満足度★★★★
爽やかでした。
思っていたより爽やかで素敵なお話でした。
エゴ・サーチって聞くとネットでの悪い部分を思い浮かべてしまってました。
爽やかと思えたのはキジムナーの存在があったからかもしれません。
話の構成や演出は好き。
ワクワク、ちょっとハラハラしたしあっという間の2時間でした。
満足度★★★★
ネットの中のもう一人の私
「エゴ・サーチ」とは「インターネット上で
自分の本名やハンドルネーム等を検索する事」である。
他人からの評価を気にするのが人の常、誰しも
エゴ・サーチをやった経験があるはずだ。
試しに拙者の本名をエゴ・サーチしてみた。拙者
自身のFBが紹介されるだけ。同姓同名の人物も
ヒットしない。珍しい名前らしい。悪い評判が無く
安心した反面、良い話も無いので面白くない。
影薄いなあ、と少し落ち込む。
この物語は、一言で言うと「ネットという仮想世界と
現実の世界とが混沌と入り混じった中、善意と悪意に
翻弄される人々を描いたミステリー」だ。
主人公・ケンジは、30前の小説家の卵。
彼が書いた読者の魂の奥底にビシッと響く熱く美しい
短い文章が女性編集者の目に留まる。彼の才能にほれ込んだ
彼女はケンジに小説を書いてみないか、と声をかける。
彼には漠然とだが書きたいものがあったので、
彼女の依頼を引き受ける事にしたのだが、筆はなかなか前に
進まない。
小説は、一人の女性が沖縄の離島に降り立ちキジムナーと
呼ばれる妖精と出会う、という導入部でストップしていた。
ある日、女性編集者からネット上でケンジのブログを
見つけたと聞き、エゴ・サーチして見てみたが
彼自身それを書いた覚えが全くない。
同姓同名の人物が書いているのかと思いきや、作者の
プロフィールを見ると、ケンジと生年月日、
出身地、経歴に至るまで全てが同じであった。
ブログには、昨日ケンジがハリーポッターのDVDを
観たと書かれていたが、実際彼は全く観ていない。
日々の細かい内容は、彼のあずかり知らぬ事ばかり。
誰かのイタズラか?だとしたら何の目的で?
彼はこのブログの作者を探り出そうと決意する。
物語には他にも、「ネットであなたの夢を叶えます」と
謡う怪しいベンチャー企業の経営者、その宣伝文句に魅かれ
ネットでの成り上がりを目指すフォークデュオ、ネット上に
恥ずかしい写真を拡散させられた苦い経験を持つOL、
塩○瞬のように出会った女性を手当たり次第口説きまくる
イケメン等が登場する。
それぞれが、我々観客と同じようにネットで見せる自分と
現実世界で見せる自分の二面性、会う人ごとに違う自分を
演じ分ける多面性に苦しんでいる。
物語が進むにつれ、一見何の関係もないこの身に
覚えのないブログと小説の中の女性とキジムナーとが、
そして全然面識すらなかった各登場人物達が、
複雑にもつれた糸が解けるかのように繋がっていく。
そこで、ケンジに隠された驚くべき過去が明らかに
なるのであった。
果たしてこのブログは、誰が何の目的で作ったのか?
ブログと小説の中の女性達との関係は?
ケンジの隠された過去とは?
拙者は当初、ケンジに悪意がある人物が彼になりすまして
ブログを書いているのでは、と推理した。
ツイッターで有名人になりすました偽者が、ある事
無い事を呟き、本人のイメージダウンを画策したという話を
何度となく聞いたからだ。、
ネット上を跋扈している自意識が肥大化し、被害妄想の塊の
ような連中が、ケンジの何気ない普通の言動に勝手に
傷付き、怒り、一方的に報復しようという秘密の企て
なのではないのか。
逆に、ケンジには隠された悪の顔があり、その被害者が
彼を陥れるために仕掛けた罠なのではないのか。
拙者は色々と先行きを予測してみたが、
この物語はそんな陰気な展開にはならない。
観客が考える展開を、演出と脚本を担当した鴻上尚史さんは
軽く飛び越え、物語はもっと奥深く遥か彼方に進展する。
言うまでもないがネットはあくまでも道具。邪気のある者が
使えば凶器になるが、懇情のある者が使えば、良い方に
無限大の可能性が広がる。
ネットには、時代や場所を越えて人と人とを結び付ける力が
ある。あの人に自分が伝えられなかった思いを、
自らの本当の気持ちを、時空を越えて届ける事が出来る。
その思いは、時として人の心を激しく動かし、人生をも
変えてしまう。
この物語のラストは、ネットの持つそのような大きな
可能性によって、それぞれの登場人物達が、
これから生きていく道を見つけ、新たなる一歩を
歩む勇気を振り絞っていく。そんな彼らの姿に観客は
心を鷲づかみにされる。
同時に、仮想社会と現実が複雑に絡み合い真実が
見えづらい今の時勢の中で、ネットがあろうと無かろうと、
いつの時代、いかなる場所でも人間が生きていく上で
大切なものを気付かせてくれる。
昨今自意識過剰な人達が大騒ぎしているネットを舞台に
した物語で、これほど清々しく心揺さぶられるとは、良い
意味で予想を遥かに裏切られた作品に出会えた事に幸運を
感じずにはいられないのであった。