素面  【全日完売御礼!!!】 公演情報 素面 【全日完売御礼!!!】」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
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  • 満足度★★★★

    家族
     敗戦で父権は完全に失墜した。いわば、それまで続いてきた、この国の家族制度の権威部分が完全に堕ちたのである。このことは、人々の人間関係にも変化を齎した。(追記2013.10.7)

    ネタバレBOX

     それ迄、優勢であった父権に対して、母権が台頭したのが、結局は、戦後という時代であったのだろう。少なくとも家族の中心として母的なものを考えている点に、戦後68年を経た、この「被植民国家」の在り様が透けて見える。更に、父の家に、現在居るのは、同居人のあゆ。母ではなく占い師である。つまり、戦後、父権の失墜の後、長く続いた母権も今や怪しい。家族の要を失った登場人物達は、謂わばエパーヴとして漂っているだけだ。苦いスープのような世界の中を。
    物語は、兄、里の借りているワンルームでDVDを見ながら料理番をしている妊婦、桃子のシーンから始まる。桃子は、里の彼女、梨恵の友人である。梨恵は、店長をしているので、客からのクレームがあると休日でも謝りに行かなければならないことがある。休日に里の部屋へ来て手料理を作っていたのだが、クレームをつけて来た客が「店長を呼べ」と食い下がるので店へ行った訳だ。
     だが、これは嘘である。梨恵に桃子の作るようなおいしい手料理は作れないのだが、彼女は梨恵の彼をとった、として梨恵から脅迫され、こんなことをしているのである。梨恵は、兎に角、完璧な彼女を演じたいのだ。
     ところで、里の所へは、人が集まる。友人の幸助は、毎日採れたての野菜を持ってくるし、桃子も梨恵の嘘がバレナイように頻繁に彼の部屋、おいしい野菜を求めて幸助の畑を訪れる。
     おまけに妹の亜美迄、家出をして来た。彼女の手下格の同居人、雄二とエキセントリックで革命的な事に憧れ、ハネているが、少し足りない千陽も一緒である。地方の大学へは、彼らの車で往復しているのだ。亜美の家出には、無論、訳がある。彼女は浮気相手の娘なのだが、成長するにつれて母に似てくる自分自身の肉体から自分自身を追い出したいような地獄に捉えられており、兄が実家を出てからは、ショックアブソーバーを失った父とどのように向き合ったらよいか分からないのである。
    亜美が兄の部屋へ移って来てから、ベッドの下に寝そべっている所へ梨恵と桃子が入って来て彼らの秘密を話している。亜美は、総てを知ることになったが、梨恵が近いうちに、里と同棲を始めたがっていること。結婚も視野に入れていることも知って、梨恵を脅迫。策を弄して父や、最近、同居している占い師、あゆらと一堂に会し食事会を設定させた。無論、梨恵の手料理である。里にとっても、彼女を父とその同居人に紹介するチャンス。おまけに関係者全員揃うとなれば、渡りに船だ。
    だが、この席で、亜美は桃子の作った料理にお茶を混ぜ、味を変えて梨恵に皆の前で作り直しを迫り、彼女の嘘を暴いてゆく。
    シリアスな会食となったこの会で里の性格が空虚に過ぎない、などとシビアな事までが出てくるが。何も空虚なのは里ばかりではない。我ら総てが空虚なのだ、とのメッセージも聞こえてきそうだ。無論、主体性を奪われているからである。

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