自爆! 公演情報 自爆!」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 5.0
1-1件 / 1件中
  • 満足度★★★★★

    とても頭の良いシナリオ
     高校生、教師、モンスターペアレンツ、三つ巴の学園物。世話物に分類されるだろう。歪んでグチャグチャな世の中を若い人たちは、若い人たちの遣り方で良く観ていることが、伝わる内容であり、シナリオである。場面転換を実に効果的に用いることで、多くの効果、作用を齎してもいる。ただ、若者に見えているこの「国」の現実の底に蠢く相互不信の根深さには、暗澹たるものがあるのも事実。最終的には、仄かな希望が無いわけではないが。(追記2013.9.11)

    ネタバレBOX

     舞台開始早々、文化祭の実行委が明日からの文化祭に備えて準備をしている。各クラスでイベントをする為、このクラスでは、学級委員が、実行委員も兼ね準備に余念がない。然し、委員以外のメンバーは、3人来てはいるものの、他は遅れている。おまけにメンバーのうち定時に来ている二人は、ゲームをやったりして、肝心の飾りつけは一切やっていない。委員長ともう一人のメンバーが1時間経って戻って見ると、何も進んでいないので、二人に買い物を頼み、他のメンバーの話などし乍ら、飾り付ける物を作っているのだが、漸く、遅れて、ぼちぼち集まり始めた。別のクラスのメンバーも、自分の所が終わったからと手伝いに来てくれた。そうこうしているうちに、自爆志願の二人がやってくる。うち1人が自爆宣言を読み、回りのクラスメイトに認知を求める。自爆が、一種のメッセージとして認められることが重要だと考えるからである。更に、クラスの仲間が入ってくる。携帯依存の女子、ギャルを目指して奮闘中の仲良し二人組、などである。
     場面は変わって職員室。モンスターペアレンツが訪ねてくる。その母親のことをよく知っている女教師は、既にテンションがめいっぱい上がっている。職員室で、件の母親について好きなことを言っているが、本人が来ているにも関わらず、一切気付かずに悪口をまくしたてる。他の教師は合図を送るのだが、肝心の本人は、一切気付いていない。さて、そこに闖入した母親は、モンスターペアレンツと呼ばれるに恥じない喋りを展開する。凡ゆることを自らの息子の為に正当化するのである。例えば、教師の一人が関西出身で関西弁を使っていると「息子が関西弁を怖いと言っているからそれを標準語にせよ」だの「ハンサムな教師の顔は、生徒が授業に集中するのを妨げるから、整形して、生徒が素敵だと思わないような顔にしろ」だの、無茶な屁理屈を持ち出すばかりか、教師たちは税金で食べているのだから、それらのことを実行するのが当然という論法である。
     そこへ、こんなメモを置いて出かける生徒が居る? と別の教師。メモにはもやしを食べに行きます。と記されている。ギャル志願女子である。二人は、もやしのあとには鶉の卵、その後は、という具合で食べたいものを買い食いしながら、尻取りをして遊んでいる。その尻取りで用いられる単語が、ユニークである。映画の名、スターの名、シリーズものになった映画をそのシリーズご毎に独立単語として扱かったり、喋り方も、実にかったるそうな話しぶりで現代の女子高生ブットビ派とか、渋谷系とかのノリなのだろうか? 「アベノミクスって分かんない」と1人が言うと、「アベのミックスだから首相も総理も幹事長も大臣も皆アベなんじゃない」と答えるなど。こんな会話の合間に、首相が年中変わるね。こんなに変わるのは、誰がなっても同じだからじゃない。などと鋭い指摘が飛び出す。無論、計算ずくで組み立てられた会話なのだが、何れにせよ、リアルな感じがする。
     前半は、大人から顰蹙を買いそうな状況が描かれるが、自爆組が本題に入った辺りから、徐々に学園の空気は、マジモードに入ってくる。最初に、自爆宣言を読んだ男の子は、モンスターの息子で普段から図書館で本を読んだり体育の授業では、見学ばかりだったり、テストの答案用紙を白紙で出したりしているのだが、それもこれも、親が決めた人生行路を歩めと言うばかりで、子供の言いたいこと、やりたいことは総て潰す。大人になることは、人間としての自分の総ての可能性をつぶし、社会に適合すること、という痛烈な認識に追い込まれているのである。これが、彼が自爆に走る原因なのだ。先ず彼は、アロンアルファを用いてもう一つの自縛を実行する。その上で、偶々、このクラスに居た全員を自爆に巻き込むのである。
