氏の曲も素晴らしい。一曲も捨て曲がなかった。演出の求めにより、俳優陣の魅力がかなり引き出されていて一人ひとり見せ場あり。ブレヒトに興味ない人も素直に楽しめる音楽劇。皆何役も兼ねるのだが驚く程衣装もメイクもがっちり変えてみせる。懸けるエネルギーが半端ない。そのエネルギーを浴びる為の舞台なのか。

この劇団は学校巡回公演を行なっているのが強み。演劇に興味のない、初観劇の学生達を相手に楽しませるには腕がいる。お約束が通用しない世界で何が伝わり何が伝わらないのか、ハッキリしてくる。
今回の語り部、アツダクを演じた洪美玉(ほん・みお)さんなんか強い。ただの呑んだくれのエロ爺。
ヒロイン、グルシェ役永野愛理さんは流石。鄭義信氏の演出との相性がいいのでは。ジブリヒロインのように輝いていた。イチャつきキスネタが決まる。
彼女と婚約を交わす衛兵シモンは雨宮大夢氏。他にも何役かこなすのだがグルシェの兄、ラヴレンティをラヴとレンティの二人に分けて演ずるギャグが最高。このアイディアは狂ってる。
領主他の公家義徳(こうけよしのり)氏は第二幕、ショーケンみたいな絶唱シーンあり。
領主夫人ナテラは福井奏美(かなみ)さん、何か甘いもんを食いつつおんぶを求める。
彼女を護衛する口髭が決まっている三木元太氏。この人も凄かった。全ての役で観客を沸かせた。唾がかなり飛ぶので共演者は大変。
クーデターを率いる裏切りの胸甲騎兵、浅井純彦氏。音の鳴る鞭の小道具がカッコイイ。つまみ枝豆っぽい邪悪さ。
志賀澤子さんと真野季節さんの老婆コンビのギャグ「狙われる〜!」「犯される〜!」が炸裂!
肩から吊るしてクンチェ(バチ)で叩く韓国の伝統的打楽器・杖鼓(チャンゴ)。歩きながら前後違うリズムを見事に鳴らすのは戸澤萌生(もえみ)さん。前村早紀似。

劇団の代表作になる完成度。ラストも見事。

ネタバレBOX

アツダクの物語がよく判らなかった。イマイチ彼のキャラが客に伝わりにくい。(金持ちから賄賂を受け取りつつ、貧乏人を裁判で勝たせる)。

今作で重要なのは「領主夫人に子供を渡せば大金持ちになって恵まれた生活が送れる。子供の幸せを願うならそちらの方が良いのでは?」とアツダクがグルシェに言う。
グルシェの返答「あの子が金の靴を履いたなら、その足で私達を踏みつけるでしょう。弱い者達を嘲笑う惨めな人生が待っている。自分の不幸は怖れても光を怖れることを忘れてしまう。」

仙石貴久江さんは?

個人的にはラストはThe Rolling Stones「Gimme Shelter」なんか流して欲しかった。そんな気分。(作詞作曲キース・リチャーズ)。

war, children, it's just a shot away
it's just a shot away

戦争だ、子供達よ、そいつはすぐ目の前にある
すぐ目の前だ
痕、婚、

痕、婚、

温泉ドラゴン

ザ・ポケット(東京都)

2025/03/20 (木) ~ 2025/03/30 (日)上演中

実演鑑賞

満足度★★★★

山﨑薫劇場!
凄まじい作品。叩きのめされる。大正12年(1923年))関東大震災発生、震度7の揺れ、大規模火災、10万人以上の死者。天災によるやり場のない怨みや怒り、恐怖、苛立ち、不安、それら全てを社会的弱者にぶつけて憂さを晴らす。朝鮮人が各地で虐殺された。何の罪もない彼等をぶち殺したのは殺気立った普通の市井の人。時が経ち冷静になり、恥ずかしさと罪悪感から贖罪を背負う。だがそんなもの一体何になる?殺された連中にとってそれが一体何になるのか?

震災から二年経ち、やっと日常を取り戻した東京の下町。洋服店の店主(いわいのふ健氏)、娘(飯田桃子さん)、住み込みの職人(山﨑将平氏)、辞めた短気な職人(相川春樹氏)。隣の醤油屋の女将(中村美貴さん)。看板書き(筑波竜一氏)と教員(林田麻里さん)夫婦。よく猫を探しに来る在郷軍人(シライケイタ氏)。上京して来た新聞記者(阪本篤氏)。出版社の男(秋谷翔音〈しょうん〉氏)。
そんなある日、店の前で「裁縫職人募集中」の貼紙を眺めている一人の女性(山﨑薫さん)の姿が。

とにかく飯を食う。やたら皆食べる。日常の生活が丁寧に描写される。掃除をして配膳して後片付け、草履を揃える。毎日の日々の積み重ね。縫い物の技術、洋裁の楽しさ、雑誌に載った写真を眺めて自分が着てみたい服を選ぶ女性陣。それをミシン一つで縫い上げる山﨑薫さん。
山﨑薫さんのたすき掛けは絵になる。
作品としての目線、テイストは中国映画『鬼が来た!』みたいに突き放した感覚。日本のドラマツルギーっぽくない。韓国人が今作を観てどう思うのか知りたくなる。

新国立劇場演劇研修所第17期生公演にて『君は即ち春を吸ひこんだのだ』を演った飯田桃子さん。今作はその作者であった原田ゆう氏の新作。手足が長く表現力も大きい為目立つ。売れそう。
相川春樹氏は手塚治虫顔。『福田村事件』の水道橋博士にイメージがだぶる。
シライケイタ氏の朝鮮から連れ帰った飼い猫「柴田君」が気になる。噂だけが広がり皆に嫌われて恐れられる可愛い猫。
筑波竜一氏の描き込んだ設定、中村美貴さんの吐き捨てる台詞、山﨑将平氏の負い目、いわいのふ健氏の表情、申し分がない。

そして山﨑薫さんの怖ろしさ。これを見逃すと後悔することになる。テーマは「贖罪」。全ての「被害者」と全ての「加害者」、全ての「傍観者」に送る。
本当にもう一度観たいくらい良かった。
必見。

ネタバレBOX

※震災の後、各地の自警団による朝鮮人狩りが発生。恋人ヨンゼフとこの町、下谷区に逃げて来た山﨑薫さん、一人何とか路地裏の洋裁店に逃げ込む。床に這いつくばり散乱した生地を身体に被せて隠れる。恋人は彼女を探してまだ路地をキョロキョロしている。必死に「こっちに来て!」と言う。何故だか口から咄嗟に出たそれは日本語だった。だが恋人は追って来た日本人達に取り囲まれ私刑に遭う。

