ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

81-100件 / 3161件中
AIRSWIMMING  -エアスイミング-

AIRSWIMMING -エアスイミング-

WItching Banquet

アトリエ第Q藝術(東京都)

2023/09/26 (火) ~ 2023/09/27 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

 板上は下手客席寄りに斜めに置かれた椅子Ⅰ脚、板中央に円周上を囲むように置かれた椅子5脚、下手の椅子とシンメトリックに置かれた椅子1脚。上手ホリゾントと側壁に面してスタンドピアノと椅子。

ネタバレBOX


 ドリス・デイの活躍が終始横糸となり、精神薄弱と診断された患者たちの施設での暮らしが縦糸となって収容以降数十年の生活が描かれるが如何にリーディング公演とはいえ、演劇でドラマツルギーが成立し対立が先鋭化してエスカレートしなければ本質は露わにならないし、焦点が呆ける。原作を原文で当たっていないから何とも言えないが脚本の選択ミスを先ず疑った。縦糸と横板が行き交うだけでは不十分である。そもそも現代アメリカ文明で語られるような愛は、ギリシャ文明を継いで汎神論的であったローマでキリスト教が国教とされて後、ローマの為政者達の中で知恵ある貴族らが、本来弁証法的であったキリスト教を二元論に置き換えて後、神と子の話として広めて以降であろう。現代アメリカのキリスト教もこれに近いのではないか? そのようなキリスト教が中世二元論を中心に構築され聖書に書かれたことを絶対とし唯一神としてヤハウェを称え反するもの総てを悪魔と関連づけてヨーロッパを覆った。為に科学は遅れイスラム世界に遅れをとったのである。ルネサンスが当時地球上で最も進んだ文明を誇った中東を介してのみ、ヨーロッパに再流入したからこそ、re-naissanceなのである。
 まあ、余り詳しい世界史の講釈は無しにしておこう。中世ヨーロッパで魔女裁判が頻りに行われ、猫が魔女と絡めて大量に虐殺されたことも読者の多くがご存じだろう。このように歴史的宗教が絡んだ問題は奥が深い。そのような問題を扱うにドリス・デイが活躍した僅かな時間軸で少なくとも二元論を根底とした長期に亘るジェンダーギャップをキチンと表象し得ると考えること自体、如何かとは思う。
 精神障碍者とされ、社会から排除された人々は何も女性だけではないし、精神障害とされること自体、要は一般的な考えとはかけ離れて居る為多くの者は理解できず、不安になって排除するという構造が在るハズであり、そういったことの中でジェンダーギャップがあるならば、それをキチンと抉り本質を深く掘り下げたうえで被差別者たちの呻き声が伝わってくるように描かなければ、演劇公演としては極めて弱いのではないか?
 結果、全体として緊張感を欠く、また焦点のハッキリしない泡のような作品になってしまった。良かったシーンはラスト。椅子に乗った精神薄弱の「患者」たちが、自分達を縛ってきたテキスト(演劇を演じるという意味でもテキストに縛られ社会規範との二重の意味を持ち得る)を真ん中の窪み(イマジネーションを膨らませれば例えば魔法陣でも良い)に投げ込んでエアスイミングを試み空を翔けてゆくシーンである。彼女らは自由(つまり世間が魔とみたもの)の方へ翔けてゆく。それが『ワルプスギスの夜』と呼ばれるものであったとしてもだ!
第11回西谷国登ヴァイオリンリサイタル

第11回西谷国登ヴァイオリンリサイタル

西谷国登リサイタル

浜離宮朝日ホール(東京都)

2023/09/23 (土) ~ 2023/09/23 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 音楽は何と言っても生演奏に限る。

ネタバレBOX

 途中20分の休憩を挟み以下の演目を演奏。
1:ラヴェル作曲のヴァイオリンソナタ(1927)から第2楽章
 なんだかんだとcovid-19の影響を受けざるを得なかったこのコンサートも今回は基本的にはコロナ禍以前に法的には近くなり、開催に至り付いた。西谷さんご本人はもとより関係者の方々も少し肩の荷が軽くなったかとは存ずる。数多くの名曲を作曲したモーリス・ラヴェルの曲を前半では日米両国で現代風にアレンジしたりクラシックとジャズを世界で初めて融合させたりと様々に現代化した作品群を演奏。休憩後は、クラシックらしさを残しつつオリジナルのカデンツァを付けることで西谷さんの仕事としている。
2:湯山昭作曲ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ(1953)
 湯山さんが芸大大学院時代に作曲なさったソナチネを新納さんが演奏。流石にいい音色を聴かせてくれる。切れのある演奏がグー。
3:ルドルフ・ハケン作曲ヴァイオリンとヴィオラのための「スレンナタリア」
 ハケンさんは極めて稀な五弦ヴィオラの奏者、筆者の友人にも某オケのヴィオラ奏者が居てヴィオラによる独奏曲が余りに少ないことを漏らしていたが、オケの中でそのような位置づけをされるヴィオラでも五弦ヴィオラの存在を知ったのは今回が初めて。世界でも稀なその五弦ヴィオラとヴァイオリンの合奏とは! 単に音の競合や響き合いの面白さのみならず、演奏時の身体パフォーマンスもユニークで面白く、ハケンさん、西谷さんのサービス精神が遺憾なく発揮され技巧的な素晴らしさと共に楽しさも存分に味わえる舞台であった。
休憩
4:メンデルスゾーン作曲ヴァイオリン協奏曲ホ短調作品64 オリジナルカデンツァ付きの弦楽合奏版西谷国登編(世界初演)
 西谷さんは、ヴァイオリン演奏の他にタクトも振るのでカデンツァの際の超絶技巧と指揮の絶妙なコントラスト、協奏して下さる皆さんとの息の合った演奏にも感銘を受けた。
更にドッキリで、9月23日がピアノを演奏して下さった新納洋介さんの誕生日とあって特別にご本人によるピアノ演奏も組まれその音色に聴き惚れることもできた。
 また、ヴァイオリン協奏曲終焉後に鳴りやまぬ拍手に応えたアンコールには、メンデルスゾーンが極めて若い頃に作曲したヴァイオリン協奏曲ニ単調第三楽章が奏された。
442

442

ICU劇団黄河砂

ICU内 ディッフェンドルファー記念館東棟1F オーディトリアム(東京都)