     彼は、常に人との接触を避け、トイレに籠って食事を摂る。然るに、毎週水曜日には、隣の個室に決まって現れる者があり、矢張りトイレで食事を摂っている。証拠もあるとコーヒー牛乳の空きパックを取り出す。それは、別の組から手伝いに来ている生徒が年中飲んでいるのと同じものであった。当然、彼は自分では無いと否定するが、“しゃめ”で撮った映像証拠を暴露される。そこに映っていたのは、別の組から、手伝いに来ていた生徒であった。その後、自爆志願のもう一人が「でもあんた達はまだいい。自分は、自分自身をすら裏切ってしまったから」と自らの体験を話しだす。それは、中学時代仲の良かった3人組が、高校に入って苛めに逢い、苛められた仲良しと話したり、関わったりすると自分迄苛められるので、彼女との関係を断つに至った陰惨な事件であった。苛められた娘は、現在、精神病院に入っていて、事件以来時間が止まってしまっている。彼女は、仲良しだった二人に手紙を寄こす。それは、毎回同じ内容なのだが、定期的にずっと届くのである。自縛女子は、実行委の女の子に振る。その子こそ、その事件で苛められていた娘を精神病院行きにした人間であったのだが、彼女はその事実その物を認めようとしない。これらの事象を携帯に撮り、写メで送ったりムービーに撮ってネットにアップしたり、ツイッターで流したりしている女子が、携帯依存を暴露されるなど、各々が各々の隠しておきたい事実を暴かれることによって、己自身を深化させてゆく。
     これらの挿話の合間には、最も実践的な教師と終には退学、後に傷害事件を起こした生徒の話が、点描される。不良少年は、親からも見放され、学校にも来なくなっており、校長以下、件の教師以外全員が、退学の方向で動いていた。実践教師は、彼の心の傷みを汲み憂さ晴らしに喧嘩を仕掛けては他人を殴る生徒に、他人を殴りたくなったら自分を殴れ、、お前が殴りたくなった時には何時でも俺を呼び出せ、と自分を殴らせる。その代わり、教師は生徒に幾つかの約束をさせた。教師以外の人間を殴らないこと、できれば学校に出てくること、一日一行でもいいから本を読むことなどである。生徒は、段々、教師を信じ始め、終には教師を殴ることも殆どなくなり、学校にも顔を出すようになったので、教師は自分の愛読書を生徒に渡し読むように勧める。生徒は、それを受け取ったが。生徒にかまけて自分を疎かにした、と教師は妻から離婚を迫られ、別れる羽目になった。直後、生徒が他人を殴って、またぞろ、退学問題が浮上、流石に教師も自分がどれだけ生徒を庇ってきたか、どんな思いをしてきたかを初めて述べ、生徒を殴る。生徒は見捨てられた、と考えて二度と学校へは戻らなかった。後で、教師が入手した情報では、本を読んでいた生徒が不良にからまれ、本を取り上げられたことから喧嘩になったこと。生徒が本を取り返したことが判明するが、時、既に遅し。纏めると、このような話が、各挿話の合間に演じられているのである。この構造も見事というべきだろう。閑話休題。
     現在、最も深刻な問題の一つである苛めを真正面から取り上げ、加害者、被害者と被害者の友人らとの関係を通じて、被害の凄まじさ、グロテスク、非倫理性等々、皆が向きあわねばならない問題を問い掛けた。チャラけた様子をしていたギャル志願者二人は、学校から抜け出し、様々な物を食べ歩き、しりとりをしながら、実は、自殺志願者であった。この二人の受け持ちは、金八先生の大ファンで熱血教師なのだが、実践経験は浅い。その先生の受け持つ生徒だった。学校中が大騒ぎになり、彼女達が何処へ行ったのか探される。と、屋上に上って飛び降りようとしている二人の姿を発見。何人かが止めに入るが、彼女たちの心には届かない。最も実践的な先生が、自分の欠点も晒しながらの名演説をぶって彼女達の自殺は止めることが出来たが、モスキートトーンという大人には聞こえない周波数の音を放送質から流したことも効を奏したのであった。雄弁は、銀、沈黙は金という古い格言が、大人達には突きつけられたわけだ。ここで、描かれたのは、凄まじいまでの世代間ギャップとディスコミュニケーション。決定的な原因は、無論、若者の大人への絶対的不信感だ。唯一、救いがあるとすれば、大人には聞こえなくなってしまったモスキートトーンが、若者達には共通のコミュニケーションになる可能性が示唆されていることである。

このページのQRコードです。

拡大