その日以来、山﨑薫さんは朝鮮語が話せなくなった。どうしても声に出せない。ラスト、発作的に旦那となったいわいのふ健氏の首をハサミで後ろから刺して殺そうとする。いわいのふ健氏はそれに気付き観念したような表情を浮かべる。だが刺せない。どうしてもどうしても刺せない。声を上げて泣き出す彼女の口から漏れるのは朝鮮語、「ヨンゼフ、ヨギヨ (ここよ)、イリロ ワ(こっちに来て)」

失った自分を取り戻す描写。失った自分の感情と失った自分の言語。
ラストはこれが映画だったら、時間軸を飛ばして老夫婦の単調な日常の描写を綴り観客にこれまでの空白を想像させる方法論が多いと思う。エピローグとして。

猫に石を投げていた子供達を張り倒したり、林田麻里さんの話に突然ぶち切れたりするシーンの混ぜ方が巧み。山﨑薫さんの企みが全く判らないことが作品に深みを与えている。

山田風太郎の『明治十手架』なんかをこのメンバーでやって欲しい。
ぶた草の庭

ぶた草の庭

劇団道学先生

小劇場 楽園(東京都)

2025/03/19 (水) ~ 2025/03/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

〈庭チーム〉

未来の日本、ヨコガワ病と呼ばれる奇妙な伝染病が発生している。感染すると身体のどこかに赤い痣のような斑点が現れ進行と同時に変色、徐々に記憶障害が酷くなって死に至る。感染者は各地にある隔離居住区に分散されて生活。その内の一つ、瀬戸内海に浮かぶ離れ小島、廃村となった蓮池村の集落にあるコミュニティーセンターが舞台。
青年団の『S高原から』や今作の作家・土田英生自身の『燕のいる駅』を思い起こさせる。不条理にも誰もに確実に訪れる“死”との対峙を描く。これは人間の永遠のテーマ。“死”を前にしないと人間は“生”について考えられない。

主演の佐藤達氏の魅力爆発。まさに適役。彼の持つ技術が遺憾なく発揮されている。
石川佳那枝さんは香坂みゆきっぽい余韻。味がある。
松田一亨(かずあき)氏は満島真之介系、笑いの作り方が巧妙。山口良一系か。
田上大樹氏は安田大サーカス・団長安田っぽい。
菅沼岳氏はいつもながら剛腕でなぎ倒して場をかっさらう。
花渕まさひろ氏は吉田豪っぽい。

佐藤達氏のキャラ、事を荒立てない生き方。脳裏に流れてくるのは氷室京介の「ANGEL」の歌詞。
いつでも優しさを弱さと笑われて 弱さを優しさにすり替えてきたけど

流石の完成度。是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

かつて南シナ戦争があり、アジアに多くの難民が発生。日本に逃れた多国籍難民達はガンジ山周辺に居住。その子孫達はガンジビトと呼ばれ、日本名として姓を「高台」と割り当てられた。被差別地域であるガンジ山に謎の研究施設「アカヤネ」が新設。その周辺からヨコガワ病が発生した。

ガンジビトのおやつであったツノギ虫、これに噛まれると高熱に苦しむ。だが主人公の記憶障害が治癒されたようにも。

小林花絵(かえ)さんがノートに綴る未来の妄想日記。「ぶた草の花粉に含まれる成分にて特効薬が出来る」との妄想。

ラスト、「どうせ死ぬんだから何やったって仕方ないだろ」と思ってきたが、いや全ての存在はいずれにせよ死ぬのが必定。だが、今現在はここに生きている。まだ死んではいない。生きている限りやるべきことがある。やらなくちゃいけないことが。佐藤達氏が叫び声を上げる。「どうせ死ぬんならそのギリギリまで生きてやる!」
ほおずきの家

ほおずきの家

HOTSKY

保谷こもれびホール 小ホール(東京都)

2025/03/15 (土) ~ 2025/03/17 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

韓流俳優チェ・ジョンヒョプの通訳として「ラヴィット!」に出演したみょんふぁさん。盛田シンプルイズベストによるネタ、「イメージダイブ」を通訳することに。動きまで真似て被せてみせてスタジオ大受け。決め台詞の「ここでダイブ!」を「ヨギソダイブ!」と決めてSNSでバズリ、未だに世間では「面白通訳さん」のイメージ。いやいや大物女優ですよ。

初演も観たが、何か観なきゃいけない気分になった。美味い酒が飲めそうな舞台。

開演前に流れるのは生のラジオ放送、「新浜ぐんぐんサテライト」。タケ坊(阿比留丈智氏)とジュンジュン(七味まゆ味さん)、彼等のサインは居酒屋食堂なぎにも飾られている。

驚いたのが全キャスト、2年前と同じ。凄いこだわり。この人じゃないと駄目なんだ!執念を感じる。

伴美奈子さんが秀逸、リアルな存在感。
一番観客を沸かせたのはベトナム留学大学院生兼店員の佐々木このみさん。日本語英語ベトナム語をMIXしたものを駆使しつつ「聞け!」と威圧。こんな女に恋心を持つ日本人客もいびつ。

今回は七味まゆ味さんの視点に重点を置いた感じ。差別されて苦しんだ世代から、それを踏みしめて更に先に歩を進める世代へ。差別も偏見も無知から来る病気でしかない。知性によってそれは治癒できる。人間を無知によって差別する時代は終わりを告げた。これからは差別する者こそが差別される時代となる。

作家の主張は「人と人の絆こそが世界を繋ぐ」。理想論すぎるがそれしかないのかも。差別を乗り越えるのは毎日の生活の日々。人にとって他に何がある?