2023/09/22 (金) ~ 2023/09/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 必見! 華5つ☆。初日を拝見、行きはそれほどでもなかった雨が帰りには雷を伴った激しい雨、シャツ、ズボン、バッグ、靴下までずぶ濡れになって帰宅したが、観劇の満足感で報われた。脚本はうら若い女性、これだけ戦争の本質を掴んだ作品を書くとは! 心底感心した。リーフレットを拝見すると共同執筆とも取れるが主として一人が中心になって書かれているように思われる。
 当て書きをかなりしているということで役者4人のそれぞれの個性も生き、思春期を漸く終えた新兵たちのデリカシーも経験を積まぬ年代の男の背伸びや矛盾に対する鋭敏な感性も見事に表現された舞台である。戦争という不条理(この単語absurdeという単語を訳すのに難しい漢語を当てた結果広まったと聞いたこともある、馬鹿げたという意味も含む単語である)に対する真摯なそしてもっともな人間的論理が対置されて瑞々しく躍動している。見事である。観るべし。(追記2023.9.24:09:30)

ネタバレBOX

 多少、日米開戦状況を知っている者なら聞いたことくらいあるだろう。日系アメリカ人志願兵によって結成された志願兵部隊、442の兵士の話である。板上は必要最小限の舞台美術。オープニングでは箱馬が中央にせり上がるように置かれ、最上部にラジオ(当然当時、アメリカで一般に使用されていたと思しきタイプ)がさりげなく置かれている。ほぼ、素舞台と言ってよい状態だ。因みにこの442部隊は、太平洋戦争突入の契機となった真珠湾攻撃を契機に結成されたが、冒頭で記した通り志願兵の部隊であり、志願の経緯には差別される側であったことが在る。
序盤この経緯を本土で暮らしてきた若い2人の日系アメリカ人の対話やハワイ出身の矢張り若い幼馴染の日系アメリカ人との対話を通じて描いて行く。この時ラジオから流れるニュース等が極めて大きな役割を果たすという訳だ。この導入部の上手さは実に自然でこれ以上説得的な導入はあり得ないほど完璧である。然も同じ日系でも対白人に対しての意識が全く異なり、日系移民の比率が圧倒的に低い本土出身者は比率が3割ほどに達するハワイの某集落出身の2人から見ると日系としての誇りに欠け情けないと感じられる等同じ日系でも意識差があり、同一を装いたがる日本の本土社会とは異なる米国社会の在り様をこれも極めて自然に理解させる。対白人に対する態度は、米本土出身者とハワイ出身者で異なるものの、民族としてのアイデンティティーに関しては日系人は遠い故国・日本の出身地域の風習等を色濃く残すことで他国で暮らす時の縁(よすが)とする傾向が強い。(この傾向はどの民族にも言えることだ)ただ、現在でも海外でキチンと現地の人々と付き合う日本人は少ないがそのような生き方をした日本人なら、日本より遥かに多様で幅広く深い社会を体験的に知るのが普通である。序盤で被差別に抗する為と大きく纏められる彼らの志願動機が描かれる訳だが、中盤、後半では熾烈な戦闘の中で、当に生死を賭け身体は疲弊の極みに達し乍ら神経が苛立ち中々寝付けない夜を過ごすと同時に白人上官から苛烈な命令を受け従わざるを得ない軍法の下で命を落とし傷を負うと同時に、彼らの勇猛果敢が喧伝され著名になってゆく中で英雄というプロパガンダに巻き込まれつつ戦闘の中で培われた末端兵士としての、使い捨てられる実態を生きる個々の若者の、押さえても押さえきれない葛藤が描かれる。その様は以下のようなセリフに集約されている。体の半分千切れた兵士が望むことは、国の為なんかじゃない。助けて! 生きて帰りたい。大切な人、愛する人に会いたい! というような余りに切ない念である。
脚本・演出:近藤彩夏さん、ヒデ役:大嶋優介くん、ベニー役:有賀大輔くん、
レニー役:内藤怜歩くん、ケン役:田中凛くん。皆さん良い作品作りである。裏方の対応もグー。照明・音響も良い。
福寿庵【再演】

福寿庵【再演】

演劇企画アクタージュ

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2023/09/14 (木) ~ 2023/09/18 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 初日を拝見。今回の舞台美術は劇団の皆で作ったというが、蕎麦屋らしい茶と黒、白がベースの落ち着いた佇まいを見事に表現しており美しい。出捌けは正面奥のカウンター席裏に導線を設けて1か所、下手側壁の暖簾の掛かった場所、そして上手側壁に設けられた福寿庵(ぽんぽん)の入口の3か所で合理的。尺は105分程。(追記後送)初日が終わったばかりなので、後は観てのお楽しみ。華4つ☆

ネタバレBOX


 因みに福寿庵の横の()内に示したぽんぽんは、店長・庸助が溺愛した妻・咲が近くの神社にお参りした際、狸の像を見て子宝に恵まれるよう、またその可愛らしさに絆(ほだ)されて提案し広まったこの店の愛称である。面白いのは咲は毎日お参りにお供えとして持参するのが、店の隠れ人気メニューの稲荷寿司であることだ。当然、狐を神としたお稲荷さんへのお供えに対するジョークである。まあ、咲が極めて重要なキーパースンなので店の中央奥のカウンター席に設えた棚には水差しなどと共に狸の置物が鎮座まします。このカウンター上手には、履物を脱いで上がれる客席があるが、物語の中で余りキチンと用いられないのが残念ではある。
 さて物語は、この店の歴史に関わって展開するが、庸助が、咲とのデートの際食べに行った蕎麦屋の味が格別で咲が「このお蕎麦おいしい」と呟いたのが原因である。それほど庸助は咲にぞっこんであった。福寿庵と名付けたのは七福神にあやかったのか否かは不明だが、当初この店名に同意していた咲がそば処・ぽんぽんと命名し直したのはお参りに行った際の狸の像のお腹を見て妊娠を想像し早く子宝を授かりたいと強く願ったという経緯がある。結局、咲にぞっこんの庸助は、これを暗に認め常連客の間ではもっぱら、ぽんぽんの名が使われるようになったという訳だ。
『幸せな時間』『心のかけら』『君へ』

『幸せな時間』『心のかけら』『君へ』

T1project

小劇場B1(東京都)

2023/09/07 (木) ~ 2023/09/18 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 「心のかけら」を拝見。SF小説「模造記憶」の持つ、怖さを思い起こしながら拝見。追記後送
 今回、上演されているMEMORY三部作は再再演、再演が各1作、今作のみが新作で友澤氏80作目の舞台脚本である。他の2作と異なり新作「心のかけら」は、今までに書いたことがない物語を書きたいとインターネットとヴァーチャルリアリティーの中間辺りを仮想領域とするメタバースを梃に、我ら現代人の不確かな記憶・愛が描かれる。(追記2023.9.16)

