満足度★★★
上野ストアハウスで,舞台『結晶物語』を見た。
上野ストアハウスで,舞台『結晶物語』を見た。この作品は,少女マンガによったものらしい。結晶作用ときくと,スタンダールのものが有名だ。恋をするときには,そういったことが起こる。ただ,この舞台では,結晶作用そのものが問題でなく,感情が結晶になっていき,妖怪が自由にその感情を人間から取り去ってしまうことができるといったものだった。というわけで,感情そのものも,恋などに限定されない。自分の妹に何か怪しげな誘惑をしたのでないかと,兄が怒り狂う。妖怪に跳びかかろうとすると,彼は,怒りの結晶を見事に除去され,ただのおとなしい男になっていた。
恋は,いつも美から始まるという。スタンダールによれば,その後,相手の欠点が気にならなくなるが,ときめきは,まず相手に美を求めるものだという。私の読んだ『赤と黒』『パルムの僧院』などもそういう傾向にある。演劇では,シェークスピアが貢献した。その事実はあるが,フランス心理小説などを,何ケ月もかけて読む。その中で,作者と対話し,自分なりに何かを得ていく,感じとっていく。そういう長編の世界文学の世界には,別の価値があると思う。シェークスピア演劇の二時間は,所詮その中での感動であり,ロマン・ロランとか,チボー家とか,あるいは,プルーストの世界とは異次元になろう。
そのようなことを考えると,ときには,難しい文学的世界を演劇にいつも期待しても,限界があると思わざるを得ない。ならば,コントでも,マンガ系でもいいので,楽しい夢のある演劇も良いと思う。そういう意味では,ときどき迷い込んで,あえて,小劇場で時間をつぶすのも悪くはない。ダンスも楽しいし,キャストも若く美しいメンバーばかりだ。あとは,その世界を楽しむことだ。