ネタバレBOX

前半は前回の方が良いと思っていた。それは座・高円寺1のスケールの大きさと舞台美術が好きだったから。海を感じさせて欲しい。ここからは何処までも海が見える。閉塞した北九州の田舎から遠く海の向こうを見やる青年。ここからどうにかして脱出してやるのだ。差別と偏見に支配された愚者の街。俺は才能だけを武器にこいつらの支配から自由になるのだ。だが実際は何処にも行けなかった。屑共と同じくその辺をうろついただけ。俺は超人なんかじゃなかった。軽蔑していたその辺の屑共と何も変わらない存在。認めたくない事実。結局何も変わらなかった。何一つ成し遂げられなかった。

居酒屋のノリや濃度は前回の方が良かったと思う。笑いもその都度アップデートしなければズレてしまう。生モノだから。風車の絵は作品として必要だと思う。

みょんふぁさんと松本旭平氏の物語とすると弱い。だが七味まゆ味さんの物語として観るとまた違う。過去を知ることで今が違って見えること。木下政治氏の決意と同じく、「まだ何かやれることがある」と気付く。
神々の里

神々の里

神々の里製作委員会

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2025/03/13 (木) ~ 2025/03/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

稲垣浩監督、三船敏郎主演『日本誕生』の人形劇ヴァージョン。「古事記」「日本書紀」の舞台となるのは宮崎県、島根県、兵庫県の淡路島と脈絡がない。鳥取県、奈良県、広島県、和歌山県、新潟県、福島県、鹿児島県・・・と更に広がる。奈良時代、天武天皇が日本の成り立ちの歴史をまとめるべく稗田阿礼(ひえだのあれ)に命じて各地の伝承を集めさせた。太安万侶(おおのやすまろ)がそれを編纂したものが「古事記」。同様に舎人親王(とねりしんのう)が編纂したものが「日本書紀」とされる。

まあいつ見ても無茶苦茶な歴史。聖書やギリシア神話の影響を受けたのか?作者の思惑を知りたい。ギルガメシュ叙事詩か?集合的無意識か?

人間が演じるのは天照大御神(アマテラスオオミカミ)を青井美文(みふみ)さんが演るのみ。
神木優氏は弁士として開幕からラストまで怒濤のしゃべくりで大活躍。一応、首から人形の身体を下げている。痩せた小島聡、パンサー尾形風味。よくぞこれだけの長台詞を頭に入れたものだ。凄い仕事振り。Respect!

この訳の分からない日本の歴史を「まあそういうもんだよね」と納得させる力技。人形劇の魅力はそこにある。宮崎県の政治的思惑を感じなくもないが普通に面白かった。7000円は高いが是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

伊耶那美(イザナミ)は自らが産んだ火之迦具土神(ヒノカグツチ)の炎で大火傷を負い亡くなる。伊耶那岐(イザナキ)は妻を忘れられず死後の世界、黄泉国(よもつくに)まで連れ戻しに行く。そこで醜く腐り果てたイザナミの姿に恐れをなして逃げ出してしまう。

姉の天照大御神を慕って高天原に来た須佐之男命(スサノオノミコト)は大便を投げ付けて大暴れ。追放されるも八俣大蛇(ヤマタノオロチ)を退治するなど下界で大活躍。

天照大御神の孫、番能邇々芸命(ホノニニギノミコト)=ニニギが天の孫として地上に降臨。その子供が海幸彦と山幸彦の兄弟。
女歌舞伎「新雪之丞変化」

女歌舞伎「新雪之丞変化」

Project Nyx

ザ・スズナリ(東京都)

2025/03/04 (火) ~ 2025/03/13 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

2回目。
水嶋カンナさんの貫禄、観客を手のひらで自在に転がす。
BUCK-TICKのアルバム「RAZZLE DAZZLE」のジャケットをイラストレーターの宇野亜喜良氏が手掛けた縁で数々のコラボが実現。今作も氏の発案らしい。(角川文庫の「ドグラ・マグラ」の表紙をずっと氏の作品だと思っていたら、米倉斎加年〈まさかね〉氏で驚いた。)

踊り子達が被る上半分の狐面がベルク・カッツェみたいでカッコイイ。

ネタバレBOX

難を言えば「転」の部分。闇太郎(本間美彩さん)、浪路(森岡朋奈さん)、お初(水嶋カンナさん)、佐平次(いまいゆかりさん)の関係性が平坦で段取り部分が白ける。ここを巧くドラマ性豊かに組み上げられたなら因果律に絡め取られた人生の道化芝居として発現した筈。

①BABEL
②ノスタルジア-ヰタ メカニカリス-
③獣たちの夜
水嶋カンナさんが歌う。
④月下麗人
⑤RONDO
⑥GUSTAVE
⑦ゲルニカの夜
1937年、スペイン内戦で後の独裁者フランシスコ・フランコ将軍を支援したナチス・ドイツ空軍が史上初の無差別爆撃を敢行。ビスカヤ県ゲルニカを廃墟と化した。スペイン生まれのパブロ・ピカソは代表作となる「ゲルニカ」を制作。
8歳の雪太郎(染谷知里さん)は両親の死により自分を真っ二つに切り離してしまう。復讐の鬼と化した雪之丞と捨ててしまったそれまでの自分とに。宇野亜喜良氏のイラストがスクリーンいっぱいに映し出されて効果的。
⑧零式13型「愛」
⑨IGNITER
⑩胎内回帰
沖縄の海に散った知覧特攻隊員達の死への回帰の想い。繰り返さないものなどこの世にあろうか?

BUCK-TICK「眩しくて 視えない」

狂いたくなる夜はもう来ない
ほうら朝が来てサヨナラだ

命みたいだ 飛んでく 駆け抜ける
(ほら)風が吹いてまた逢える

忘れられない友よ
やなぎにツバメは

やなぎにツバメは

シス・カンパニー

紀伊國屋ホール(東京都)

2025/03/07 (金) ~ 2025/03/30 (日)上演中

実演鑑賞

満足度★★★★

松岡茉優さんを映画館で観続けた時期があって、『蜜蜂と遠雷』なんか好きだった。かつてのピアノ天才少女が失くした輝きをもう一度取り戻す役。煌めきは今も色褪せていない。笑顔になるとパッと周りの空気を変える。表情でキャラがガラッと変わるので映画向き。ニヤーとしたりカッとなったり。
大竹しのぶさんは相変わらず綺麗。独特のイントネーションが唯一無二の武器なのだろう。怒った時の台詞回しは別人のよう。

大竹しのぶさん対浅野和之氏は必見。ウディ・アレンだ。

「カラオケスナックつばめ」の名物ママが亡くなる。遺言で葬儀にかつての常連客達を招き自宅を改装した簡易BARでもてなす。ママの娘、大竹しのぶさん。常連客で親友の段田安則氏、木野花さん。段田安則氏の息子の料理人、林遣都氏は大竹しのぶさんの娘の看護師、松岡茉優さんと付き合っており結婚間近。そんな中、15年前に離婚した元夫、浅野和之氏が来訪。

流石の横山拓也&寺十吾コンビ。ラストはスタンディング・オベーションに。
必見。

ネタバレBOX

木野花さんがトチリ多く、思い切り大竹しのぶさんの役名を間違えてしまう。大竹しのぶさんは笑って訂正し、木野花さんも「今のはなかったことで」と取りなす。役者も観客も和やかな笑いでフォロー、いい現場だ。