ネタバレBOX

 
 物語が展開するのは、廃園となった遊園地職員の休憩所だった建物。カルト宗教団体としてマークされている教団メンバーは、この建物内で困窮した人々に食料配布等をしながら共同生活をしているという。そんなメンバーの過去を取材したいとTV番組のクルーと名乗る若者が撮影機材を持って取材を強行している。偶々、この日は食料配布日、正午から配布を開始するというのでメンバーも三々五々集まってきた。
 奇妙にも窓外からは、砲弾の炸裂するような音や、機銃掃射のような音もする。取材クルーも「多摩川の橋が落とされた」などと不穏なことを語っている。
 こうして物語は幕を開けるが、読者は異様な感じを私の書いた文章から感じないだろうか? この宗教団体がカルト教団としてマークされながら慈善事業を公然と行っているという点、通行人に対してなら兎も角取材アポも取らずに教団の用いている建物内に居る人物に突撃取材を試みるなど、マスメディアに少しは通じている人間なら、最初から在り得ないと否定して掛かる所だ。住居不法侵入で訴えられれば如何にマークされているカルト宗教者の居る場所とはいえキチンとした法的手段が行使され得る。そんなリスクを冒すハズが無いからであり、そもそも取材者自身この後の展開でアイデンティファイすることを避けているのであるから、これはもう取材拒否の権利行使という形で撃退できるのは明白である。また、窓外では戦争が始まっているとしか考えられない音がし、真偽の程は兎も角、多摩川の橋が落とされたと言っている取材者を名乗る者に対し誰一人反論しない等々である。然し、これらの不自然こそ作家により仕掛けられた状況説明なのであり、観客はこの序の序部分で物語が尋常の世界を描いていないことに気付く。この時点で気付けなければ更に先に進み、クライマックスを迎える辺り迄分からないかも知れない。
 今作の肝は少し覚めた観方で世の中を観ている者にとって、現実に我らが暮らす世の中は、既にして完全なディストピアに他ならないという点である。何も日本に留まらない。先進国も途上国もその中間に居るとされる他のすべての国々も気候変動による災害の甚大化、汚染や他の環境破壊による生態系そのものの崩壊、人間の欲望のみに照準を合わせた経済の限界、人間の能力に対する過信と傲慢が生み出し現に機能している政治や政策。実証され続ける事実を葬り去ろうと努力し続けている愚かな勢力の拡大等々、枚挙に暇はない。以上掲げられた総ての事情に最も大きな影響力を行使しているのが所謂成功者、即ち人間の中で最も「強い」、力を持った支配層と追従者集団である。残る大多数、負け組と軽視される人々こそマジョリティーであり、今作に登場するカルト教団の信者たちに象徴される者たちである。結論から言えば弱者たちは救いを求めるにあたって強者の一部であるカルト教団教祖や幹部から「望んで」搾取される人間になっているという悲喜劇の実態である。即ちマジョリティーを構成する総ての人々が主人公なのだ。それは、我々自身だ。この実情が、極めて強い没入感を持つメタバース世界を利用して描かれている訳だ。従って不自然な行動や言い訳を用いていた取材者はアバターであり、その実態は、家族にも理由が分からぬながら変わってしまい行方を晦ました母を探す娘だったりするのである。『模造記憶』によるマインドコントロール等が、このカルトに居続けることになった個々人に大きく作用したことは否むべくもないが、問題は入団を望む深層心理が個々に入団した人に働いていたであろうことだ。つまり何らかの不如意や個々にしか分からないトラウマ等に対する事実認識に向き合う深い覚醒が個々人の中で具現化しない限りいつまで経とうが本質的に覚醒することはできず、解決とはならないことである。今作では幸い、個々人の殆どがこのことに気付き覚醒してゆくが。
 観た者総てに関して拭えぬ感覚はメタバースという状態がイマイチハッキリしないことではないか? それも当然、現時点では例えIT専門家と言われる人々の間でも統一見解は無いようだし、そもそも、目指している実態がどのような具体像を結ぶのか? についての統一見解も無い模様である。当然の事ながらIT技術の進歩は当に生き馬の目を抜くという表現が疾うの昔にロトイと感じられる御時世である。混乱は百も承知ということであろうが、作家は、現実と殆ど見分けのつかないレベル迄進化したヴァーチャル世界が現実世界と殆ど一体化している世界をイメージしているようである。この点さえ弁えていれば、余り頭を悩ませる必要はなさそうだ。素直に物語の展開に身を委ね楽しんでもらいたい。
 その上で問題は、別の処に或る。即ち通常我々がアイデンティファイするのは、己の思考・傾向が自身内部で矛盾せず、統一イマージュを結ぶと同時に、その者の属する集団社会の論理・倫理等の諸規定。諸規制と己を律する内的論理・規制が矛盾しないことで成立しているのだが、これに似て全く非なるモノが合体してしまった時、ヒトは果たして今までのような形でアイデンティファイし得るのか? ということであり、し得ないということであれば今後どのように自己の統一感覚を得ることができるのか? という問いを如何様に解決するか? という大問題である。今作の訴える真の怖さを多くの人々が体験するのは、実際にメタバースが世界を席巻した後のことになるのであろう。


『幸せな時間』『心のかけら』『君へ』

『幸せな時間』『心のかけら』『君へ』

T1project

小劇場B1(東京都)

2023/09/07 (木) ~ 2023/09/18 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 拝見したのは「君へ」。今作も華5つ☆ ベシミル! ほんの少しだけ追記。2023.9.16