ラスト前まで可もなく不可もなくな印象だったが、ラストが美しい。全ての細かな伏線が生きて大竹しのぶさんの歌が決まる。これは見事!まさに横山拓也節。山田洋次の後継者だ。時代設定を昭和50年代にして映画化が理想だろう。

霧島昇の1947年発表の「胸の振子」、作詞はサトウハチロー。
「柳に燕は貴方に私 胸の振子が鳴る鳴る 朝から今日も」
「煙草の煙ももつれる想い 胸の振子が呟く 優しきその名」

再演は小劇場で青山勝氏演出で観たい。これをどう料理するか?
淵に沈む

淵に沈む

名取事務所

小劇場B1(東京都)

2025/03/07 (金) ~ 2025/03/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

がらんどうの素舞台、暗転すると最小限の寝台や椅子や机がその都度運び込まれる。闇の中、拘束された寝台の上、日本国憲法を暗唱する男。「基本的人権の尊重」を叫ぶ。「うるせえぞ!」「黙れ!」との声とガンガン壁を叩く音が続く中、男は日本国憲法を訴え続ける。一体、誰に?

ここは精神病院、男(西山聖了〈きよあき〉氏)は東大法学部の学生だった20歳の時、統合失調症を発症、2003年に措置入院。一度退院するも父母への暴力行為で2005年再入院。それ以来20年ここにいる。父親が亡くなり、母親(岡本瑞恵さん)が三男である息子を退院させ共に暮らしたいと願い来院。主治医(鬼頭典子さん)はそれを喜び誠実な対応。精神保健福祉士(ソーシャルワーカー=相談援助、社会復帰支援員)の歌川貴賀志氏。看護師の今井優香里さん。看護助手の小栁喬(きょう)氏。だが精神病院の医院長である田代隆秀氏はそれを快く思わなかった。

役者陣は凄腕ばかり。各人、見せ場あり。鬼頭典子さんのまとった優しい雰囲気の受け答え、歌川貴賀志氏の誠実な魂、今井優香里さんの眼差し。岡本瑞恵さん、小栁喬氏は存在がリアル過ぎ。西山聖了氏の望まぬ病気で失った20年の重み。やはりMVPは田代隆秀氏だろう。文句の付けようがない。

これは救いの物語である。地獄の底で喘いでいる者達を何とか救おうと足掻く人がほんの僅かだが現実に確かにいる。何も出来ない問題に対し何とか救う手立てを考えている。治らない病気で見棄てられた人間をそれでも治癒しようとする。その姿に観客は思い知らされる。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

これは仏教、菩薩行についての物語だと思った。他者を救うことにより、自らをも救っていく考え方。兎に角出来ることだけをやろう。出来ないことをあれこれ考えても無意味だ。身の回りの自分に関わっている人間だけでもいい。自己満足の偽善だとしても構わない。苦しんでいる人間を救おう。自分自身を救おう。何故なら全ての人間は救済される為に生きている。

自分は田代隆秀氏演ずる医院長の台詞に共感するタイプなだけに歌川貴賀志氏の純粋な精神に打たれた。利他行、もう宗教的なものすら感じる。他人がどうではなく自分がどうあるべきか。この問題は難しい。一人ひとりと向き合って対話すること。相手の話を真剣に聴いてやること。美味しいコーヒーを淹れる行為に人間社会の安らぎを託す演出。

植松聖をモデルにした映画、『月』を観ていたので小栁喬氏が闇堕ちするのかと少し思っていた。物語の難を言えば医院長が一人の入院患者に過ぎない西山聖了氏にそこまで拘るのが妙。医院長の性格からするとどうでもいい筈。
血の婚礼

血の婚礼

劇団俳小

駅前劇場(東京都)

2025/03/05 (水) ~ 2025/03/10 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

作曲家の上田亨氏が下手で生演奏。フラメンコ・ギターの音色をキーボードで見事に鳴らす。驚いた。劇中の歌は印象的でいい出来。黒衣の女達がコロスとして詩を朗唱し合唱す。子守唄が余韻に。

母親は早野ゆかりさん。息子である花婿は左京翔也氏。花嫁は小池のぞみさん。彼女の元彼レオナルドは加藤和将氏。彼の現在の妻は新上貴美さん。“月”は福島梓さん。“死”は大久保たかひろ氏。

個人的に女中の西本さおりさんが大活躍のイメージ。実はレオナルドの妻が今作のキーだと思っているので新上貴美さんの薄幸そうな佇まいも好き。

いろいろと工夫が見えて面白い『血の婚礼』。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

フェデリコ・ガルシーア・ロルカは同性愛者だったらしい。学生時代、サルバドール・ダリに熱烈に恋したそうだ。
1928年、スペインはアンダルシア州アルメリア県で結婚式の日、新婦が別の男と逃げ出した。家の名誉の為に花婿の弟が追跡してその男を殺す。この事件は大々的に報じられ、当時は誰もが知るニュースだった。これを元に戯曲化したロルカ。観客は事件の記憶と共に観ただろう。だがロルカは観客の期待とは全く違う文脈でこれを語った。俳優座スタジオで『ベルナルダ・アルバの家』を観たばっかりなのでこの作品の捉え方が随分と変わった。歴史や伝統や土地や一族や誇りやら何やらその全てに支配され抑圧されてきた女の自由への衝動の話だ。花嫁はこのまま支配されて従順に生きるぐらいなら死にたかった。死への旅路にレオナルドを付き合わせた。「自分は死ぬから貴方は逃げて」と言うがレオナルドも全てを捨ててここまで来たのだ。もう何処にも逃げる先などない。そして全てが終わった後に花婿の母親のもとに殺されに行く花嫁。花嫁は自分の真意を伝える。母親もそんな戯言、理解などしたくもないがその気持ちは痛い程よく判ってしまう。何故なら自分もこの地で抑圧されてきた女の一人だから。社会的に禁止されている同性愛者だったロルカは自由への正直な欲望を描いた。喉から手が出る程欲しいものは自由だ。全ての人間は生まれた時から自由であり、それこそが生命の本質。支配や抑圧からの解放、それが人間の歴史。