ネタバレBOX

 上演中のMEMORY三部作のうち今回拝見の2作目・「君へ」を拝見。前回「幸せな時間」の観てきたでも述べたことだが、友澤氏の脚本は深い。更に詳しくは後に記すが、彼の脚本傾向について少し語っておこう。
 作品内容が深いということは、本質的だということと殆ど同義である。それは哲理が通っているということだけを意味しない。演劇脚本である以上、それは実人生の様々な経験知を通しても納得のゆくもの・ことの連なりであり、因果でもあるから、伏線の敷き方はそれが結実するまで殆ど気付かれることのない形で提示されていなければならないし、気取られてもならない。
今回も若い役者が大変活躍しているが、若者の多くがT1projectが主催する24ヶ月プロジェクト修了生であり、今回MEMORY三部作には16名が参加している。
 さて、友澤作品の深さは、このような若手にとって可成りハードルの高いものであったハズである。というのも若さには人生経験の乏しさというのっぴきならない事情があり、人生の深みを本当に理解するには、経験が必要なケースも多い為、良い演技をしようとすれば頭でっかちになりすぎ、間の取り方や台詞回しに不自然な調子や不適当な取り方が出易いからである。多くの役者が極めて長い年月を掛けてこの難問を解決する為に努力するのだが、
T1project出身の若者たちは、ベテランに対してもと迄はいかない部分があっても、若者ららしい傷つきやすい感じ等が出ており極めて自然で説得力のある演技をものにしている。このようなことが僅か2年で達成できるのは、適格な指導とサジェッションの他に各役者の個別の才を適格に見抜きそれぞれに合った育て方をしてきた友澤氏の力もあったと同時に作品が簡単に理解できるほどありきたりな発想で書かれておらず、演じてみたいと個々の役者に思わせるだけの力を持って居る為だろう。役者のインセンティブがこの作品をやってみたいという個人的な欲求をベースにし得た時、役者は、役を生きることに没入できる。このように基本的なプラス要素が、役者個々人の年齢や人生体験を超えて一つの舞台創造に対しプラスの連鎖を引き起こしているからこそ、素晴らしい舞台を形創っているのである。このことは、舞台美術、照明、音響、小道具に至る迄総てに言えるし、裏方の案内等も理に適っている。以下、今作のほんの触りだけ挙げておく。観て頂きたい作品群である。
 開演前、鳥や獣たちの発する声が流れ、楽曲も組み込まれてずっと流れているのは、今作が私設動物園を舞台にした物語であるからだ。7年前、先代の園長から経営危機に陥っていたこの動物園を継承したのは、歯科医であった現園長の花川慎太郎と妻・凛であった。花川らは私財を擲ってこの危機を立て直したが、それから7年の月日が経ち、動物園は、借金園となっていた。そんな中、園長に「余命3か月」の診断が下された。既に胃のみならず骨に迄転移しており、回復は見込めない。然も園長は尊厳死を望んでいる。このことを巡っても、また借金園となった動物園の今後についても逃れられないドラマが複層的に構築されているのは無論のこと、1人とても興味深いキャラが登場し、物語に先鋭的な緊張感を持続させ続けると同時に、このキャラクターが何故そのような行動を取るのかもさりげなく示されており、これも納得のゆく内容である。
 出演者それぞれの演技力というか役を生きる力が素晴らしいが、脚本に極めて上手に対立項を拵えている(とんがって体験的就業を主張する若い女子)のが、今作の素晴らしい点である。小道具でラストシーンが夫婦の愛の深さを象徴している点も、その演技(田中 理美子さん)も素晴らしい。
新ハムレット

新ハムレット

明治大学シェイクスピアプロジェクト

アートスタジオ(明治大学猿楽町第2校舎1F) (東京都)

2023/09/08 (金) ~ 2023/09/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 ちょっと変わった配置である。板は会場内センターに設けられ、周りを観客が囲む形。オープニングでは板上に白、茶、グレイなど大小さまざまなの円形のシートを敷き、会場入り口から観て上手の観客席の切れ間に人の背丈ほどの四角い骨組みが立てられ、丸い演技空間の四カ所の床上に投光器が1台ずつ置かれている。演技空間の真ん中には六角形の底面を持つ箱馬が1つ。天井からは演技空間外周を囲むようにレース状の布が誂えてある。

ネタバレBOX

 第20回明治大学シェイクスピアプロジェクトのラボ公演である。ご存じの通り、今回上演の「新ハムレット」は太宰 治の原作であるが、本公演で演じられるシェイクスピア原作の「ハムレット」とも見比べることが出来る訳だ。是非、観ておくとよかろう。
 ラボ公演ということで、会場は可成り小さく収容人数も少ないものの、内容的には極めて面白いし、様々な工夫、学生さんらしい気の利いた茶目っ気も施してあって気持ちが良い。シェイクスピア作品ではハムレットの苦悩自体の深刻さが重点を為すが、今作・新ハムレットでは、世相としての政治、日本が長きに亘って行っていた戦争の最中に書き続けた太宰という作家の位置を含め、大人の事情が政治・世相と絡めてより大きな位置を占めている点でも極めて意味深長である。
俺たちはどう生きるか!

俺たちはどう生きるか!

株式会社L4

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2023/09/06 (水) ~ 2023/09/12 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

 表層的。

ネタバレBOX

板は凸型の天地を逆さにした状態をベースに反転した凸の欠けた部分に階段を設え(即ち客席側の下手、上手の欠損部分に階段がある訳だ)客席側を踊り場としたうえで平台を置きその中央辺りに階段となる幅の狭い台を置く。登り切った処から奥が更に高くなった踊り場である。他に小道具などの設置は無い。
 物語は某研究所(実績も能力もあるが、学会からは離れ山奥で研究を続ける一風変わった科学者の研究所)から盗み出した研究データと思しき物が、評判通り10億の価値を持つか否かを確認する為、まんまと盗み出したブツが更に高く売れるかも知れないと内容確認をした男が、その機器に収められたデータを再生してみたことで進む。オムニバス形式の作品である。上演時間105分。
 各作品のタイトルは以下の通り。
「パニッシュメント」「悪魔に願いを」「アンドロイドケータイ」「これから正義の話をしようぜ」何れも随所に現代日本に対する揶揄が散りばめられてはいるが、余り深く掘り下げられた脚本とは言い難い。ニュースの表層をちょっと深読みした程度の内容に留まるからである。結果個々の登場人物の人生に具体的・宿命的に状況と対峙し、己の人生の総てを懸けて挑まねばならぬほどの必然性として立ち上がってこない。タイトルが気に入ったので観に行ったのだがその意味では的外れであった。脚本が甘いのでは演出も役者陣の演技にも深みが出ない。もっと練った脚本にして欲しい。
 脚本が甘いからスモーク等単純な演出を多用する他ないのだ。以上の欠点が役者陣の演技にも反映してしまった。
ニューアナログな君へ

ニューアナログな君へ

劇団ヒラガナ( )

ウエストエンドスタジオ(東京都)

2023/09/07 (木) ~ 2023/09/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

 ウーム、チャレンジ精神は高く評価するので華3つ☆。チャレンジする姿を観たい方にはお勧めかも。

ネタバレBOX

 50回以上の公演を打っている劇団としては極めて実験的な試みであるが、成功とは言い難い。こう言うのも、場の設定がしっかりしていないと考えるからだ。イマージュを物化する為に詩は象徴や喩によってイマージュを単なる言語ではなく物として表現し、その強度によって詩行なり詩節なりを自由に何処に置こうと有効な部分とする。このように詩行なり節全体の独立性を保ちながら同時に場の自由を獲得するという挙に出ることが可能となるのであるが、それは一方で韻の踏み方、詩の形式(ソネットや、アレクサンドラン等詩形式・詩行の韻律形式を含んで)などの厳密な規則の上で形式が担保されるからなのである。然し、戯曲は一般的に散文と詩表現の中間に位置するものであるから詩に要求される韻律や詩形に関する規制は無く、散文の如き事実に則すことを第一義とするものでもない。掛かるが故に脚本では物語が生起する場が基本的に同一であることが要求される。然るに今作ではこの点が無視され複数の場が同じテーマを追求する為に幾つも設けられ互いの場が何ら有機的関連を持たずに展開する。このような構造に劇的効果が生じる訳がない。言わんとすることは総ての場面を通じて同一なので分からずにはいないが、各々のシーンが有機的に結びつく必然性が欠けているせいで、総てが空中分解する仕組みになってしまっており、結果劇的効果を齎す収斂というクライマックスが成立し得ない。このようなことも恐らく感じられつつチャレンジしたのであろうが、どんなに短く見積もっても演劇の歴史は数千年の過去を持つ。そのような芸能形式にアタックするには未だ力不足を感じざるを得なかった。
『幸せな時間』『心のかけら』『君へ』

『幸せな時間』『心のかけら』『君へ』

T1project

小劇場B1(東京都)

2023/09/07 (木) ~ 2023/09/18 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 華5つ☆、今年になって拝見した総ての舞台公演のうち間違いなくベスト3に入る。極めて深く、示唆的で己の存在について考えさせる作品。必見! 観たいで3作品の尺を約2時間としていたが、今作135分、休憩無し。(追記2023.9.16)

ネタバレBOX

 物語は某劇場の楽屋で展開する。明転すると1人の人物が客席側に若干斜めに置かれた椅子に腰かけている体で登場する。そこへ初老の男が入ってくる。腰かけていた男は、初老の男が入ってくると何やら語りだすが初老の男には聞こえない模様。初老の男は荷物から様々な物を取り出し、テーブルの上に一つ一つキチンと並べて置く。中に小さな額に収めた写真があるが、男はこれに合掌。この時点でファーストシーンで椅子に座っており、その後立ち上がって何やら壮大で哲学的な話をしていたこの男が実は死者で、その霊が具現化しているのだということが観客にもハッキリ認識される仕組みだ。初老の男は霊が語っている間に楽屋隅に置かれたハンガーに上着をキチンと掛け、元居た席に戻る。
 このオープニングで極めて上手いのがこの初老の男と霊が実は漫才のコンビであったこと。相方は未だ若いうちに亡くなっていること。だが初老の男は未だその「相方と共に」舞台に立つようなタイプの芸人であることなど、今作の最も本質的な部分をオープニングの僅か数分でキチンと描き、この老芸人の類稀な律儀と人としての偉大さを示していることである。主演を演じた針生楊志夫さんの演技も素晴らしい。
 他にも無論魅力的なキャラクターが何人も登場するが、この相方を失くした初老の芸人の師匠夫妻が、未だ師匠も決まらない主人公たちと出会う場面に登場する漫才夫婦(師匠の師匠夫妻)のキャラ設定が素晴らしい。先々代の師匠は如何にも浪速の芸人らしく、東京に強い対抗意識を持つことが自然に、しかも実にそれらしく描かれ、演じられているからであるが、女房にだけは弱い。このお二人の演技も実に素晴らしい。五十嵐勝行さんと星合庸子さんである。
 このように物語は幾つもの時代を駆け巡り乍ら展開してゆく構造であるから、長い一人っ切りの漫談を最愛の妻の死に目にも会わず、高座に立とうとする芸人魂の凄まじさを一本通して表現する者の、人々に愉しみや慰め、ひと時の癒しや気分転換を図る者達の心構えをさりげなく訴える。
想い光芒、想われ曙光

想い光芒、想われ曙光

劇団25、6時間

萬劇場(東京都)

2023/09/06 (水) ~ 2023/09/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 Aチームを拝見。池袋演劇祭にも参加している作品。自分は審査員では無いからある程度のネタバレは許されようが取り敢えず楽迄はネタバレ内容は控えめにしておく。楽以降に追記。作品としてはファンタジックな要素も取り入れながら、極めて深刻な人間関係をドラマティックに描いた秀作である。

ネタバレBOX

 この地域では精霊を信仰する習わしがあり、年に一度ランタンを灯して空にあげるランタン祭りが開催されてきた。天と地に分かれて暮らす水の精霊姉妹は、このランタン祭りの日だけ逢うことができた。然し世の中が様変わりした現在ではその祭りの資金もままならず、精霊を祭る祠は残っているものの、殆ど打ち捨てられたようになっている。時折、僧侶が祈りを捧げることはあるものの、ランタン祭りが根付いていたことさえ人々の記憶から薄れつつあった。以下、ネタバレの代わりに重大なヒントを上げておく。
 ヒトという生き物は、愛されずに育つと、自分に子供が出来た時に愛し方を知らない為、子が親になり自分が孫を持つようになってさえ、子はその子(孫に当たる子)を愛する術を知らないという負のスパイラルを起しやすい。 
ワーニャ伯父さん

ワーニャ伯父さん

ハツビロコウ

シアター711(東京都)

2023/09/05 (火) ~ 2023/09/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 初日を拝見。流石、ハツビロコウ。