ただ演出が冗長に感じた。第一幕で必要なものは全てが滞りなく進んでいる空気感。別に何の問題もない婚礼の宴。高揚した新郎と幸福そうな新婦。だがふと新婦の姿が見えなくなる。何か用事でもあるのだろう。特に変な感じはなかった。一生に一度の大切なお祝いだ。何も心配することはない。そこで花嫁が元恋人と馬で逃げたとの報告。そんな馬鹿なことあるわけがない。きっと何かの間違いだ。有り得ない。不意に足元がグラグラし世界がガラスのように割れ砕け散る感覚。
全体的にちょっと説明がしつこいのだろう。何度もレオナルドがじっと物言いたげに背後から見つめている。あちこちを女中が出たり入ったり。観客の気を物語の別の部分に逸らした方が効果的。歌もある。黒衣の女のコロスもある。“月”も“死”も語る。こういう話ですよ、と押し付け過ぎ。敢えて見せない見せ方もあった。花婿のぼんやりとした無表情だけで言葉に出来ないそれが伝えられたとも思う。

小池のぞみさんは歯列矯正中。劇団を背負って立たねばならぬ女優、大変だろう。
女歌舞伎「新雪之丞変化」

女歌舞伎「新雪之丞変化」

Project Nyx

ザ・スズナリ(東京都)

2025/03/04 (火) ~ 2025/03/13 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

主演の雪之丞に寺田結美さん。170cmの長身で元宝塚のOGを思わせる華麗さ。
雪之丞役が兼役することが多い義賊・怪盗闇太郎は本間美彩さん。
乳母の浜田えり子さんはオペラの発声練習、ベルカント唱法で盛り上げる。
手塚日菜子さんとRIAさんのダンスは強烈。
軽業のお初に主宰の水嶋カンナさん。

劇団☆新感線っぽい舞台美術。
愛猫家の櫻井敦司氏がヒグチユウコさんの絵本、『ギュスターヴくん』をモデルに作った曲「GUSTAVE」で皆が踊るシーンが良い。
サビの歌詞はズバリ、
「Cat Cat CatCat Cat Cat CatCat Cat
 Cat Cat CatCat Cat's」

「ゲルニカの夜」と「胎内回帰」が重要なキーになる。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

何か石ノ森章太郎っぽいと思っていたが、ラストは原作版『変身忍者嵐』!

使用楽曲。

BABEL
ノスタルジア-ヰタ メカニカリス-
獣たちの夜
月下麗人
RONDO
GUSTAVE
ゲルニカの夜
零式13型「愛」
IGNITER
胎内回帰

「イルカの日」の代わりに「螺旋 虫」なんか掛けて欲しかった。

BUCK-TICKはサヘル・ローズさんが大ファンであった関係で、彼女が主演をした「恭しき娼婦」の時、芝居砦・満天星にBUCK-TICKからの花が飾られていて興奮した。
ちなみに自分が初めて観に行ったのは「SEVENTH HEAVEN TOUR FINAL」の日本武道館。

『劇場版BUCK-TICK バクチク現象 - New World - II』というドキュメンタリー映画がちょうど上映中。BUCK-TICKは2023年10月19日KT Zepp Yokohamaにてファンクラブ限定LIVEを行なう。
①SCARECROW
②BOY septem peccata mortalia
③絶界
ヴォーカルの櫻井敦司氏はこの「絶界」を歌い終えた直後に倒れ病院に運ばれ、脳幹出血でその夜に亡くなった。
この映画ではその最期の歌をフルで収めてある。それがまた凄まじい歌で彼の存在と才能がどれだけ唯一無二なものだったかを再認識させる。こんな人間と出逢えて幸せだ。

BUCK-TICK「絶界」

いいか忘れるなよ いいさ忘れちまえ
この世は全部 おまえの夢 Baby ,I Love You.

無常だ 無常だ 無常だ 絶界
退くか 戦闘か 生き抜け 絶界
GIFT

GIFT

metro

小劇場 楽園(東京都)

2025/02/27 (木) ~ 2025/03/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

才能とは何か?役者とは何か?悩める女優にスタニスラフスキーと唐十一郎が御教授してやろう。
太宰治の『斜陽』をまぶして悩める人間の行き先を指し示す。この世界に生きゆく意味はある。

月船さららさんがエロエロ。スタイル抜群でいろんな衣装で登場。もうそれだけで詰め掛けたおっさん共はほぼほぼ満足。妙に密度の濃い観客席。
渡邊りょう氏はいいねえ。この地下世界に水が合っている。最初からここに居たようにすいすい泳ぎまくる。

「私には、行くところがあるの」
「私ね、革命家になるの」

内容は若松プロの大和屋竺作品みたいな自主映画。映画を撮るには予算がない連中は小劇場で(脳内)撮って出ししかない。金が無いなら惜しみなく才能を注ぎ込め。そんなもの只だ。観た後に客に残る感覚は同じもの。要は突き付けること。
日活社長・堀久作が観たならば、「解らない映画を作って貰っては困る」と即解雇されるであろう作品。それでこそ創るべき価値、観に行く価値がある。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

盲目の女(月船さららさん)が木の棒を杖代わりに歩いて来る。空襲だろうか、倒壊した瓦礫の山。手探りで柱に辿り着くと各面に木の人形を三体吊るす。そして人形に五寸釘を石で打ち込む。「終われ!終われ!終われ!」。そこに現れた銃を構えた兵士(影山翔一氏)。女が落とした煙草を拾って銜える。そして女の胸ぐらを掴んで脅すと背を向け地蔵に向かって放尿。女は隙を見て掴んだ石で兵士の後頭部を殴りつけ、掛けられていたストラップで首を全力で絞める。倒れる兵士。銃を奪って引き金を引く。銃声。また人形に五寸釘を打ち始める。「終われ!終われ!終われ!」。

それはスター女優、星影(月船さららさん)のよく見る夢。垣乃花(渡邊りょう氏)という男が精神科医宜しく分析する。垣乃花の話し振りはまるでメフィストフェレスだが「悪魔程下品ではない」とうそぶく。女優を辞めようと考えている星影。理由もなく天より与えられたGIFT(才能)は理由もなく空になってしまった。
垣乃花は地蔵菩薩(マメ豆田さん)を見せる。釈尊が入滅し56億7000万年後に弥勒菩薩が降臨することになっているが、それ迄の無仏時代の間、衆生を救済する誓願を立てたという。実は地蔵菩薩と閻魔は一心同体。地獄の責苦を与えつつ、救済を続ける永久機関。戦前の日本から岡田嘉子と杉本良吉と共にソ連へと。そして演劇革命家メイエルホリドから師である晩年のスタニスラフスキーのもとへ。今、目の前に立つ地蔵菩薩の背には確かにスタニスラフスキーのサインが彫られている。

そして現れる御大スタニスラフスキー(影山翔一氏)。
リアルな演劇を求めた劇作家チェーホフと演出家スタニスラフスキー。表示の芸術(役を演じる)と体験の芸術(役になりきる)の違いとその統合を説き、「役を生きる芸術」スタニスラフスキー・システムを構築。

戦後、GHQによる農地改革が行われ、青森県の大地主だった実家が荒廃していく様を見た太宰治、「これは(チェーホフの)『桜の園』そのものだ」と受け止め『斜陽』を執筆。

『斜陽』に描かれる没落貴族のかず子(月船さららさん)とその弟で薬物中毒の直治(渡邊りょう氏)。見つけた蛇の卵を庭で十ばかり燃やしたこと。それ以来母親らしき女蛇がじっと一家を眺めているような気がしていること。

唐十郎の弟を自称する唐十一郎(影山翔一氏)が地獄の説明を始める。アングラ=アンダーグラウンド(地底)、掘った先にあるのは地獄。「地獄は実在する」と綴った男もいた。

バットマン=ブルース・ウェイン(渡邊りょう氏)とキャットウーマン=セリーナ・カイル(月船さららさん)のシーンは作家がどうしてもやりたかったのだろうか?