ネタバレBOX

 物語は部屋数だけで26もある屋敷の皆が集まる部屋で展開する。劇場の板部分を嵩上げして平台を置き平台の各頂点を延長した先に一か所ずつ出捌けが設けられている。うち一カ所は、劇場入口も兼ねる。上手ホリゾント側の出捌けには側壁から迫り出した壁があり、出捌けの際の目隠しも兼ねているが、この壁にはマジックミラーのような反射率の鏡が掛かっている。その反対側ホリゾント側下手出捌けの先には窓があり、下手手前の出捌けの先にはワーニャの部屋がある。尚、皆が集まる部屋は、現在の日本のマンションで言えばリビングに当たるのか? 嵩上げした平台の丁度中ほどに大きなテーブルが置かれ、場面、場面で椅子の数を調整、テーブル上に置かれる物もサモワールとカップ、ウォッカの瓶とショットグラス、ちょっとしたつまみ類等を盛った皿など必要に応じた物が置かれる。
 有名な作品だから物語の筋は書かない。ただ、これだけは言っておきたいのが、これまで他劇団の演じた「ワーニャ伯父さん」を数本観てきたが今回の舞台が最も気に入った、ということである。何故なのか? 自問してみた。するとチェーホフが描かんとした意図を最も正確に捉え分かり易く的確に表現して観せた舞台だからではないかと思い至ったのである。他の作品にも表れているチェーホフの自然に対する卓越した見解と、その正鵠性故に理解されぬもどかしさや絶望、孤独感や侘しさが医師・アーストロフの台詞、態度に実に良くあらわされ、退任した大学教授が屋敷へ来る迄は、この地域でたった2人しか居なかった知識人として同じくチェーホフの分身であるワーニャを通してアーストロフの描写では抑えられていた、圧倒的少数のインテリが社会に対して感じていた苛立ちや侮蔑感、理解されぬことから来る焦燥感等が極めて明快に刻印されている。その一方、乳母・マリーナは民衆の代表として描かれていると考えられるが、チェーホフの彼女に対する視線は暖かく、真の民衆の持つ知恵の深さ、適格を随所に鏤めた台詞で顕彰されている。密やかにアーストロフへの身を焦がす恋をするソーニャの純愛も哀しいが美しい。一方ブルジョア階級に属すエレーナについては、恋愛の仕方についても利害得失が矢張りちらつくことは、彼女の態度と台詞の落差によって否定し難い。退任教授・セレブリャーコフについてはその極楽蜻蛉ぶりが遺憾なく表現されている点もグー。また、居候のテレーギンに対する侮蔑的態度は、ワーニャがこの屋敷購入時に不足分を支払ったこと、この土地・屋敷の管理をソーニャと共に必死に担ってきたことから来る自然な苛立ちとして表現することによって、チェーホフのもう1人の分身、アーストロフに精神の上澄みを担わせることに成功しているという、今作の作品としての深み迄解釈させてくれた。上演台本・演出を担った松本さん、その要請に応えた役者陣に深く感謝! 無論、このような舞台を支えて下さった他の総てのスタッフにもお礼申し上げる。
好きなのに

好きなのに

中央大学第二演劇研究会

中央大学(多摩キャンパス)(東京都)

2023/09/01 (金) ~ 2023/09/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 生まれて初めて中大多摩キャンパスを訪れた。上演した場所は、学生会館として利用されていると思われるキャンパス入口から直ぐの建物4号館の4201教室、イベントスペースNightである。都区内に居を構えていた多くの大学が郊外に移転し始めて既に50年近く経つのか? 中大のお茶の水校舎は、学食が安くて旨いと評判だったこともあり、時々出掛けていたが、学館らしき建物は、我々の学生時代の学館に何となく似た雰囲気を漂わせている。閑話休題、本筋に入ろう。

ネタバレBOX


 言うまでもなく「恋」は、多くの表現ジャンルで最も多く扱われる題材の1つである。それは誰もが何らかの形で経験しその人生の中で最も深く、激しく身悶え深く生きる経験でもある。大抵は何らかの障害があり、その障害が益々恋心を燃え立たせる。常に不安と希望が己が心の中で争闘を繰り返し、一瞬も魂の安らぐことはない。厳しく辛く己が身を焦がす昏い炎でもあるが、何か成就の兆しが見えれば空にも昇らんばかりの歓喜に包まれるのも事実。
 一方、これら通常の恋が成立し得ない、してはいけない関係というものがあるのも事実である。滾り立つパッションが抗うことのできない、本人にとっては最も根源的なアンヴィヴァレンツが、互いの滾る念を引き裂いているとしたら? その時、ヒトは人としてどのような選択をし、どのように生きられるか? そこまで踏み込んだ脚本であり、その宿命を若い人々が描いた作品である。実際にはどのように物語が紡がれてゆくか、実地に体験することをお勧めする。
 舞台美術は、かなりしっかり作り込まれている。側壁天井やホリゾント近くから下がる濃紺系統の布の間に「の右方向の線を更に右に延ばしたような白いパネルを2つ、前後に人の通れるほどの距離をとって設え出捌けの裏導線とした他、側壁に掛かる濃紺の布部分を出捌けに用いるなど都合3か所の出捌け。板正面の壁際には下手コーナー辺りに収納家具、センター辺りに本棚が見え、これらの手前、観客席側の板中央辺りに応接セットのソファ、テーブルが置かれている。また、上手壁際にはバーカウンターと丸椅子が置かれ喫茶店のカウンターを表している。応接セットやバーカウンターなどには花が生けられ大切な働きをするのも、今作に登場する人物たちの幾人かの繊細なメンタリティーを現すのに寄与し小道具の使い方も上手い。お勧めの70分である。
 脚本、演出、演技も良く、舞台美術もおしゃれだし、小道具の使い方も上手いが、いつも通りスタッフの対応も良い。
にゃんこやソバにいておくれ

にゃんこやソバにいておくれ

息切れカメレオン

アートスタジオ(明治大学猿楽町第2校舎1F) (東京都)

2023/08/31 (木) ~ 2023/09/02 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 おもろい。にゃ~~~~~~!

ネタバレBOX

 板上は直交する白幕を壁に見立て各々の壁に出捌けを設ける。また、それぞれの壁には窓も幾つか見える。壁の手前に猫たちの居場所が高低差を伴った平台等で構成されており一見シンプルだが合理的な舞台美術。開園前、開園後にはギターを抱えたMCがちょっとしたアドリブを入れてくれる。
 物語はあくまでにゃこたちが中心だが、野良出身の者も居て、その場合かなり複雑な背景を持っているという設定が、今作を極めてスリリングなものとしており、二転、三転する展開や、この猫たちの抱える背景のせいで優しい飼い主までもが危険に晒されているかもしれぬという緊張感を孕み、スピーディーで役所をキチンと生きている演者たちの切れのある演技や、各々の個性を出した演技もあって独特のテンポを生み出しており更に若い人達特有の嫋やかな感性が生み出す軽みすら感じさせてグー。60分と尺は長くは無いが期待を遥かに上回る作品であった。
現象グラデーション

現象グラデーション

Oi-SCALE

サイスタジオコモネAスタジオ(東京都)

2023/08/28 (月) ~ 2023/09/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 林さん、健康に気をつけて。函館山で夜を明かし、明け方山を下っていたら、チロンヌップを見た経験があります。
 By the way,別項でも書いた通り、解釈/・評価は観た者次第。知見やその人の持つイマジネーションや世界観の差で全く異なる評価になる。