「(この社会が何の為にあるのか)教えてあげますわ、女がよい子を生むためです。」

冒頭のシーンは晩年の橋本忍脚本作、『愛の陽炎』のオマージュかと思って興奮した。演劇で『幻の湖』をやる気か?
文句を言うなら長過ぎるのと会場の温度設定が暑すぎるのが残念。眠気と戦う観客達。『斜陽』パートが素晴らしかっただけに、坂口安吾の『青鬼の褌を洗う女』テイストでこれをメインにすべき。『斜陽』を演じながら「演じるとは何なのか?」に葛藤する女優の精神の地獄巡りの方が観客にとって解り易い。
ズベズダ

ズベズダ

パラドックス定数

ザ・ポケット(東京都)

2025/02/20 (木) ~ 2025/03/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

第三部 1964〜2025

今三部作のテーマは唯一つ。SF小説の始祖、ジュール・ヴェルヌの言葉。「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」。想像できるということは実現可能ということ。その糸口を探せ。
コロリョフは人類史上初となる月探査衛星に「メチタ(夢)」と名付けた。最後まで夢見る男。

松本寛子さんがいい味。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

1964年10月14日、ニキータ・フルシチョフはクーデター同然に失脚。レオニード・ブレジネフが書記長の座に就いた。ブレジネフは宇宙開発にそこまで力を注ごうとはしなかった。

1966年1月14日、コロリョフの突然の死。ヴァシーリー・ミシンが後を継ぐ。
1967年4月23日、ソユーズ(連合)1号を打ち上げるも初の死亡事故に。以後、打ち上げ失敗と死亡事故が続きNASAに差をつけられていく。
1969年7月20日、アポロ11号が有人月面着陸に成功。
1970年10月31日、ソ連は月接近飛行計画を中止。
1974年6月23日、ソ連は有人月面着陸計画を中止。

チェルノブイリ事故、ソ連崩壊、ウクライナ侵攻と現在までのソ連、ロシアの歴史が描かれる。ソ連崩壊で祖国での宇宙開発を諦めた前園あかりさんはアメリカに道を求める。岡本篤氏と松本寛子さんは結婚し、イワン・イワノヴィッチ人形と3人で暮らす。時々TVで見かける自分達の青春が詰まった数々の宇宙船。そしてプーチンのウクライナ侵攻に老いた岡本篤氏は反戦デモに参加しようとする。必死で止める松本寛子さん。「私を独りにしないで!」
戦争で使われているロケット(ミサイル)には自分達が必死で開発した技術が使われている。こんなことの為に研究した訳では決してない。宙へ!宙へ!宙へ!ロケットが飛ぶべき方向は果てしなき宇宙なのだ!

自分的には2021年の青年座版の方が好き。円周状の通路をぐるぐるぐるぐる歩き廻りながら激論を飛ばす横堀悦夫氏が最高だった。今回はディレクターズ・カット最長版の趣き。見事なソ連史になっている。当時を知るロシア人に感想を聞いてみたい。
ズベズダ

ズベズダ

パラドックス定数

ザ・ポケット(東京都)

2025/02/20 (木) ~ 2025/03/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

第二部 1957〜1964

1958年7月29日、ソ連への技術の遅れを挽回する為にアイゼンハワー大統領はNASA(アメリカ航空宇宙局)を発足させ、猛然と追い上げを図る。
今作こそこの三部作の魅力の要。セルゲイ・コロリョフと姿を見せぬヴェルナー・フォン・ブラウンのソ米対決こそが肝。メチャクチャ面白い。「お前ならどうする?」
必見。

ネタバレBOX

1957年11月3日、スプートニク2号。「次は生物を宇宙空間に送ろう」との考えで選ばれた雌犬ライカ。打ち上げから6時間後には死んでしまったが、その事実は隠蔽された。世話をしていた岡本篤氏の苦しみ。イワン・イワノヴィッチ(イワンの息子)と名付けられた実験用等身大人形を可愛がる。1961年4月12日、ヴォストーク(東)1号でユーリイ・ガガーリン(鍛治本大樹氏)が世界初の有人宇宙飛行に成功。世界中に名前を轟かす。

恐怖政治の独裁者スターリンが死去し、後継者フルシチョフはスターリン時代を否定した。国際連合総会で平和共存を訴え、訪米、訪中。華々しい世界平和への友好ムードは長くは続かない。フルシチョフは海外を訪問する度にロケットを打ち上げ、ソ連のICBM(大陸間弾道ミサイル)の脅威を印象付けた。1959年、キューバ革命によりアメリカの傀儡政権を打倒したキューバが社会主義国を宣言。アメリカのすぐ150km南の島国。1961年、ベルリンの壁の構築。1962年、キューバの要請によりソ連が核ミサイル基地の建設開始。ケネディ大統領は海上封鎖によってソ連の輸送船の航行を阻もうとした。いよいよ核戦争が始まるのか?「キューバ危機」に世界は固唾を呑む。

1963年6月16日ヴォストーク6号でワレンチナ・テレシコワが女性として初めて宇宙飛行をした。
ズベズダ

ズベズダ

パラドックス定数

ザ・ポケット(東京都)

2025/02/20 (木) ~ 2025/03/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

第一部 1947〜1957

第二次世界大戦の終結が見え始めた頃、連合国のアメリカとソビエト連邦はその後の世界情勢を見据える。この二つの大国の覇権争いになると。敗戦間近のナチス・ドイツは科学技術力が圧倒的に優れていた。この技術を自国のものとすべき、決して奴等に渡してはならない。
1944年に世界初の弾道ミサイルを開発した天才、ヴェルナー・フォン・ブラウンはアメリカにスタッフ数百人と亡命する。
一方、ソ連は研究者を家族込みで2万人拉致。ゼーリガー湖のゴロドムリャ島に監禁、その技術を徹底的に吐き出させた。

主演のセルゲイ・コロリョフ役植村宏司氏が第一声から声が枯れていた。三部縦断上演、大丈夫なのか?と不安が走る。だが何とか持ち直し最後には気にならなくなる。物凄い台詞の量、化け物に見えた。短髪の亜麻色の髪、遠目だと魔裟斗っぽい。少年時代からの空への夢、グライダー、航空機、更に宙へと。宇宙にまで人間は飛んで行ける。あらゆる困難を乗り越え、コロリョフは敵国に向けたロケット(ミサイル)の目的地を月面へと変えていった。国威発揚の名のもとに。

第一部のもう一人の主人公、アルベルト・レーザ(大柿友哉〈ゆうや〉氏)。後にソ連に帰化したナチス・ドイツの工学者。戦争協力なんかの為ではなく、セルゲイ・コロリョフの夢に賭けた。月に人は立つのだ。それは決して不可能なことではない。人間の叡智は更に進化していく。必ず成し遂げる。限りなく頭脳をフル回転させてそこにまで辿り着く。人間は生きながら進化できる稀有な生物だ。必ず行くのだ。

コロリョフと複雑な関係にあるエンジン設計士ヴァレンティン・グルシュコ(神農〈かみの〉直隆氏)、ロケットエンジン開発の要。1933年ジェット研究所で出会ったコロリョフとグルシュコは互いの才能を認め合った。だがスターリンの大粛清が始まり、密告が奨励される世の中に。1938年、グルシュコは反体制派の嫌疑で投獄、禁錮8年の刑。苦境に立たされた彼は司法取引に騙され、無実の同僚コロリョフを反体制派として告発してしまう。冤罪のコロリョフはシベリアの強制収容所コリマ金鉱山に送られ10年の刑。栄養失調からの壊血病で全ての歯が抜け落ち心臓病を患う。この地に送られて死んだ者は100万人を超えた。コロリョフの罪が免除されたのは1944年。後に自分を陥れた者がグルシュコであることを知る。当時の政治情勢として仕方ない事とはいえ、ずっと心の底に残るわだかまり。互いの能力を認めつつ、複雑な感情の人間関係は一生続いた。

岡本篤氏、前園あかりさん、松本寛子さん、3人組のキャラ立てが巧い。少ない人数で大河ドラマを綴るにはキャラとエピソードの凝縮と選別が要。

MVPはフルシチョフ第一書記役の今里真氏と国防工業大臣ドミトリー・ウスチノフ役の谷仲恵輔氏。JACROWを観ているような手慣れた手腕の政治劇。この二人のハイテンションで客席がパッと明るくなる。成田三樹夫や小池朝雄、遠藤辰雄の風格。出て来るだけで盛り上がる。

驚くのはこんなガチガチの理系話に詰め掛けた女性客の多さ。野木萌葱さんの信望か?
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

劇中には登場しない二人の天才。

ヴェルナー・フォン・ブラウン。ナチス・ドイツのV2ロケットを開発し英国中を恐怖に陥れた。最大射程距離は320km、マッハ4で飛ぶ1tの爆薬を積んだミサイル。アメリカに亡命後は宇宙開発の責任者となり、「米宇宙開発の父」と呼ばれる。アポロ計画を立ち上げ、有人月面着陸を成功させた。

コンスタンチン・ツィオルコフスキー。19世紀のロシア帝国で「ツィオルコフスキーの公式」を発表し、ロケットで宇宙に行くことが可能であることを証明した。「宇宙旅行の父」と呼ばれセルゲイ・コロリョフに多大な影響を及ぼす。世界初の人工衛星「スプートニク(付随するもの)1号」はツィオルコフスキー生誕100年に合わせて打ち上げられた。

多分、アルベルト・レーザは複数の人間を組み合わせた架空のキャラクターだろう。ルカーシャ、サーシャ、レーリャも多分そうではないか。

マニアックな米ソ宇宙開発競争を叙事的に綴る。ディレクターズ・カット最長版の趣き。
話自体は暗く淡々としていて余り盛り上がらない。来たる“物語”への「序章」として静けさを積み上げていく。

1957年10月4日、ソ連は世界初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げに成功。0.3秒ごとに発信される信号音は世界中で受信され「スプートニク・ショック」と呼ばれた。世界で最も優れた国家はソビエト連邦であることの宣言。休憩中もずっと鳴り続けるシグナルの余韻。
Soul of ODYSSEY

Soul of ODYSSEY

小池博史ブリッジプロジェクト

ザ・スズナリ(東京都)

2025/02/22 (土) ~ 2025/02/28 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

凄く面白い。

古代ギリシアの英雄、オデュッセウス(リー・スイキョン氏)は小さな島国イタケーの王。トロイア戦争で活躍したものの帰還せず、亡くなったと思われていた。その妻である王妃ペネロペ(森ようこさん)は絶世の美女で、各国の王子が求婚者として王宮に住み着いて帰らない。3年もの間、肉を喰らい酒を飲み女官を抱いて王宮を荒らしオデュッセウスの財産を食い潰していた。それにうんざりした王子テレマコス(アドラン・サイリン氏)は父親を捜す旅に出る。

空間演出家・小池博史氏は多民族国家のマレーシアに注目して国際共同制作を。異なる文化の融合と調和こそが今後の世界の鍵となる、と。飛び交う英語日本語北京語広東語マレー語(イタリア語やスペイン語のような言葉も聴こえたような)。古代ギリシア劇、京劇、能楽、イタリアの道化師幕間コント、日本舞踊、ロックにラップに歌謡曲・・・。ミクスチャーの塊だがそこに一貫して観客を退屈させない姿勢が見える。多言語でも奥のスクリーン上部に字幕が映し出されるのが親切。可動式の小さい幕に役者がハンディカムで撮影したものをリアルタイムで映し出す演出も。役者と映像を共演させたりもする。(森ようこさんまで撮影に回る場面も!)
ステージ上手に片開き戸になった壁掛け、ざっと60以上の扇風機とサーキュレーターが据え付けられている。それが開くと海上の暴風となりド迫力。
客席最前列下手でサントシュ・ロガンドラン氏が鳴り物を叩き、上手の太田豊氏がサックスやエレキギターを生演奏。
役者陣は白塗りに思い思いの奇妙なメイク。コンテンポラリー・ダンスのような踊り。『マハーバーラタ』を思わせる多種多様な民族衣装。