ネタバレBOX

 加担とは広辞苑電子版を引くと力を添え助けること、味方になること。というのが出てきた。まあ、一緒になって一つ或いは幾つかの障害に対して力を貸して目的を達する為の心的合意の実践ということになろうか。つまり、今作はOi-SCALE主催自身の窮地を物語っている。Covid-19に端を発した社会の迷走とこれらの迷走が増大させた迷妄はいまだに後を引いている。タダでさえこのようなしっちゃかめっちゃかの中で己が生死を彷徨うほどの大病をしたら? ヒトはその時、何をなし得、何をなし得ないであろうか? 主人公はOi-SCALE主催者自身である。登場人物はその姉(役)、少女の3名。メインは劇団を主宰している表現者である。表現する者が、殊に演劇というジャンルで表現する者が死線を彷徨うような体験を通して何を掴み、何を削ぐか? この問いは厳しいが断行せねばならぬ。下手をすれば時間は残り僅か、かも知れぬ。それが自分の生活空間そのものの中で起こったことか、歌舞く技術によって企まれたものであるかは観た者の判断である。何れを採るかは、己の知見と徹底的に正直に観たことを検証することからしか生まれまい。今作は作家と観客のこのような真剣勝負をその射程に収めている。この精神、描かれた世界が真であれ偽であれ天晴ではないか!
現象グラデーション

現象グラデーション

Oi-SCALE

サイスタジオコモネAスタジオ(東京都)

2023/08/28 (月) ~ 2023/09/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 板は打ちっぱなしのコンクリートのような長方形のスペースだが客席は入口のある短辺を除く三方を高くしてコの字型に囲い椅子を配置。従って出捌けは劇場入口1か所が併用される構造だ。板上は基本フラットであるが薄緑色に発光するコーンが板周縁を取り巻くように配置されているのはいずれの作品も共通。
 ところで、作品が観客に届き、それを観客が受け取った時から作品は観客の解釈そのものである。先鋭的解釈をする者にとっては面白い作品群だ。

ネタバレBOX


 上演順に①「童話が生まれた」②「マテリアルガールと黒猫」③「君の頷く作文」の3編。
① はこれらの中で1番観たい作品だったのだが、事情があって遅れラスト数分しか観ることができなかったので評価はできない。悪しからず。
② はマテリアルガールという言葉に着目した。女優の衣装もそれとなくこのヒット曲を歌ったマドンナの着る衣装のように豪華であり、この曲(Material Girl)の歌詞を分析するまでもなくプラグマティスム礼賛の世の中そのものへの軽妙で痛烈なワンパンチ。そしてそのベースにはモンローの主演映画「Gentlemen Prefer Blondes」の中で歌われた曲(Diamonds are A Girl’s Best Friend)があるとされているから、これらも総て含めて時代の遷移の中に通底する選ばれるという意味で受け身な存在論的弱者から見られたプラグマティックな社会の不条理や、陽明学の『知行合一』などとは真反対の倫理的無価値、思想的死すらを意味して居よう。今作が一見無意味な作品として形作られているのはその為である。
③ 主人公の少女の台詞がポエティックな作品であり、花びらから「induced pluripotent stem cell」即ち「iPS細胞」をとってリプログラミングするならまだしも全くこのように最新の技術的成果を用いず新たな種子を生み育てることが可能であると信じているこの少女の夢と、この少女の幻想の基を作った話をし少女の面倒をみている姉(両親は交通事故で死亡、姉妹2人だけが助かったが妹は車椅子暮らし)などの状況説明を含めつつ、少女がいつも来ている小さな漁港へ釣り竿を持ち毎日のように通う釣る意思など全くない釣り人(釣り針も餌も付けず唯釣り糸を竿の先に付けて波間を漂わせているだけの「釣り人」)のロリコン的片思いや、この釣り人の顔が愛犬だったが既に他界したブルドッグに似ていると、少女の体を這い上がった蟻を取り除いてやろうとした「釣り人」の動作を少女の体に触れようとする行為だと取り少女の体に手が掛けられようとしたその刹那ブルドッグの首輪を掛けた女、その瞬間を逮捕されたと表現する「釣り人」は自ら内面でそのような衝動もあったと認めてブルドッグを演じる男となり果てる等、各々がそれぞれどこかオカシイ人々の間に、少女の集め毎日干していつか種がそこから生まれ育って大きくなりたくさんの葉をつけ、花開くことさえ夢見ている少女に僥倖を齎した。渡り鳥が落としていった糞の中に願っていた種が在りそれが芽吹いて若芽を出して伸びているのである。この様子を少女がたくさんの葉を養生していた入れ物の中に入った女優が演じてゆく。詩的で少し狂った人々が圧倒的に多く登場する中で唯一、姉と育ってゆく植物だけが正常を保っている。然し正常とは何か? を問う作品でもあろう。
血の底

血の底

演劇プロデュース『螺旋階段』

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2023/08/24 (木) ~ 2023/08/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 ベシミル! 華5つ☆ この質でこの観劇料は実に良心的でもある。(追記後送)

ネタバレBOX

 観劇中、ずっと「オィディプス」を想起していた。ソフォクレスの描いたギリシャ悲劇の最高傑作とされるあの作品である。原因は、その救いの無い状況設定とその状況に何とか抗おうとする人間の姿が描かれている点にあった。
休憩無しの2時間半、全く緊張感の途切れない素晴らしい舞台を観せて貰った。螺旋階段らしさの根底も見えたように思う。舞台美術も今作の象徴として造形されているように感じられたのは、全体のイマージュが擂鉢として機能するからだろう。照明、音響の巧みな技術が場面、場面でこの効果を最大限に引き出す点も魅力的だし、役者陣の演技も素晴らしい。必ず気に入る俳優を見つけ出すことが出来よう。(尚、役者は一部Wキャストである)
 螺旋階段の大スタジオでの公演は初見であるが、観客席の段差を大きくとり見やすいうえ機材も良い物を揃えており舞台に集中できる。モギリから会場内の案内など総てに亘ってスタッフの対応も要を得、感じの良い最上級のものであった。
ムッちゃんの詩

ムッちゃんの詩

7どろっぷす

小劇場てあとるらぽう(東京都)

2023/08/19 (土) ~ 2023/08/21 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 今作、導入部も自然で上手い。無論、この物語が世に知られるようになった経緯についても同時に良く分かるようになっているのだ。
 文句なしの5つ☆、ベシミル。楽が結構空いている模様、今作チケットの半券提示で大幅割引があるとか。(追記1回目8.21:02:40)

ネタバレBOX

 敗戦直前、大分県で実際に起こった六つと結核を患う十二歳の少女の余りに純粋で、掛かるが故に尚魂を揺さぶる作品。交流する二人の少女の殊に年少のマコちゃん(六歳)役の演技が正鵠を射ている為、ムッちゃん(十二歳)の深く救いの無い寂しさが極めて鮮烈な痛みを観客に感じさせる。殊に大分への空襲が日を跨いで続き喉の乾いたマコこちゃんが水が飲みたいと泣き喚き駄々をこねた際、ムッちゃんは唯でさえ不足気味の飲料水をマコちゃんに提供する。水の入った竹筒を受け取り一口口に含んだだけでマコちゃんは、竹筒を返してしまう。朗読劇でありながらこの一瞬の不自然な対応を見事に表現した演技は見事なものであった。
 舞台美術はシンプルである。ホリゾントにスクリーンを掛け、物語の内容に沿ったイラストが映し出されるが何れも淡い色使いの繊細さを表現するのに向く水彩画が原画と思われる。画家は岡田 潤さん。板上はフラットであるが、朗読している者以外は腰掛け朗読者の邪魔にならぬように上手、下手に丸椅子が置かれている。
 さて、二人の少女が大分へやって来た経緯であるが、マコちゃんの場合は敗戦前夜、住んでいた京都も爆撃される可能性が高いと判断した大人たちの指示に従いより安全と判断され、親眷の住む大分へ母娘で疎開した。ムッちゃんは横浜が空襲された際、一緒に居た弟が目の前で亡くなり「水が飲みたい」と訴えた弟に何もしてやれなかったことが大きな傷となっている。先に大分に来ていたムッちゃんは、横浜空襲で焼け出され弟を失い、母と生き別れた果てに何かあったらここを訪ねなさいと札に記されていた親戚の住所を頼りに親戚の家にたった独り辿り着いたもののじき労咳に罹ってしまった。その為、暗く、じめじめした防空壕の一番奥の窪みに幽閉されてしまっていた。大人たちは、「あの娘に近づいてはいけない、病気が移る」と子供たちを牽制したが、当時労咳の特効薬は日本になく一旦罹患してしまえば不治の病とされていたから止むを得ない側面があったことも事実だが排除の憂き目をみるのが戦災孤児と考えられる僅か十二歳の少女・純粋なムッちゃんであるとは、何と酷い現実であることか! 今作は、こんなムッちゃんに心を開き、おねえちゃんとして慕ったマコちゃんとの友情を描いた実話を元に組み立てられた作品である。
燦々

燦々

U-33project

王子小劇場(東京都)

2023/08/16 (水) ~ 2023/08/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 役者は全員女性。

ネタバレBOX

所謂Z世代と見受けられる。短編3作品のオムニバス形式での上演だが役柄には男子の役柄もある。因みにZ世代という単語最近よく見掛けたり聞いたりすることが多いが元々アメリカで1960年代から70年代生まれの世代をX世代と名付け次をY世代、そして現在ミドルティーンから23~24歳くらいの人々をZ世代と呼ぶようになったということのようである。Z世代は所謂デジタルネイティブとも呼ばれる世代で、育ってきた環境の中にデジタル機器があり、それらを自由に使いこなす世代という意味で使われているようである。そうは言ってもここにも格差はある。電話網が整備された後、インターネット環境が作られた国々では電話網を構築する為に莫大な費用が掛かっていたが、通信インフラの中でも携帯については開発途上国の多い地域では通信の為の大規模な設備を備えることなく送受信できる設備を備えれば実際に携帯電話やスマホが使えるような技術が拡大して急速に普及したから携帯でのネット環境は20世紀末ほど落差は無いかも知れない。何れにせよ兎にも角にも情報の氾濫する時代に生まれ育った世代の物語という感触を持った。女優陣、皆一所懸命に演じているが、彼女らの感覚から言えば一生懸命なのであろう。その落差は感じた。つまり武士の守るべき所領という具象を持たず、何となく具体的な目標も持たずに頑張るというイマージュのみが空疎にあるような無いような。(この表記もそのアンヴィヴァレンツを表現してみた)
 3作品を上演順に述べておく。1:謝ったら死ぬ病 2:ワンダフルな人生 3:意味不明 3作品に共通しているのは、内実の無いイマージュに翻弄された登場人物しかいないこと。3作目のみ、男子役の台詞には、そのことに気付いている様子が描かれており、役としては男女カップルのこの微妙なずれを照明が見事に表現していたのが白眉であった。
 舞台美術は1点(Aとしよう)を起点として大小の正方形を2段に重ね大きな正方形を1段目に小さな正方形を上段に設えて時計回りにB,B‘、C,C’、D,D‘が平台を使って作られている。AからD’方向へ黒幕が天井から張られ、AからD迄は袖が設けられていて出捌けに用いられる他AからB‘迄矢張り天井から黒幕が垂らされ目隠しになっているのでこの裏側を通って2番目の出捌け、3番目の出捌けはAからD’の目隠しで裏導線を形作っている。客席はD‘からC’の対面とB‘からC’の対面。
 具体的な焦点を持っているつもりになれる我々の世代とは異なり、最初から曖昧模糊としたイマージュしか持たない者が大多数を占める世代らしく表現自体が曖昧模糊としているが、その靄のような生の央を生きる不如意が伝わってくる点で時代を浮き彫りにしてみせた。
十人のエスパーたち の殺人

十人のエスパーたち の殺人

カスタムプロジェクト

調布市せんがわ劇場(東京都)

2023/08/11 (金) ~ 2023/08/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 知とは本来楽しいもの、ことだ。それが実感できる。

ネタバレBOX

  タイトルにもあるように観客参加型の推理劇である。今回は十五周年記念作品とあって力の入った作品だ。というのも役柄の殆どが様々なタイプの能力を持つエスパーたちなのである。サイボーグやロボットと並び子供たちの人気の的となった漫画の多くがこれらを主人公とするものだった。長じたからといって簡単に卒業してしまわない大人をたくさん見掛けるのは何もフィギアの世界だけではあるまい。前置きが長くなったが観客参加型の推理劇なので既に観た我々がネタバレやヒントを与えることになる情報は流せない。このプロジェクトを未見の方の為一応、流れだけを記しておく。入場時に事件の資料を渡されるが資料は合図のある迄開けてはいけない。椅子に置いてあるリーフレットとキャスト等の書かれたフライヤーはみて良い。
 兎に角、限られた時間内で問題を解くという行為自体の楽しさと正解者が何人か出るという実績に見合った面白く、マジにチャレンジできる知的遊戯。贅沢な時間を過ごせる。お勧めの企画なのである。

このページのQRコードです。

拡大