主演のリー・スイキョン氏は劇画調の顔でカッコイイ。
美貌の王妃、森ようこさんは凄まじかった。岩下志麻系の正統派美女なのに魂がPUNKなのだろう。ファンなら必見。
王子、アドラン・サイリン氏は万有引力っぽい。
陽気なティン・ラマン氏とヒールのセン・スーミン氏は観客を下ネタで盛り上げる。
海神ポセイドーン、今井尋也氏の唸りは本物。
一つ目巨人ポリュペーモス(セン・スーミン氏)のエピソードは愉快。
魔女キルケ、西川壱弥さんはエロい。
女神カリュプソー、津山舞花さんのかかと落とし。

冥界のシーンは幻想的で美しい。鏡とビデオカメラを使い能面の死者達と不思議な踊りでの邂逅。死の無常感に感じ入るオデュッセウス。選曲もセンス良い。

クリストファー・ノーラン監督の次作もマット・デイモン主演の『オデュッセイア』。2800年前にホメーロスが生み出した苦難の旅が今世界に求められている。憎悪の連鎖、欲望の果て、死人の山。現在と何も変わらない人間の業。世界語で綴られる『オデュッセイア』。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

開演前は死体を模した丸まった衣装がそこらここらに転がっている。ラストに同じ光景で終わる無常観。

ずっと同じことを繰り返し続けている人間の虚しさ。冥界のシーンが素晴らしかっただけに、もう少しメッセージ性があると尚良い。(死者達が争いを止めようと必死に追いすがるも誰も見向きもしないとか)。

※前半は『サテリコン』などフェリー二っぽさを感じた。
※森ようこさんの上腕が力を入れると太い。
ユアちゃんママとバウムクーヘン

ユアちゃんママとバウムクーヘン

iaku

新宿眼科画廊(東京都)

2025/02/21 (金) ~ 2025/02/25 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

何か変なリーディング公演だなと思って観ていた。横山拓也氏の「小説新潮」に書いた小説を講談師の神田松麻呂氏が絶妙の喋りで語り下ろす。ストーリーテラーであり、主人公・トラベルライターの「ジュンくんパパ」でもある。小学生の息子の所属するサッカーチーム「レアル岡町」。そのクラブマネージャーでもある「ユアちゃんママ」に橋爪未萠里さん。小説を講談師と俳優に託したら面白いんじゃないか、との試み。確かに何だかよく分からない新しい感触。

ドイツで本場のバウムクーヘンの食べ比べの仕事、硬くて甘くなくスパイシーで洋菓子っぽくない。その原稿をどう仕上げるか思案の主人公。締切が迫る中、息子のサッカーチームの合宿の下見の為、長野県戸隠にコーチと行かなくてはならなくなる。だがコーチが突然の高熱、代わりに駅にいたのは可愛くて魅力的な「ユアちゃんママ」。

是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

艶笑コメディかと思っていたがラストまで来ると驚く。もっと描き込んだら映画になるネタ。成程、そういう仕掛けか。
お伽の棺

お伽の棺

有限会社ベルモック

すみだパークシアター倉(東京都)

2025/02/19 (水) ~ 2025/02/24 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

二面の客席に挟まれた舞台。囲炉裏を中心にした板間。四隅の蝋燭に火を点ける。登場人物はちょっとアイヌっぽい出で立ちにも見える。引き戸の開け閉めの音を平台の側面に備え付けた小さな木のスライドの音で表現。機織りの音も算盤を使ったりの工夫。(鈴木めぐみさんの発案らしい)。全て役者達でこなす。

『鶴の恩返し』の横内謙介流解釈。『いとしの儚』に感覚が似ている。肉欲と残酷で醜悪な暴力に塗り潰される無力な弱者が、この世のものとは思えない程美しい光景を垣間見る刹那。負の絵の具を塗りたくった先に見えた異形の曼荼羅。

決して嘘をついてはならない掟がある貧しい寒村。稲葉能敬氏は雪道で行き倒れになった高橋紗良さんを見付け、家まで運ぶ。だが母である鈴木めぐみさんは「余所者は危険だから棄てて来い」と命ずる。稲葉氏は母の言いつけに逆らったことがなかった。ずっと女房が欲しかった稲葉氏、若い女を手放すことに苦悶するも母の剣幕に負け、女を連れて外へ。だがやはり連れ帰って来てしまう。

稲葉能敬氏は性欲と村の掟と母からの支配に苦しみ悶える男。小心者で嘘をついた己の良心の呵責に苛まれ、そして何一つ出来ない。
鈴木めぐみさんは息子を支配する母親像の権化。
高橋紗良さんは適役だと思う。何者だかはっきりとしない陽炎、蝋燭の炎の揺らめき。
北直樹氏は村の男で村一番の権力者の長者に織物を納めている。

高橋紗良さんが織る見たこともない美しい真白な織物。降り積もった雪より白く、丹頂鶴のような艶やかさ。その白さに聖なるもの、尊きものまで感じさせる。
ラストは鮮烈。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

鈴木めぐみさんが序盤で殺されるのは残念。もっと観たかった。性欲の高まりで衝動的に殺したように見えるのは残念。それが狙いなのかも知れないが。

高橋紗良さんは異人だが、アイヌっぽくはない。樺太(サハリン)の少数民族ウィルタ(オロッコ)のイメージ。ニヴフ(ギリヤーク)ではないような。三日三晩徹夜で籠もり機織りを完成させるなど非人間的な面も感じさせる。

この物語の核に村の掟の真の目的がある。長者から絶対的な信用を得て、年貢徴収を村人の自主管理に任せて貰うこと。納める年貢の量を少しでも減らして村人の取り分を増やさないことにはとても暮らしてはいけなかった。支配者を騙す為に善良な村人を演じる必要があったのだ。支配者から少しでも不審に思われてはならない。母殺しなんてあってはならない。全ては余所者の異人の仕業、退治するのだ!ただ愚直に村の掟を信奉していた稲葉氏は世界が崩れ落ちる様を見る。全ては嘘だった。

演出の狙いに粗が見える。母子の愛、男女の愛を丁寧に描かないとラストは生きない。ちょっと違う気がした。ラスト前、天井から布が囲炉裏に落ちる。それが引き上げられて無惨に血塗られた反物、飛び去った白い鶴となるのだが、その仕掛けの仕込みを見せちゃ駄目だろう。勿体ないな、と思った。その美術は見事な物だっただけに。

ツルミビタン=鶴身美反?
エアコンの自動運転なのか、二度程作動音が始まったのが雰囲気を壊して残念。

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